第2話 ボクらの日常
ボクらの日常
ここはとある田舎の、恩納村――。
例に漏れず、過疎に悩み、町おこし協力隊として若い子育て世帯の移住をつのったのが十年前。
そこに集まったのが天空家、草薙家、木之元家の三つ。
まずボクの天空家が募集に応じ、子供が三人いたこともあり、元庄屋だった大きな家を安く買いとる形で、そこに暮らすこととなった。
少し遅れて草薙家がつづく。
しばらく経って、木之元家が村にやってきた。
ボクの父親は村役場で働き、家は民泊をしている。民泊、といっても観光の目玉もなく、珍しく村に宿泊客がきても泊まる場所がないから、部屋数に余裕があるうちがそれをする。
草薙家は古民家で暮らし、農家をする。主に果樹で、一部で畑もするけれど、村の田んぼのお手伝いに駆りだされることも多いそうだ。
木之元家は父親が医者をしており、隣町の医院で働き、母親は外国語を生かした英会話教室や、海外への情報発信などもふくめ、色々とそのスキルを活かして活動している。
移住組の朝は忙しく、そこでうちの母親が子供たちの朝食づくりを買ってでた。だからみんな集まってくるのである。
「ほら、みんな行くよ」
ボクがみんなを率いて、学校まで連れていく。
姉の昴はもう高校一年生で、二時間かけて離れた県立の高校まで通う。次に年長の向日葵は中学三年生で、もっとも年長だけれど、クラブ活動と称して朝早くに学校に行ってしまう。
そこで三番目の年長であるボクが、小中一貫の学校まで、年下の子供たちをつれていく。
ちなみに、メイプルとマロンは中学一年生、菫は小学五年生、奎も五年生、ポロニアは三年生だ。少し離れて、妹の張は保育園に通っているので、母親が送り迎えをしている。
恩納学園は山の中腹にある、木造二階建ての古ぼけた校舎だ。県の登録文化財にしよう、という話すらあるほどの年季の入りようである。
教室はそこそこあるけれど、今では中学生、小学生とも1つの教室で、まとまって授業をうける。
教師も二人だけ。でも授業に応じて手伝う人もいて、木之元家の母親も英語の授業ではヘルプに入っている。
「おはよう」
先に教室にいたのは、鳥山家の子供たち。鳥山家はこの村の出身としては唯一の子育て世帯だ。むしろ鳥山家の子供たちが不憫、として村おこしで移住者をつのったという側面もあったそうだ。
鳥山家の長女は中学二年生、神乙女――。次女が小学四年生、津紅実――。三女が保育園児の伊洲香――。
移住組と、在来組の四つの家を合わせて、12人の子供がいても、ボク以外は全員女の子。
今は小中合わせて9人の子供がいるので、ボクは8人の女の子に囲まれていた。
「いや~、疲れた、疲れた」
向日葵がスカートの下にジャージを穿き、そのスカートをぱたぱたと仰ぎ、顔に風をおくりながら教室に入ってきた。
運動部といっても、勿論チームは組めないので、向日葵は陸上部を立ち上げ、一人で練習する。
元々、運動神経がよくて活発だったけれど、全校生徒が10人もいないこの学校で部活動なんて、諦めていた。
それが三年になって突然一人で陸上部を立ち上げると、県大会を目指して頑張っている。
「ほ~い。オマエたち、ホームルームをはじめるぞぉ~」
向日葵の後につづいて入ってきたのは、首にタオルをかけたまま、疲れた顔をするこの学校で唯一といっていい教師の物部 惣子――。三十路というと怒る、二十代の女性教師だ。
基本的に、授業といってもみんな学年がちがうので、同じように授業をうけるわけではない。
小学生も、中学生も与えられた問題集をこなすだけ。要するに自習をする。勉強を頑張るかどうかは自分次第。成績だって、他の人と比較することができない。だってみんな学年がちがうのだから、相対的な成績というものはこの学校に存在しないのである。
でも、菫と奎がボクのところに近づいてきて「ここ、教えて」と声をかけてくる。
「惣子先生に……」と応じながら、教卓をみると、朝早くから向日葵の部活動に付き合っていたためか、大口を開けて惰眠を貪っている。ボクは「向日葵に聞けよ」とは言わない。
だって向日葵は、運動神経はよくても頭の方は……だからである。
基本的に、天空家は頭がよい。姉の昴も、この自習しかしていない中学校でも進学校へとすすんだ。
ボクも年下の子ばかりか、年上の向日葵にまで勉強を教える。昨年まで、昴がしていたことが、彼女が中学を卒業してボクにお鉢がまわってきた形だ。
奎にも恐らくその遺伝子が備わっているけれど、彼女の場合、ちょっとベクトルがちがうというか、突拍子もないことを言ったり、やったりするので『変人』の評価を賜っている。
「おぉ、そういうことなんだね!」
勉強を教えても、理解が速くて助かるけれど、それが本当に理解できているかはまた別の話で……。
一方、同じ小学五年生の菫は、姉の向日葵が運動神経を全部もっていってしまったのか、おっとり、のんびりとした性格だ。
ボクが教えても、ぽうっとボクの顔を眺めるばかりで分かっているやら、いないのやら……。
ただ、こうして座学をしている間は、まだよい方で……。
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