セクメタル・ハウとメテオダイトとキメラアーツ
一旦回想は終わり、再び楽しい楽しい食事中。
「うぉ、おっぷ。そ、それで、いまどれくらい溜まった」
「そうですね、75%ですかね」
「ま、まだそれだけか……こぽっ」
そんなこんなで死にかけた俺は新しい体を与えられた。
で、動作確認とやらでケイブワームをしこたま倒せと言われ、つなぎとかいう見たこともない服を着せられて必死で倒すとともに、その体の性能に驚き、途中で「それ食べるんでとっておいてくださいね」などと三十回は聞き直したいと思えるような指示を出され。
いま、その指示通りケイブワームを必死で食っている。
理由は簡単。
「エネルギー充填のためです!」
「わかってるよ。ったく、魔物でエネルギー補給って、欠陥品じゃないのこれ」
「欠陥?? 最高で最強で完全無欠ですよ、なに言ってるんですか」
そう、この身体、声の言う通り性能は抜群に良い。
「しかもまだ、本気出してないですし」
いやいや、まじで本気になるの、怖いんだけど。
声の説明によれば、これでもまだ俺の脳(これはまさしく俺の脳らしい)との接続が三十パーセント程度しか構築されてないせいで、その出力も同じく三十パーセントくらいに抑えられているのだそうだ。
それでも、今の俺はすくなくともS級冒険者程度の力がある。
「あのイモムシだって楽勝だったじゃないですか」
「ま、まぁなぁ」
そう、その事実はケイブワームとの戦いで嫌と言うほど実感したのだ。
剣も魔法もなく、ただ殴りつけることしかできない俺の格闘経験のゼロの洗練とは程遠い徒手空拳の攻撃を前に、災害に等しいはずのケイブワームの群体は、なすすべなく壊滅してしまったのだ。
まったく、理解するには十分の戦果だ。
「これで腹さえ減らなきゃなぁ」
「無茶言わないでください、エネルギーを使えば減るのは熱力学的に当たり前のことです」
「ま、そうだけどさ」
そう、声の言う通り、ケイブワームの群体を壊滅させる。というその偉業の対価として俺は、この体を動かすエネルギーを失った。
「そのなんだっけこの体のエネルギー、メテ……えっと、魔力の名前」
「メテオダイトです」
「これ以外に摂取の方法はないわけ?」
「一番効率的ですから、これが」
エネルギーの名は、メテオダイト。
声いわく、それは、いわゆる魔力のこと。
となれば、魔力ですから、ケイブワームの肉、つまり魔物の肉に豊富に含まれていることは俺でもわかる。要は、魔物の肉から摂取できる栄養素扱いになっているのだ。
「ああ、もう。ケイブワーム十匹は食ったぞ!! もうやだ!」
にしても、食わせすぎだ!!
一匹が子羊くらいの大きさがあるんだぞ、ケイブワーム。
しかもまずいんだぞ!
まずいんだぞ、本当にまずいんだ、ぞ。
本当に、ほんっとおおおに、まずいんだぞ!
超人的身体能力を補って余りある、最悪のデメリットだよ、こんなの!!
「そうですね。でもまあ、このケイブワーム一匹のメテオダイト含量がフルチャージの7%程度であることがわかっただけでもいじゃないですか」
声がフォローする。全然フォローになってないけど。
それを聞きつつ、俺はまたこんがりと焼けたケイブワームをつかんだ。どんなに文句を言おうとこれ以外に選択肢がないんだから仕方ない。
「はぁ、普通のもんくいたい」
かぶりつく。ああ、まずい。この先慣れる気がしない。
「仕方ないじゃないですか、普通の食物には含まれてないんですから、メテオダイトが」
「魔力なんだろ、じゃぁ、んなもん、当たり前だ」
「当たり前って言われればそうですけどね。でも、わたしだってまさかセクメタル・ハウのメテオダイト充填方式がキメラアーツを経口摂取するになってるなんて思わないですもん」
「普通は違うのか」
「はい、いろんな方式はありますが、メテオダイトを含む食材を食べるというのは……なにかしっかりとした目的があるのだとは思いますが、普通に効率悪いので」
ちなみに、キメラアーツとは、声の時代における魔物のことらしい。
つまり、魔力がメテオダイト、ケイブワームみたいな魔物がキメラアーツということになっているらしい。
「はぁ、仕方ないとはいえ魔物空は目になるとはね」
俺は、聞こえないようにつぶやいて、さらなるケイブワームにかじりつく。
少しばかりの、恐怖を覚えながら、だ。
というのも、一般に、人間にとって魔力は毒なのだ。つまり魔力が豊富に含まれている魔物の肉は、はっきりくっきりと毒の肉。チャレンジ精神旺盛な健啖家や、度重なる戦災の中で孤児が食って死んだという話はよく聞く。
なので、やっぱりおっかないのだ。
「でも、今の人類はメテオダイトを生身で使ってるんですよね? 死なないんですか?」
メテオダイトを生身で……って、ああ、魔力を生身で使う、つまり魔法の話だな。
「ああ、そうだな、魔法使用による魔力の曝露が増えれば死ぬぜ。だからこそ、亜人種でもない限り魔法は必要最低限ってのが常識だ」
「亜人種?」
「そういうのもいるんだよ、魔力耐性が段違いに高い生き物がな」
「へぇ、進化した人類みたいなことでしょうか」
「さあな、不思議だけど、居ることは間違いない」
「生命の神秘ですね、わたしは生き物じゃないですけど」
そう、実はこの声は生き物ではない。と本人は主張している。
精霊とか神か?と聞いたらそれでもないらしい。
で、声の言うことを完全に信じるなら、声は地中深くに作られたこの研究所の制御管理機能というものらしく、正体は数字の羅列、もしくは固定化した命令の集合体、さらには膨大な情報の集積によって得られた人工的智というものらしい、が。
はいそうですか、ってわけにはいかないよな。
まるっきり意味わかんないし。
「プログラムって言ってわかれば簡単なんですけどね、説明」
「うん、わからん」
「はぁ、ま、とりあえずわたしはこの研究所の管理システムです」
そう、声は、このダンジョンの最奥にある『研究所』の管理システム。
半永久メテオダイト発生装置という無尽蔵のエネルギー供給機関のお陰で二千年近く外部の情報から隔絶されたままこの空間の管理をし続けているのだそうだ。
ちなみに、生まれた場所もここ、生み出したのはこの研究所の主である研究者。
そのせいで声の常識は二千年前の研究者が作った常識がこの何も無い空間の中で完全に静止していて、結果、声の持つ二千年前の常識を俺が理解できないように声にとっては二千年後である今の常識は皆無なのだ。
わかりやすく言えば、史上最も明確な世代間格差と言える。
「でもまさか、メテオダイトが魔力とかいうマイナーエネルギーになっているとは……」
「俺としては、魔力はかなり主流だけどな」
「へぇ、でもその認識に愕然としちゃいますね。だって今は、キメラアーツ討伐くらいにしか使われてないんですよね」
「まあな、日常使わないよな。体に悪いし」
「そこですよ、かつてはおはようからおやすみまで、人類の生活はメテオダイトで賄われてましたので」
「昔の人間は魔力が毒じゃなかったのか?」
「いいえ?ただ、メテオダイトはエネルギー変換によって手元に届くときは電気という毒ではないものに変わっているが普通でしたから」
「ふむふむなるほど、よくわからん」
まあでも、とりあえず。
それくらい、メテオダイトこと魔力は昔の世界における普通のエネルギー源だったらしい。
ちなみに、この研究所の運用も、俺にこのセクメタル・ハウという新しい体を与えるために行われた作業も、使用エネルギーはすべてそのメテオダイト。
そして、それ以外、燃料と呼べるものはないらしい。
そう考えれば、普通のエネルギーというより、唯一のと言った方が良いのかもしれない。
「はぁ魔石が食えればなぁ」
俺は、そう言ってため息をつく。
「ですね、濃縮メテオダイト結晶体はエネルギー効率いいですもんね」
この世界で当たり前に流通している魔力のこもった石、魔石。
その使い方は主に二つあり、一つは魔石を触媒として使い、空気中にある魔力を利用して様々な作用を起こすもの。
いわゆる魔法。
そして、もう一つは魔石を道具に組み込んでその魔力で簡単な機構を動かすもの。
つまり、魔道具の原理だ。
で、それ以外に人間が魔力を使う方法はない。
さらに、魔石とは、魔物を討伐して得る戦利品。
それは、魔物の体の中にしか存在しない魔物の活動の要であり、魔物を動かす魔力の根源であり、魔物の身体に魔力を循環させるいわゆる心臓に近い臓器でもある。
と、されている。
であるから、当然、肉なんかよりよっぽど魔力が濃い。
しかし。
「ていうか、まだ石食べる気なんですか?ププッ」
という声の嘲笑混じりの言葉でわかるように、それを食うことはできない。
「人間らしいのがセクメタル・ハウのいいところなのに、石食べるって発想はないですよ」
「いや、そうだけどさ、魔石をうまく使えるような感じにはできないのか?魔道具みたいにさ」
「無理です、わたしは技術者ではないですから」
「だよな」
と、そうこうしているうちに、俺は目の前のケイブワームをあらかた食い尽くした。
「さて、と、ごちそうさん。えっと、満腹時での稼働時間はフル戦闘15分だったな」
「ですね、ただ、シビルモード、つまり通常に生活するだけなら1ヶ月は余裕です。戦闘だったとしてもエコモード、つまり低燃費モードなら1時間は戦えます、威力は4分の1で」
ふむ、まあ、元が強いから普段はエコモードとかいうので大丈夫だろう。
一人でケイブワームの大群を倒せる戦闘力なんて、よほどのことがない限り必要がない。
てか、通常モードって、何と戦うつもりで存在するんだろうな。
「ところで、あれだけ完食して、どれくらい溜まった」
「はい、ほぼフルです」
うっしゃあ、じゃ、そろそろ。
「いくか」
となればここにはもう用はない。
俺は帰るのだ、地上の世界に。
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