第8話 仲島翔目線 2回目の再会。

 仲島かける目線。

 部活を終え、最寄り駅に着く。改札口の先。見たことある女子が制服のまましゃがみ込んでいた。


「お嬢さん。何やってんの、ナンパ待ち? そんなとこでしゃがんでたら、パンツ見えるけど。今日も白なんだ」


「嘘つき。短パンはいてるもん。あと今日ってなに?」

『なに?』と言われても。凍りついた場の空気を和ませる以外にある?

「何すねてんの」


「彼氏ならここは頭ポンポンして」

「いや、長内おさない。お前の彼氏は――」

「言わせないよ!」

 しゃがんだまま、長内は俺のスネを殴る。

 ここは唇をふさいで「言わせないよ」じゃないのか? 当たり前だけど、部活で使うレガース(すね当て)はしてない。なので殴られたら痛い。

 考えてみたら、長内って中学空手部だったはず。


「どうしたの。俺から言ったげようか、俊樹に」

「その名前、言わせないって言ったよね。今さぁ私逃走中なの。かくまってくれぇ」


 ***

「あのもしもし悠子ちゃん?」

かける? なに、私いま忙しんだけど!』

 事情がわからない。

 わからないけど「もう家には帰れない」とか言う、友達の彼女長内を家に連れて帰るのはどうかと思い、元カノに電話した。

 ある意味口実ではあるけど。


「ごめん、忙しいところ。その……なんていうか、相談が」

『相談? 後にして。私忙しいの! マジで。まぁいいや。なに、相談って。私さぁ今日、めちゃくちゃ虫の居所最悪だから言葉選んでね?』

 あァァァ。

 やっぱしめっちゃ嫌われてる。相談する相手間違えたよなぁ……でも、ほっとけないだろ。流石にこれは。


「えっと、その『今日は帰りたくない』って」

『はぁ⁉ なに、出来たの? そんなノロケ聞かせたいの? 言ったわよね、虫の居所悪いって!』


「いや、じゃなくて!」

『なに、早く言う! 忙しいの! おわかり?』


 やっぱし、ここは黙って長内おさないウチに泊めるか? 姉ちゃんいるし、別に大丈夫だろ。でも一応最終確認しよう。

「ごめん、なんか長内が駅にいて、帰りたくないって。逃走中だって。かくまってくれって。どうしたらいい?」


『えっ!? 翔、まさか佳世奈かよなといるの!?』

「いるっていうか、駅降りたら改札口に居た感じ」


『でかした! さすが元カレ! 探してたの! キスしたげる! って電話のキスじゃ遠いか! あっと、とりあえず合流する。長い話になるから、家行っていい? 佳世奈も連れてきて! 佳世奈の家には私から連絡するから! 逃さないでよ!』


 逃さないでよって、逃げるの? そういやなんかうらめしそうな顔してる。チクりやがったなみたいな。


悠子ゆうこなにって」

「うち来るから逃さないでって。あの、長内。なにしたの、力になるよ」

 ブスッとしてる。怒ってる。きっと悠子ちゃんに電話したのがダメだったんだ。


「俊樹がね、悠子にひどいこと言うの! 元はね、悠子が私のこと心配して言ってくれたんだけど。誤解もあるんだけど、聞かないの俊樹としき! っていうか、私の言葉よりその子の言うこと信じるっていうか。だから余計にこじれて。それで俊樹が悠子に『だからかけるに捨てられるんだ』って。仲島君って悠子のこと捨てたの?」


 今のでだいたいのところはわかった。

 売り言葉に買い言葉なんだろう。タイミングとか誤解とかあるとは思うけど、根本俊樹の女癖だ。

 いや、アイツのを女癖とくくるのは可哀想か。おおむね親切心なんだと思う。概ね……


 でも、この話は中学時代仲間内でも、それなりに問題になった。

 なんていうか誤解を生む優しさなんだ、俊樹の場合。外から見てたら、長内が我慢したら解決だろ、みたいな流れに不思議となってしまう。


 俊樹はなんていうか、いろんな子に声をかけるわけじゃない。特定の傾向がある。孤立してるというか、内面的に問題とまでいかなくても、何かある子ばっかに構う。なんていうか、依存しやすそうな子って言ったら大げさかもだけど、でも比較的そうなんだ。


 それに問題と言っていいのかわからないけど、たぶん俊樹はその先を期待してない。

 ある程度善意なんだけど、でも彼女の長内からしたらどうだろう? 

 自分はいつも後回しにされるし、構われた子はそれなりに誤解する。誤解というのは俊樹のことを恋愛対象として見てしまうってこと。


 つまり長内にとって、いいことなんてひとつもない。そして長内の親友悠子ちゃんが登場してガツンと言う、みたいなのが一連の流れ。ひとまず俺と悠子ちゃんのことを話そう。


「えっと、俺は悠子ちゃんを捨ててないよ。その捨てられたって方が正しいけど、出来たら、振られたくらいのマイルド表現がうれしいかも」

 誤解を解いた上に軽い笑いも、なんて期待したけど、そう甘くなかった。


「話変わるけど、悠子も悠子よ。仲島君ってこんなにいい子なのに、なんで捨てたの? 私なんてなぁ、だよ! あんな浮気者予備軍よ? 悠子って明らかに贅沢じゃない?」


 長くなりそうだし、逃げそうにもないと判断した俺は、長内を連れて帰路についた。あと捨てるって表現ひかえめにしてほしいかな? それに論点がややズレてるのは気のせいか。


 ***

「ちょっと待って。私の記憶が確かなら、あなたは翔の友達の彼女。そしてこれはつまり、の現場なのでは?」


 長内を家に連れて帰ると待ち構えていた姉ちゃん、仲島みおが手ぐすね引いて待っていた。ことが事――こんな時間に女子を連れて帰るのと、この流れでは、泊まる可能性もあることを姉ちゃんにメッセージで送っていた。


 誤解がないようにだったが、想像はしていた。誤解しないというか、ありもしない方向に妄想を膨らませていた。うん、残念だけど正常運転。


「姉ちゃん、悪いけど悠子ちゃんも来るから、来たら部屋に入れて。俺は風呂に入って来る」

「翔、それはまさか3◯ってこと? お風呂入るってことはスタンバイ状態に――あ、痛い!」


 暴走する妄想女子大生の脇腹を突く。そして廊下に引きずり出して言った。

「なんか訳ありで落ち込んでるみたいだから、そのテンションはちょっと困る。ごめんだけど」


「あァァァ……やっちゃった感じ? 泊まるのはいいけど、お家には連絡しないとね。なんなら私しようか。ちなみに翔は今日は私と寝る。いい?」


 まぁ、無難なところ、そうなる。変な誤解が生じても長内が困る。なんなら悠子ちゃんも泊まってくれたら、長内の不安も聞いてくれるだろう。


「翔。泊まるかは別としてお泊りに必要なモノ、最低限コンビニに行ってくるわ。今この瞬間を見逃したら、あんた今日ノーチャンスよ? いい?」


 なんのアドバイスだ。幸い姉ちゃんと入れ替わるように、悠子ちゃんが到着した。風呂上がりだったみたいで、まだ髪が濡れてる。シャンプーの匂いに鼓動が上がった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る