第1章 セクメタル・ハウ
ことのはじまり
最悪のアピタイザー
「ぁぁぁぁぁぁぁぁまずぅい」
ダンジョン最深部。
俺は、今、地獄を味わっている。
生で齧ってみた、焼いてみた、煮込んでみた、ジュースにしてみた、けど。
「くっそまずいやんけえええ!!」
まずいものは、まずい。
「しかし、ラック様食べないと……」
「わかってるよぉ」
声にそう言われ、俺は泣きながら目の前にあるこんがりケイブワームを見つめる。
これがもう、ほんとにまずい。
まず苦い。一口目から味覚ではなく痛覚に訴えてくるような破滅的な苦さ。
しかも、これで味覚が死んでくれればいいものの、俺の高性能ボディーが「いやなんでそこ強化しちゃったの!」な超高性能ボディーが、しっかりと味覚を確保してくれているおかげで、この苦味から逃げるすべがない。
そして酸っぱい。脳髄を貫くような殺傷力の高い酸味。
やはりこれも、高性能な味覚機関のせいで「よっ大将、遅れてすまねぇ」みたいな感じで毎度律儀に苦味の後を追いかけてやってくる。
さらには、どこをどう調理しても消滅させることのできなかった。
殺意を感じる香り。いや臭気。
これがまた、繰り返すようだが、俺の高性能ボディーのせいで鋭敏になっている鼻腔を突き抜けて脳天にメガヒットをかます。決して嗅覚疲労を起こしてくれない、疲れ知らずで働き者の鼻はいつも笑顔で「ニオイお届けに上がりました」と爽やかに仕事してくれる。
そして最後に、一口目から終わりまで、全編通して存在する不快な食感による死体蹴り。
生でネトネト、火を通してブニョブニョ。
いつまでも口腔にへばりつくその感覚が、前述の不快なすべてを長い間感覚器官にへばりつかせてくれちゃっているものだから、もう。
それはもはや、兵器。
そう、兵器、なの、だ、が。
「でも、食わなきゃ死ぬんだよな、声」
「正確には機能停止を起こします」
「お、おう」
そう、食わなきゃ死ぬのだ。
「キメラアーツを食さないとメテオダイトは摂取できないんですから」
「わあってるって……オゥえぐぅヒィゴロゴロゴロ、オロロロロロロ」
「ダメです、飲み込まないと!!」
「ウキィィィィィィ!!」
俺は、吐き気を全力で抑え込んでケイブワームをかきこむ。
「どぉぉぉりゃあああ、うぇぇぇぇぇ」
「がんばれ!」
「どっせぇぇぇぇぇい!おぼろぼろぼろろろろろ」
「ふぁいっ!ふぁいっ!」
「ふんぬばらはああああああああ!ゴリバリモシャ」
「そうです、その調子!」
「きぃぃぃぃぃえぇぇぇぇぇ!!ゴクリ」
「きゃぁ、ステキかっこいい!」
「ゴポォ、ブピュ……ドパァァァァァァァァァァ!」
「出しちゃラメェェェェ!」
……で、なんでこんな事になってしまったのかというと。
実は、この俺ラック・リラ・ライラは、一度。
死んでいるのだ。
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