第5話 長内佳世奈目線

 長内佳世奈かよな目線。


『詳しい説明を求む。へ』


 あっ……やっちまった。

 悠子ゆうこ、いや悠子からの怒りのメッセージ。これ明らかに仲島君のことだ。だって『ママへ』だもん。その場のノリってあるじゃない? でも誰からバレた? 仲島君? 


 いや、私とご飯したこと、上手に説明出来るほど器用でも、マメでもない。ご飯終盤オネムだったし、帰ってお風呂に入って今頃寝てるだろ。

 誰か近くに知ってる子いたのか? いや、それはいい。何にしてもここは誠心誠意説明して情状酌量じょうじょうしゃくりょうを勝ち取らねば。


「もしもし、悠子さん? 私――」

『あっ、。なにかな?』

 あァァァ。めっちゃ怒ってる。ノリだってばよ!


「その件についてお話を」

『その前に聞きたい』

「なんでも」


?』

「寝てません! おめめパッちりです!」

『トイレ……個室とかは?』

「連れ込んでも、連れ込まれてもないです! は、初体験はさすがにお布団がいいです!」

『処女?』


「はい! それはもう! アンドユー?」

『ミートゥー。で、なんで産んだの? 処女なんでしょ? 誰との子?』

単為生殖たんいせいしょく。仲島君いい子だから、産みたい! みたいな?」

『それで?』


「妊娠した。それで産んだの。ファミレスで。だから、ウチのコにちょっかい出さないで‼」

『妊娠から出産早ッ! それに完全なオカン目線! わからなくもないけど』

「でしょ? 悠子も早くさぁ、より戻したら? いい子だから誰かに取られちゃうよ。あっ、でもより戻すときは私通してね。ママだから!」


 そんな馬鹿話をしながら寝落ちした翌朝。

 想像はしてたが、地雷系がほっとけないでそれがもとで、冷戦状態のなんちゃって彼氏が出待ちしています。スルーよかマシだけど、仲よくお話したい気分じゃない。


 考えてみたら、こやつ私を安く見てないか? 『お世話』も気軽に要求するし。その辺釘を刺しとこう。いい機会だし。


「なに? まさかこんな状況で『お世話』しろって言うんじゃないでしょうね?」

 思いっきり、嫌味な口調で、視線で言ってやった。


「怒ってる?」

「えぇ、まぁまぁ。例えるなら『はらわたが煮えくり返る』くらいとでも申しましょうか! あのさ、あのお絵描きさんに言えるの? 私に『お世話』して貰ってるって!」


 辞書入りのカバンを背中にぶつけてやった。私は俊樹を放ったらかして、スタスタとバス停へ向かう。バス停前で追いついてきた俊樹に、怒りが冷めやらない私は続けた。


「一応言うけど、当分そういう『お世話』はしません。なんならお絵描きさんに頼めば? あっ、そうそう。きのう仲島君とご飯したんだ」

「えっ、かけると?」


「そう! 、まだ6月だってのに、真っ黒に日焼けして。サッカー部さまとは大違い! あのさぁ、聞きたいんだけど、なんで男子が部活前に全員で日焼け止めクリーム塗ってんの? そんなにお肌が気になるの? 別にいいけどさぁ。俊樹ってでよかったの? 私言ったよね、仲島君とサッカーやりたいんなら、港工学みなこーでも、なんでも一緒に行くって」


 ワザとだ。仲島君には悪いと思うけど、少しぐらいカチンと来てほしい。前に仲島君言ってた。

『俺なんかより俊樹の方が才能あるし、うまいし、身長も体格も恵まれてるし』べた褒めだった。

 でも現実はファッションで、サッカーやってるダメなヤツです。女子ウケ狙ってるだけです。

 確かに仲島君が言ってくれてるように、才能はあると思う。あると思うけど努力する才能は、仲島君の足元にも及ばない。


 別にサッカーがすべてじゃないし、それ以外にいいところはある。でも、私がいて、地雷系女子をほっとけないってことが、ほっとけない。だから嘘ついた。


「翔、なんか言ってた、僕のこと?」

「ん? んじゃない? それともとか。まぁ、朝練ない時点で、ゆ〜るい部活だもんね。それでも自主練出来ると思うけどね!」


 あぁ、嫌な女だ。わかってる。わかってるけど、私の嫌な部分を引き出してるのは、俊樹。悠子といるときはこんなんじゃない。


「そうか、翔頑張ってるんだ」

 こういうとこだ。

 私の嫌味なんかより、仲島君が頑張ってることが嬉しいんだ。こういうところが、嫌いになりきれない。

 とはいえ、一度振り上げた拳。なんにもなしで下ろすのもしゃくなので、しばらくは冷戦しよう。そうしよう。そう心に決めた矢先、やっぱコイツダメだわと思う羽目になる。


 ***

枇々木ひびき君、長内さんおはよー」


 ちなみに枇々木とは俊樹のことで、このさわやかな朝の挨拶をしてくれたのが、同じクラスの石澤いしざわ凪沙なぎささん。女子バレー部。うちの女子バレー部は強い。県大会でもベスト4常連組。高身長でベリーショート。


 すらっとしてるかといえば、どちらかといえば肉感がある。

 つまり胸が大きくて、太ももはムッチリしてる。女子っぽい体型。1年生ながらレギュラーらしい。

 でもなぁ~~私の見立てだと、もれなくこの石澤さんも地雷系。


 見えないけど依存症ツヨツヨな感じ。

 あと中学から付き合ってる子がいてバンドマン。爽やか系だけどピアスの穴だらけ。薄っすらタバコのニオイもする。

 人は見た目で判断したらダメって言うけど、見た目である程度判断しないと予防線が張れない。わざわざ無防御になる必要はない。


 ちなみに俊樹は昔から地雷系女子が気になる。

 付き合いたいとかなのかまではわからないけど、地雷系好きなのは見ててわかる。なので自然、私は地雷系女子を見抜けるようになった。


 私の経験則から言うと、お絵描きさんだろうが、運動部女子だろうが地雷系はいる。それを前面に出すかどうかの違い。

 恐らくだけど、お絵描きさんは自分が地雷系だと自覚してる。良心からだろうか、人との距離を取っている。


 自分と関わってもロクなことがないと思ってるのだろう。本人が取ってる距離を俊樹のバカが、わざわざ声を掛け、詰めようとする。わけわからん。


 問題はこのバレー女子の石澤さん。自覚ゼロの隠れ構ってちゃん。いや、醸し出してますが? その胸と同じくらい隠しきれない感じですが? まぁ、いいここは私が主導権を握ろう。


「石澤さん、おはよ。強豪は大変ね」

「あっ、うん。でもなんで」

 おい『好きなんで』って俊樹見ながら言わなかったか? なに、公開寝盗りか? それともバレーに引っ掛けて、今の『恋のアタック』なのか? 笑えねぇ〜〜


「じゃあ、私先行くね」


 そう言って歩き始めた。

 どこかですぐに追いかけてくると思った俊樹だったが、そこから、しばらく立ち話をしていた。どっちも、どんな神経してんだ? シ◯! 教室で悠子と合流し、散々悪口を聞いてもらったのは言うまでもないこと。









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