これで生きていく
――どれがそんな絵を見たいと思うんだ!
――少しは自分で考えたらどうだ
親父は毎日のようにそういって俺の絵を指導する。
世界的にも有名な芸術家である親父の影響もあってか俺は物心ついたころから筆を握っていた。
親父は俺にも芸術家の道をたどってほしいらしく、小学生のころから厳しく指導されてきた。
芸術に妥協がなく、気に入らなければ何度もやり直す。そうして成果を出してきた親父は俺にとって一番のあこがれの存在である。
だが最近、少しずつ絵を描くことがいやになって、苦痛を感じるようになってきた。小さい頃のあこがれに押しつぶされ始めた気がした。
そんなある日、親父は俺の絵を見るや否や「今のお前は絵を描くべきではない」と言われた。俺はついカッとなって「俺だって、もう描きたくねぇよ!」と叫んですべてをぶちまけた。
その日から俺は筆を持たなくなり、親父とは言葉を交わすこともなくなった。
◇ ◇ ◇
あれから数週間なんとなく俺は物置部屋に物を取りに行くことになった。
物置部屋と言いつつもほぼ親父の作品の置き場になっていて壁全面に親の絵がかけられていた。できるだけ目に入らないようにしていたが。一枚の絵が俺の目を引いた。
それは親父の作品を模写した俺の絵だった。俺は無性に腹が立ってきて。その絵を破り捨てた。それだけでなく、親父の作品もなにもかもすべてを破っては捨ててしまった。
そこに残ったのは『親父の作品だったもの』とただただ白い壁。
俺は胸の奥から湧き出る情熱と衝動が収まらず、その白い壁に絵の具を思うがままに塗った、「これが自分だ」と叫ぶように描いた。冷静な自分などどこにもなく、感情に従ってえがいた。
数時間後、俺はすべてを出し切った挙句に床に倒れては、満足気に笑っていた。
親父も壁に塗られた『俺』を見て笑っていた。
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