第3話 体を育む

     体を育む


「よし、次は体育だぞ」

 そういうと、先ほどまで眠りこけていた惣子先生が、急にやる気をだして教室をでていく。

 みんなは体操着に着替えるのだけれど、この教室で、男のボクがいるのに……これも日常である。

 勿論、下着姿になるわけではない。小さい子たちは、プールのときにつかう頭からかぶる大きなタオルで体を隠して制服を脱ぎ、体操着をかぶった後でタオルを外す。年長組は制服の上から体操着をかぶって、その中でボタンやホックを外し、後から制服をとり外す、という奇特な技をつかう。

 カーテンをひいて外からみられないようにするのだから、ちがう教室に行けばいいし、逆にボクが気を利かせて別の教室に移動しようとするのだが、向日葵からいたく怒られる。

「体育の始まる時間が遅れるでしょ!」と……。運動をしたくて、したくて堪らない向日葵が煽ってくるのだ。

 ボクは一応、教室の片隅に移動し、こそこそと後ろをむいて着替える。いくら奇特な技をつかっていても、ちらっと覗くそれはやっぱり刺激的だし、悪いとも思うからである。


 体育といっても、勿論みんな一緒だ。だから例えばバスケなど、球技となるとチームを組んでも、年下の子らのレベルに合わせないといけない。

 それでは物足りない向日葵は、ボクにワンオンワンを仕掛けてくる。一対一なら、思いきり勝負できるからだ。

「いただき!」

 ボクの脇をドリブルで抜こうとするので慌ててボクも手をだすけれど、ぶつかったのは……。むしろ向日葵がわざとぶつけてきたのは、彼女の胸だ。ボクが手をひくと分かっていて、そうするのだ。当たったけれど、弾力ではじかれたというより勢いで押されただけ……。

 ただ抜き去るときの、してやったり顔がまたうざい……。

「甘い!」

 でもボクの後ろ、死角からとびだし、向日葵のボールをスティールしたのは、惣子先生だ。

 全員で9人しかおらず、教師である惣子先生もチームに加わるのが常だ。ボールを奪った先生は、すぐ「津紅実ちゃん!」と、小学四年生の津紅実にパスをだす。たどたどしい動きながら、津紅実はドリブルをはじめる。けれど、誰もそれお妨害したりはしない。

 年上は、年下に本気をださない、という暗黙のルールがあるのだ。津紅実より年下なのはポロニアだけ。でも彼女はサイドラインぎりぎりのところに立って、傍観するばかり。


「いけ~、津紅実ちゃん!」

 シュートまでいくけれど、ゴールにとどかずに空過する。それをもどった向日葵が空中でキャッチ。

「速攻! マロン!」

 向日葵のチームは神乙女、マロン、奎、ポロニアで、ボクのチームは惣子先生、メイプル、菫、津紅実。

 これがチーム分けとして、ほとんどのケースで当てはまる。運動神経のよい向日葵と、次に運動が得意なマロンが組んで、先生とボクのいるチームと対抗する。マロンを止められそうなのはメイプルだけ。でもそのメイプルを簡単においていくぐらい、双子でも能力に差がある。

 菫はのんびり、おっとりで運動は〝超〟がつくほど苦手。津紅実はふつうだけど、年齢差でマロンには対抗できない。

 でも、マロンはそのまま自分でシュートまでいかず、神乙女にパスをだした。

 神乙女とボクは同い年なので、ボクがガードできる。

「いや~、翼君、待ってぇぇぇぇッ!」

「何もしていないけれど……」

 神乙女は一人で焦ってドリブル風なことをしてから「えいッ!」とばかりに、眼をつぶってシュートを放った。

 そんなものが入るはずもない。ボードにあたったリバウンドを向日葵と、惣子先生が奪い合う。

「はい、ジャンプボール」

 ボクは鼻息も荒く、興奮してボールを奪い合っている二人の間に、半ば強引に割って入った。もみくちゃ……揉んではいないけれど、くちゃっというか、くにゅっという感触はあった。

 審判はボクがする。向日葵も、惣子先生も熱くなるタイプで、冷静でいられない。

ボクだけは周りが女の子ばかりで、気をつかっている分、冷静でいられる……という話である、


 体育が終わる――。

 教室にもどった向日葵は、汗で濡れた体操着をすぐに剥ぎとり、上半身はブラだけになった。といってもスポーツブラなので、決して色気があるわけじゃないけれど、そのまま団扇で上半身を扇ぎだす。

 向日葵を信奉するマロンも同じようにスポーツブラ姿になるし、妹の奎はそもそもボクに明け透けで、三人がブラのままくつろぐ。

 一方、神乙女やメイプルは、体操着の下で大きめのタオルを体にまくと、体操着を脱ぐ。それで胸元は隠せるけれど、ブラの肩ひもは隠しきれない。神乙女やメイプルは、標準と比べ……というか、ボクの知るそれが標準といえるかは分からないが、胸は大きめだ。

 そのためスポーツブラでは収まりきれず、ふつうのブラをする。だから余計に隠すのである。

 でも、時おり……「きゃッ‼」

 タオルが外れてはらりと落ちる。体操着の中で巻くので、ちゃんととまっていないことが多い。

 明け透けな向日葵たちより、チラリズムやハプニングエロの方が、ドキッとはするもので……。

 体育のたびに、ボクは大変である……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る