魔物はガチまずい。でも食わねば死ぬ男の話 ~ロストテクノロジーでなんとかファンタジーを食う~

@YasuMasasi

これがわたしの生きる道

――右上方3


「はいっ、はいはいはい」


――後方2


「はいはい!」


――直上1


「でぇい!」


――後方眼前一直線5


「づぉぉぉぉりゃああ」


――左右それぞれ3


「ぬおりゃあああああ……って!多すぎるだろうが!!」


――上上下下左右AB


「なんという小並感っっっっっ!!」


 ドゥアル大陸アマルディ法国、南方の僻地。


 ザルマ。


 そんな、よほどのことがない限り人が足を伸ばすこともないだろう辺鄙な所に突然湧き出したダンジョンの中で、俺は、無尽蔵に湧き出す巨大イモムシと戦っていた。


 イモムシの名はケイブワーム。


 なんてことはない、いわゆる洞窟のイモムシという意味なのだが、その実この魔物、冒険者界隈では決して侮ることのできないモノだとして知られている。


 その別名「鬼イモムシ」


 手練の冒険者でもできれば出会いたくないレベルのイモムシだ。


 とはいえ、一体一体はランクでいえばE、良くてDと言ったところ。


 ちなみにこのランクは、同じランクの冒険者4人パーティーで屠れるか否かという意味。それも、あくまで俺の生まれた国基準の話ではあるのだが、つまりはこのケイブワーム、Dランク冒険者が4人いれば倒せるという計算なのだ。


 Gから始まる冒険者ランクでDランク以下は見習いか採取専門の冒険者。


 つまり、魔物退治を生業とする独立した冒険者のうち、その最底辺ランクの人間が四人パーティーで過不足なく倒せるという意味だ。


 回りくどい説明になったが、つまり弱いということ。


 メジャーどころで言えば、ゴブリンと変わらないランク。


 な、はず、なの、だが。


 やっかいなことに、このケイブワームというやつはは群れる。


 それもまあ、エグいくらいに群れる。


 証拠に『ケイブワームの群れ百に襲われた』というのは冒険者業界ではラッキーの符丁。


 というのもケイブワームは、少なくとも数千、多い時には万をこす大群となって襲いかかってくるものだから、ケイブワームを1匹見たら「死ぬ気で逃げ帰って軍隊に連絡せよ」と言われるくらい破滅的に厄介な魔物なのである。


 これまでも、多くの有名冒険者がこのイモムシの餌食となっている。 


 そして、今、まさに、そのケイブワームが。


「ダンジョンの中、コイツラばっかじゃねぇか!」


 と、言う感じの状態なのだ。


 見渡せば、ダンジョンの床面を埋め尽くす巨大なイモムシたち。


 ただただ気持ち悪い、普通に不快。


 そして、現在ソロでこのダンジョンをうろついている自分の状況を考えるに、これは冒険者の常識で考えれば絶望的な光景のハズ……。


 なのに、だ。


「倒せてるんだよねぇ、俺」


 EランクやDランクでも一体倒すのに四人パーティーが必要な魔物。


 もしタイマンならCランク上位でないときっと無理。


 いや、それどころかBランク冒険者くらいは……って、そもそもケイブワームを一人で倒そうなんて考えるやつはいないか。まあ、誰も試しちゃいないだろうが、すくなくともそれくらいの力は必要なはずなのだ。


 ちなみに俺の冒険者ランクはC。繰り返しになるけど、普通ならかなりやばい。

 

 しかし、現実は。


「だぁっしゃああああ、一丁上がりだボケェ!」


 これが全然脅威になっていない。 


「もう2000は倒してるけど、まったくもって楽勝だな」

 

 では、ここのケイブワームがたまたま弱いのか? といえば。


 それは、ちがう。


 間違いなく。


 俺がめちゃくちゃに強い。


「こりゃすごいことになっちまったな」


 ちなみに、俺はなんの武器も持っていない。


 つまり、まったくの空っ手、徒手空拳。


 それでいて、安物なら魔法剣でないと、通常の剣なら安くない剣でない限り、絶対に引き裂けない厚い皮膚を拳一つでぶち破る、俺。


 モゾモゾしている割には以外に速い動きに鼻歌交じりで対応し、騎士の大盾を一撃でへし曲げると言われている体当たりを眼前の羽虫を追うようにペシッとばかりに跳ね返す、俺。


 群れ上がるイモムシ軍団を蹂躙し吹き飛ばし続ける、俺。


 まさに無敵、人外の姿。


「いや、ほんと、やばいねこれは」


 言いながら目の前の惨劇を見る。


 潰れたり穴が空いたりひん曲がって死んでいるとれとれピチピチ新鮮なケイブワーム。それと、その上を乗り越えて突き進んでくるもぞもぞピチピチ新鮮なケイブワーム。次から次へと現れる、わさわさピチピチ新鮮な、ケイブワーム。


 新鮮な、ケイブワーム。


 そう、この新鮮というのが、俺にとっては大事なキーワードなのだ。


「ああ、俺は」


 そこまでつぶやいて、これからのことを思って俺は深い溜め息をついた。


「あれ、喰わなきゃいけないんだよなぁ」


 そう、喰うのだ。


 それが俺の、生きていく唯一の道なのだから。 

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