ありふれた日常を愛おしむ(短話集)
ふらり
目薬。
「え?目薬?させないって…?」
ふと呼ばれて、振り返ると目薬をもった彼女が立っている。
近寄ると目薬を手渡してくる。
「どうした?目痛い?…日焼け…あぁ、そっかプールで…。」
彼女の顔を覗き込むと、確かに目が赤い。
「焼けたもんな〜。俺も相当焼けたけど、もともと肌が白い分、キミの方が差がすごい。」
小麦色とはいかないまでも、もともと色白な分、日焼け跡と地肌の色の違いがくっきりとしている。
「大丈夫…?肌は、日焼け止めしてたからね。まぁ、痛くないならいいけど。そっか、目は守れなかったもんな。サングラスでもすればよかったか…。」
サングラス焼けも、それはそれで嫌でしなかったんだよな…。でも、まさかここまで目が焼けるとは…。
「うん、まぁいいや。目薬したいけどなんか上手く入らないから入れて欲しいと。いつもなら入れられるのね、はいはい。」
受け取った目薬は女性向けのデザインで可愛らしい。充血用って書いてある。それなりに減っているところを見ると普段は普通に差せるのだろう。
「そうだよな…。同棲はじめてから、見たことないもん。キミが目薬差すの。」
目薬から彼女に視線を移す。
「で、どうすればいいの?このまま上向く?仰向け…?じゃあ、床に座ればいいか?」
「正座…?はいはい。」
いろいろ細かい注文が飛ぶが、その通りにする。
「…固いって…何を期待してたの。男だもん当たり前でしょうが。」
膝の厚さと頭の高さがうまく合わないらしい。
「わかった、じゃあ、こうしてさ。俺があぐらかいて、そこにクッションを置いて、これでどう?」
今度はしっくりきたらしい。ちょうどいい高さだって…。
「いい…?じゃあ差すぞ…ん?人をダメにするソファって…家具じゃないんですけど…まったく。…ほんとにダメにしてやろうか…?」
「痛っ、わぁかった、わかったってば。ごめんごめん、はいはい、そういうことばっか考えてますー。痛っ…。」
横になった彼女に叩かれる。顔が真っ赤だ。
「ほら、上むいて目閉じて…や、えとやっぱこの眺めやばいな。いやいや、なんでもない。焼けたところと焼けてないとこの差がさ…。」
仰向けの彼女は、緩めのTシャツを着てるから胸元が無防備だ。
視線に気づいた彼女に、さらに叩かれる。痛くないけど。
「見るなって…無理でしょ。目つぶって目薬させと…?…理不尽…。あー、わかったわかった。そっちは見ない、うん、極力…絶対…?うん、たぶん…。」
「じゃ、いくよ…って…そんなぎゅっと目つぶってたら入りませんけど?力抜いて、てか目開けて。」
「無理?じゃあ目こじ開けていいんだね?」
「変な顔になる?キミが力抜けば、ならないよ。はいはい、ほらもう、いつまでもこの態勢、俺がヤバイ…。」
「わぁかった…ほら、いくよ!」
やっと目薬させた…長かった。
いや、こういう時間も大事なんだけどね。
「んじゃ、次左ね。」
左はすんなりと差し終わった。
ちょっとふざけてみたくなる。そうでもしないとほら…ちょっとね。
「目ぱちぱちしてくださ〜い。って手ぱちぱちじゃないから…あぁ、あるよね、動画とかで、でもその体勢でそれはやめたほうが…。」
ほんと無防備、揺れてますけど…。
何がとか言わないし、言えないけど…。
「ほい、終わり。終わりなんだけどさ…。」
うん、きっと怒られる…のはわかってるんだけど…。
「あの…やっぱちょっとだけ、ダメになってみませんか…?」
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