ハンドソープ。

「さて、問題です。どこが違うでしょうか?」


そう聞く彼女は、その先を、俺が答えられても答えられなくても、いつも嬉しそうだ。


よくあるところの、私のことちゃんと見て!なんで気づいてくれないの?なアピールじゃなくて、ただその先にある答え合わせを楽しみにする彼女のそれは、意外と心地よかったりする。


俺が上手く正解に気づいても嬉しそうに、「そうなの!それでね…。」とそうなった流れを話すし、俺がわかんないやと降参すると、「やった!わかんなかったか〜。あのね…。」と常に隣にいる俺に、こっそりと微かな変化をもたらしたことに満足そうに笑う。


…可愛んだよな。


さて、今回の質問…どこが違うのか、ですか…。

…前髪…はこないだ切ったばっかだし、服は、もうお気に入りの部屋着になってるし…下着…ってことは、ないよな。さすがに…。大歓迎だけども…。

いや、メイク…ももう、帰ってきて落としちゃってるしな…。

なんだろ?ランチがお気に入りの店でとても満足でした…的な…?いや、さすがにそれはわかんねぇな…そういう感じの無茶振りはないはず。


これは、降参…かな。

うん、降参。わかんないや…どこが違ったの?


は?「ハンドソープを変えました。」?!…それは…わかんないわ、いや、洗面所行けば気づいたか…でも、変えたのついさっき?じゃあ、わかんないわ、それは難問だわ。


…気づくかと思った?なんで?

匂いが、違うから…?そんな違うの?ここからじゃわかんないけど、どれどれ…。

んー…なんか…チョコ?甘い匂いが微かに…。


顔の前に差し出された両手に鼻を近づける。

わかるような、わかんないような…。

その両手を、そっと包むようにして引き寄せてみる。さらに鼻を近づけると、なんとかわかるくらいだ。


で、そのチョコのハンドソープは…どこでそんなん買ったの?他にも種類あんの?面白そうじゃん。


両手を引き寄せて手の匂いを嗅がれてることに、急激に恥ずかしくなったのか、彼女の顔は真っ赤だ。少しあさっての方を見て、「会社の新人の…男の子が、ノベルティで作ったのを、サンプルで女子社員にくれたの…。」と答える…。


…へぇ…男の子…。知らないヒトから物もらっちゃだめって教わらなかったかな…?


「知らなくないもん、それに私だけがもらったんじゃないもん…。」とね、ほぅ…。


俺も心が狭いなぁ…と思うと同時に、いたずら心に火がついた。


まだ手のうちにある、小さな両手。

その手のひらを、舌ですくう。


「やっ…舐めっ…。」あさっての方を見てた彼女が慌ててこっちを向いて、両手を引き抜こうとする。…逃がしませんけど?


なんで?!と聞く彼女の慌てようが可愛い。

いや、ほら、こんなにチョコの匂いするならさ、味もすんのかなって思って。


「するわけないじゃんっ…。」って…わかんないじゃん。もしかしたらって思って。

「手のひらなんて、汚いかもでしょ?!」って?いや、だって、それこそハンドソープで綺麗に洗ったばっかりでしょ?大丈夫なんじゃない?


まぁまぁ…そんな怒んないで?ほら、じゃあ、もう一回洗いに、行こ…ね?


両手は離さず、そのまま洗面所に向かう。

離せば逃げそうなカオしてる…。


彼女を洗面台の前に、そして後ろから両手を挟むようにして、自分の手を添える。

あ、これか、ハンドソープ。パッケージも可愛いな…。

ポンプを押せば、チョコの匂いが広がる。

これ、洗ってる最中が、一番匂いがわかるな…。

丁寧に洗って、すすいで、タオルで拭いて…なんか顔熱くない?熱でもある?


「誰のせいだとっ…。」って、ごめんね、俺のせい。


さて、俺からも問題です。今日何月何日だっけ…?あさイチで俺にチョコくれたよね?


そ、嬉しかった。で、今日帰ってきてから食べんの楽しみにしてたのにさ。他の男からチョコ絡みのもの貰ってくるわけ、彼女が。

ちょっと、いじわるしたくなった。

ん、いいよ。俺こそ、ごめんね。


…でも、これ凄いな。洗ってるとチョコの匂いめちゃくちゃわかる。手しか洗ってないのに、全身チョコの匂いするみたい。


はい、というわけで、もう1問。

本日2月14日は、バレンタインデー…ですが、バレンタインを迎えたチョコの末路は…?


「…食べられる…?」


はい、正解。

というわけで、チョコの香りさせてるそこの君。

覚悟は…できましたか…?

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