第4話 お風呂への誘い
お風呂への誘い
学校が終わった。ボクが移住組を率いていくが、帰りは向日葵も一緒だ。
鳥山家は学校から反対……までではないけれど、方角がちがうので一緒に帰ることはない。
「今日の授業で、分からないことがあったから、教えて欲しい」
メイプルがそういいだした。木之元家は両親の経歴をみても、優秀な家系と思われるけれど、それをうかがわせるのはメイプルだけ。マロンは勉強より運動というタイプだ。
木之元家の末っ子、ポロニアも勉強はできる方だけれど、ここでは自分で努力するしかなく、今のところその片鱗をうかがわせる場面はない。
メイプルも中学生になって、色々と思うところもあるようだ。
「感心、感心。ボクの家にくるかい?」
「行く!」
力強く答えたメイプルに、マロンが少し口をとがらせて「私も……行く」
木之元家がこの村にきたのは、天空家と草薙家より、三年遅れていた。
だから幼馴染、という感じではない。でも、村中で「お人形さんがきた!」と話題になった。
それは母親の血を濃く継いだこともあるだろう。当時、まだよちよち歩きだったポロニアなど、まさにお人形さんだ。
木之元家は、新築の一戸建てに暮らす。
それは父親の職業も影響する。無医村だったこの村に、医師免許をもつ子育て世帯がきてくれる……ということでも注目を浴びた。村が新築一戸建てを準備した理由もそれだ。
今は隣村にある医院で働くけれど、いずれこの村で開業してくれることを期待されている。
天空家は古くても、広さは村で一番だ。元は裕福な庄屋だったこともあって、二階建てだし、かつて土間だったところをキッチン、ダイニングに改造し、その広いダイニングには9人の子供たちが集まっても、まだまだ余裕がある。勉強をする組はそこに集まった。
つづき間の、かつて和室だったところをリフォームしてリビングとしたところに、向日葵以下の勉強しない組がいすわる。
向日葵など、ソファーに胡坐をかいてすわるので、スカートの中が丸見えだ。ただし、どうせ見せショーツであり、本人としては見られたところで痛くも痒くもない、といったところ。
「ごめん下さ~い」
そういって入ってきたのは、神乙女と、津紅実の二人。メイプルが連絡をしておいたようだ。
「家の手伝いは大丈夫?」
ボクがそう訊ねたのは、鳥山家はこの村では唯一の、商店を営むからだ。コンビニすらなく、そこが唯一の買い物の場だったので、品ぞろえは充実する。ただ、それが家業というわけではなく、両親は別の仕事をしており、神乙女もよく店番をする祖母を手伝っていた。
「大丈夫。おばあちゃんが『行ってきなさい』って」
勉強をする……という理由なら、祖母もダメとは言わないはずだ。
「翼、お風呂を沸かしてくれよ」
急に向日葵がそんなことをいいだした。
「まだ早いだろ?」
「どうせ沸かしていたら、いい時間になるじゃん」
天空家と、草薙家は家自体が古いこともあって、五右衛門風呂だ。
そこで、昔から草薙家はうちにお風呂をもらいに来ていた。
それは天空家のお風呂が、五右衛門風呂といってもお湯を沸かす釜と、湯船が別れているタイプだから。その分、薪は多くつかうけれど、湯船も広くて大人でも二、三人が一緒に入れる。
火加減を調整する必要はないけれど、釜に流す水を調整する。逆にいえば、それで最適な湯加減となるのだ。しかも釜からお湯をすくってつかうので、湯船にためたお湯が減ってしまうこともない。
草薙家がうちにきて、子供はみんな一緒にお風呂に入るのが常だった。
「仕方ない……」
ボクも渋々立ち上がった。湧くまで時間がかかるのも事実だ。外に回って、焚口に薪を入れ、火をつけた。五右衛門風呂だと外風呂の家も多いけれど、ここは内風呂なので、それも子供たちには安心だ。ちなみに、草薙家は外風呂であり、その意味でもうちに来る理由があった。
ダイニングにもどると「翼君がいないと、勉強がすすまないよ!」と、メイプルに怒られる。
奎に勉強、お風呂、どちらかを任せたいが、彼女はそういったことを一切しない、そんなポリシーをおもちだ。
「あ、みんなにお茶をだしておいたよ」
神乙女はこういう場で、母親的なお世話を焼くことが多い。それは年長者で、他にそれをする人がいないから……。
「悪いな。足りた?」
うちは来客が多いこともあり、麦茶は常備する。水は井戸があり、沸かさずともおいしい麦茶ができることも、わざわざジュースを買わない理由だ。
「うん。でも、なくなっちゃった」
神乙女は少し大げさにボトルをふって、なくなったことを示す。でもそうやって、激しく上下させると、それは彼女のたわわなものも相まって……。
そんな神乙女をじとっと見つめていた向日葵が「お風呂が湧いたら、また昔みたいに、みんな一緒にお風呂に入ろうか? なぁ、神乙女」と言いだした。
そう、神乙女ともボクは一緒にお風呂に入ったことがある。それはまだ小学四年生のころ……。
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