第11話
「なんで倒すんだ熾条!」
「なんでって言われても...ワンちゃんも倒せるなら倒すでしょ」
悔しさを隠す様子もない柳さんが歯軋りさせていると体を引きずるように歩いてきた熾条さんが答える。
「ワンちゃんじゃない!それにまずは感謝の言葉を言うべきだろ!」
「確かに助かったよ。ありがとね」
「んぇ...お、おう。まぁな」
素直に言われると思っていなかったらしい柳は、笑顔で感謝を述べる熾条に虚をつかれたらしく言葉を詰まらせ狼狽えている。
「でも、ちょっと来るの遅かったんじゃない?」
「わざわざ死地に赴く趣味はあたしには無い。お前が一人で解決してくれるならそれに越したことはないと思ってただけなのに、なんだったんだアレは?」
柳はふんと鼻を鳴らしながら屋上一帯に散らばった肉片を見て問いかける。
「あれが今回の事件の元凶だよ」
熾条さんは同じく肉片を見ながらも柳さんとは違うどこか冷たい目で話す。
「と言うことは
そこまで話したところで二人が力無く地面に座り込んでいた僕の方を向いた。
「うん。ちゃんと呪いも無くなってるみたいだね」
僕に近付いてしゃがみ込んだ熾条さんが頷きながら笑う。
「熾条さん...大丈夫なんですか?」
「いやー正直今回はやばかったねー。でもなんとか生きてるし、この通り...いってて」
「熾条さん!」
僕を安心させるためか力こぶを見せるポーズを取ろうとするも、痛がりながらうずくまる熾条さんを受け止めて支える。
「本当にすいません。僕のせいで...」
「大丈夫だってば。こんなのしばらく休めばすぐ治るから」
「あたしの事忘れてないか?」
苛立ちを含んだ声が聞こえて振り返ると初めて柳さんと目が合った。初めてちゃんと彼女と目が合った気がしたが、彼女からは今まで感じた冷たさが無く、まず頭を下げられた。
「日下部 夕君だったな。まずは今までの非礼を謝らせてくれ。理外種の呪いを受けた人間には被害を広げないためにも無視するようにと上から指示を受けているんだが、きっと気を悪くしていただろう」
熾条さんと話す時とは違う、公的で丁寧な話し方に驚いた。
「あ、いえ。確かにちょっと思いましたけど、そう言われればあの態度も仕方ないと僕も思います」
「そこで申し訳ないんだが、君には色々聞きたいことがあってね。私と一緒に署まで来てくれないだろうか?」
そう言われたことで以前、熾条さんが言っていた連れていかれたら何をされるか分からないと言う話を思い出して熾条さんの方を向くと、「もう大丈夫だよ」と言った顔で頷いていたので僕も頷いた。
「それじゃあ行こうか」
「いやでも、熾条さんが...」
「...大丈夫だ」
怪我を負っている熾条さんを放って歩き出した柳さんを止めようとすると、柳さんは一瞬だけ振り返り熾条さんの方を見ると、それだけ言ってまた歩き始めた。それが彼女にとっての熾条さんへの信頼の表れなのかどうかは分からないが、僕は熾条さんの方へ近寄る。
「冷たいよねぇ。ワンちゃん。でも案外優しいから怖がらないであげてね?」
「熾条さん。早く病院に行かないと」
「大丈夫大丈夫。一応歩けるし、病院ぐらいなら一人で行けるから。夕君はワンちゃんと行っておいで」
屋上の入り口で腕組みをして待ってくれている柳さんの方へと背中をぐいぐいと押されながらも、どうしても言っておきたいことだけ言うために振り返る。
「熾条さん。本当にありがとうございました。今度会った時は何かお礼させてください」
「分かった。期待して待ってようかな」
その笑顔は、まるでこれで会うのが最後のような気がしてその場を離れたくなくなったが、柳さんに呼ばれるまま彼女と共に屋上を出た。
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