3段カラーボックス。
「楽しかったね~。家具見に行くのってなんかワクワクしちゃうよね。」
彼との家具屋さんめぐりデートを終え、同じ家に帰る。もう、どっちかの家にお泊り、じゃないことに、少し照れてしまう。
私たちは一緒に住み始めたのだ。
「ね、今日買ってきたのって、いつ組み立てるの?」
「大きいのは配送にしたけど、1個は持ってきたでしょ?組み立ての…。」
「そう、それ!3段カラーボックス。…でも、なんでカラーボックスって言うんだろうね…?」
「売り始めた時はもっと派手なカラーの3段ボックスだったらしい…ってなんで知ってるの…?凄いね?」
私ばっかり喋ってる…ちょっとテンションあがりすぎ?でも、彼は穏やかに表情で語る。
喋らないわけじゃない、言葉数が少ないタイプなだけ。
「…脱線した、そうじゃなくてね、あのそのカラーボックスを、いつ組み立てるのって聞いてるの!」
「時間ありそうな時に適当に…?いや…その、そうじゃなくて…。」
意図がわからない、という表情で彼はこちらを見てる。ちゃんと言わないとわからない、か…。
「見たいの!組み立ててるところ見たいから、いつやるか聞いてるの!」
ますます彼がわからない、という顔をする。
「…なんで…って…す…きだから…?」
にやにやしている顔が、ちょっとからかわれているような気がする。そうじゃない、今はそういうことを言ってるんじゃないのに!
「もうっ…!そうじゃなくて!キミが、何かを組み立ててる所を見てるのが好きなの!」
みるみる萎んでいく彼に驚く。
「え、何…?そうじゃなくてって言ったのにへこんでるの…?それは、その、そうじゃなくないけど…。もう、そこは今はいいでしょ…きだよ…ちゃんと…。」
「何にやにやしてんの?」
「あぁ〜もういい!!知らない、いーよ、見てない時に組み立てたら?!」
喋っているのは私の方なのに、いつの間にか会話は彼のペースに巻き込まれていく。
いいように弄ばれている気がする。ちょっと悔しい。
「え、今から組み立てるの?ほんとに?だって…今日1日運転してくれて、家具屋さん見て、疲れてない?今日じゃなくても大丈夫だよ…?」
まさか、そんなにすぐしてくれると思ってなかったから、思わず止めてしまう。
彼からは意外な提案が追加される。
「そのかわり…一緒に作ろ?って私やったことないよ、きっと邪魔になっちゃう。」
「大丈夫って…それならいいけど…教えてね?」
急に心配になってきた…。
「ほんとに今から…?うん、わかった。」
広い部屋に移動して、組み立てる準備を整える。
「…こんなにいっぱい部品があるんだね。」
広げられる部品と説明書、私にとっては未知の世界。一つ一つ飛ぶ指示に右往左往する。
「…ここを押さえとけばいいの?」
「次は…?これ…?これ、何個取るの?1個ずつ渡せばいい?」
「え、何、この木の粒みたいなやつ…?ダボ…ダボって何…?これのこと…?」
「え、それってそんなにコンコン叩いて大丈夫なの?」
得意だからなのかな、指示は的確、手際が良い、いつも、一人でできちゃうんだから当然か…。
「凄いね…あっという間に終わっちゃいそう…え、助手がいいから…?ふふっ…。」
「助手いなくても、全然できちゃうでしょ?だって昔から得意だったもんね。高校の文化祭の時とかさ、大きい看板とか台とかなんかパパパって作っちゃって…先輩〜できました〜って…あの頃、可愛かったなぁ…すっごい嬉しそうで…。」
彼とは同じ高校だった。懐かしい記憶。
「可愛かったし、凄いな〜って思った。男の子だからそういうの得意な子も多いんだろうけど、無駄な動きがなくて、手際がいいっていうのかな…器用なんだね。」
「えっ…?惚れた…?って…うん…あの頃には好きだったよ?…私のほうが年上だし、まさかこんな風になるとまでは思ってなかったけど…。」
なんか急に恥ずかしくなってきた…。
「えっ…俺はその前からす…って…そうなの?」
こくこくと頷く彼は、懐かしい記憶を愛おしむように振り返る。いつもより少し、言葉数が多い。
「あ、うん、もう…わかった、ありがと、ありがとだから…恥ずかしいから、そこまで、ね?」
私のほうが根負けして、この話はおしまい。
だって…もう顔が熱い。
「…ほら、私が、手伝うことなんて少ししかなくて、隣でおしゃべりしてる間に終わっちゃった…。え、一緒に作った方が思い出に…まぁ、確かに。」
カラーボックスに物をしまったり飾ったりする度にこれを作った時のことを思い出すのだろう。それは、とてもいい時間。
最初は何を飾ろうかな…。
「いい思い出、だね。」
隣で満足そうに、カラーボックスを眺める彼の肩に頭をこつん…と寄せてみた…。
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