消しゴム。

『あと…他に用事ある?』


部活が終わって、部誌を書いてる時、君はいつも俺にこう聞く。

マネージャーの仕事は、もう終わっているから、引き止める理由は見当たらなくて…でも、『無い』と言ってしまえば、君は少し下を向いて『じゃあ、お疲れ様でした…。』と帰ってしまうだろう。


こういう時、『一緒に帰ろう、待ってて。』と言える間柄であれば、こんなに悩まなくて済むのにね…。


言えば良いのに、なんか…上手く言えない。

道も暗くなって心配だし、あとわずか、ほんの少しでも、一緒にいたい。だから、送るよと言ってしまえばいい…。


いつか、それができたら…。願うばかりの意気地なしの悪あがき…は用事を作るしかない。


「あ、あとあの…備品の管理表チェックは…?…もう終わってるの、さすがだね…。」


「じゃぁ、じゃあさ、明日の練習メニューは…?…それも、終わって…あぁ…そっか…。」


「じゃあ、えと、部誌!部誌…は、今…俺が書いてる…ね、うん、そう…そうだった…。」


わけのわからない提案をし続ける僕に、彼女はくすくす笑いながら、次を待ってる。

もう、ないか、なんか仕事…仕事になるもの…。

ふと、部誌の上に転がる消しゴムが目に入る。


「じゃっ…じゃあ…消しゴム係!」


…馬鹿じゃないの、何、消しゴム係って?ほら、彼女だって苦笑いだよ…。

情けないついでに、もう…よくわかんない、説明をする。


「あのさ、俺…消しゴムかけるの苦手で…気をつけて消しゴムかけるんだけど、関係ないとこ消えたり、紙にシワが寄っちゃったりするんだよね…だから、その、俺が書いてるとこ、間違ったらさ、消しゴムで消す係になって?器用そうだから、上手かなって思って…。」


後半は最早消え入りそうな声になってしまった…。恥ずかしさで、いっそ俺を消しゴムで消してほしい位だ…。


「…なんてね、それぐらい自分でやんなよってね…はは…冗談、もうあとは俺やっとくから…。」


『いいよ。』


ほら、いいよって、そりゃそうだよね、苦笑いでしょう、って、はっ…いいよって言った?!ほんとに?


頷く彼女は、俺のそばで消しゴムを手に取る。


『いつでも良いよ。』


少しいたずらっぽく笑う彼女は、俺のそばに椅子を持ってきて、腰掛けると部誌を覗き込む。天然…?それとも…わかってノッてくれてんの?てか、近いです…。書き間違い…逆に増えそう…。


律儀に消しゴムを持ったままの、彼女の横顔…。

集中…集中しろ…彼女の帰りが遅くなっちゃうだろ…。

これって、間違えずに書き切れる方がいいのか…間違って消しゴム係りの仕事を作った方がいいのか…。





…出来上がった部誌は、いつもより平仮名が多めで、次の当番に「お前もう少し漢字書けよ?」と言われる始末だった。




…部誌を書く日、彼女は決まってこう聞く。



『消しゴム係…する?』








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