第4話 仲島翔目線

 仲島なかじまかける目線。


「びっくりした」

 正直な感想だった。電車に乗ったところまでは覚えてる。この時間帯座るところがないって事はない。なので座る。いい感じに冷房が効いているので、自然寝てしまう。部活で疲れてるし腹も減ってる。


 寝てたら少なくとも空腹は感じないし。それで今か。長内……佳世奈かよなだったかなぁ、友達の俊樹としきの幼馴染で彼女。

 俺は長内の親友悠子ゆうこちゃんと付き合ってた……悠子ちゃんとはなんでか別れた。

 女子はこういう時理由を言ってくれない「そういうのは自分で考えて」が最後の言葉だったかなぁ。


 アレから何度か考えてみるけど、よくわからない。わからないものはわからない。まぁ、悠子ちゃんは市内の高校だし、俺はこうして電車で1時間。続いていても遊ぶとか無理そうだったよなぁ。基本土日は試合だし。


「ひとりなのか?」

 起こしてくれた長内とは友人の彼女ということもあって、そこそこ話をする。長内自身元カノ悠子ちゃんの親友だし。この場合の「ひとり」は俊樹と一緒じゃないのかって話だ。悠子ちゃんとじゃない。

「それは今聞かないでほしい」

「そうなんだ、じゃあ聞かない」


 暗くなった駅前。ロータリー周辺は電灯で明るい。聞かないと宣言して数歩。帰ろうとする制服のすそを引っ張られた。


は聞こうか?」

 ん……やっぱり女子わからん、


 ***

 ツヴァイスターコーヒーに入ることになった。

 いわゆるカフェだ。こういう大人な店はあまり来たことがない。だいたいがハンバーガーショップ「まっぷ」になる。女子はこういうところが好きなんだと、変に納得した。


 待てよ、悠子ちゃんとダメだったのはこういう、なんていうの? おしゃれで大人な店に来なかったからなのか?


「どうしたの?」

「いやごめん。少し自問自答中」

「あっ、たぶん的はずれだからやめとこうか。どーせ悠子のことでしょ?」


 なんでわかる。やっぱ、女子わからん。何を注文したらいいか、もっとわからない。周りのお客さんは大人か大学生って感じ。並んだレジで微妙に緊張してると。


「コーヒーっていうより、お腹空いてるよね。やっぱファミレスにする?」

「それもそうなんだけど」


「どうした?」

「なに注文していいかわからん」

 小声で心の声を告白すると、一瞬黙ったあとケラケラと笑われ肩をバンバンと叩かれた。笑うし叩くしで、レジ前で変に注目を浴びる。こんな距離感近い子だったか?


 ***

「長内ってそんな感じなの?」

 思い切って聞いてみた。当の長内はお冷に口をつけ、少し考えて小首をかしげながら「違ったっけ?」と頬をかく。ちなみにファミレスに移動してた。


「たぶん……」

「あ、君のこと悠子から聞いてるの、ずっと。だからかな、勝手に親しみがいてるっていうか」


「ずっと?」

「あぁ……ごめん、基本愚痴だから期待しないでおこう!」

 そんな元気に否定されてもちょっとアレだなぁ……


「なにする? ガッツリ食べる?」

「家で作ってくれてるから、なんか軽く麺類にしようかと」

「軽くが麺類なんだ。男の子って感じ。それでなにする?」


「ん……これ『シェフの気まぐれパスタ』にしようかなぁ、ちょっと安いし」


「待って、いいのそれで?『シェフの気まぐれ』ってことは、自ら選択する機会を放棄するってことよ? いいの、アツアツのパスタの上に、生クリームアンド抹茶アイスからのイクラとか!」

 長内は結構な声で台パンしながら叫んだ。こんな子だっけ?


「いや、50円安いし」

「はぁ? 君、50円で魂売るんだ?」

「いや、魂とかは売らないけど……」

「あのね、私が言いたいのはー見も知らないファミレスのシェフさんに『生殺与奪せいさつよだつの権』を握らせるのかって話よ、その覚悟はあるのね? ファイナルアンサー?」


 俺は注文を取りに来てくれたウェートレスさんと目を合わせながら、ファイナルアンサーした。ウェートレスさんの口元がわずかに『ヤバい』と動いたような気がした。長内はしっかり『ヤバいヤツ』認定されたようだ。


 ***

「お待たせしました。シェフの気まぐれパスタとナポリタンです。ごゆっくりどーぞ」


 運ばれてきた『気まぐれパスタ』は、長内が言うほど気まぐれではなかった。きのことツナ。醤油の匂いの和風パスタ。自分ではあまり注文しないけど、部活帰りにはちょうどいい感じのあっさり感。


「いただきます」

 手を合わせる俺に長内は謎の待ったをかける。


「えっと、仲島君って、好き嫌い多めって聞くけど。キノコ……マイタケさんとかシメジさんは食べれるの?」

「ん……あんまり食べてこなかったけど、好き嫌いしてたら背が伸びないって。最近は、うん。食べれるようになったかなぁ」

「誰に言われたの? 先生?」


「えっ? いや、お母さんだけど」

「あっ、お母さん? そう、お母さんね、うん。よかった〜〜偶然ね、お母さんなの。仲島君知らなかった?」


「――知らなかった」

「うん、そっか内緒にしてたもん。なんていうかなぁ~〜ってやつ? 気付いてないかもだけど、仲島君産んだの私だから。でね、佳世奈かよなママ思うの。キノコってさぁ、身長関係ないよ? ソースはママね?」


「つまり?」

「はんぶんこしよう!」

「えぇ〜〜俺トマト無理! あと長内粉チーズめっちゃ振っただろ? チーズも無理なんだけど」


「なに? えっと……かける。ママのいうこと聞けないの? あとチーズはアレよ、あなたが――そう! 身長伸びるようにって、母心よ! とりあえず、ママって呼んでみ?」


 俺は長内の謎のアツされ、パスタをシェアすることになった。

 長内に「トマトっていったって、所詮しょせんはケチャップよ、ファミレスだもの」と言われたが、まぁまあなトマトソースだったし、粉チーズも「粉よ! 所詮は‼」なんて言われたが、チーズはチーズ。


 そしてなぜか、ファミレスを出るまで「ママ呼び」を強要されたが、割り勘だった。

 支払いは「ここはママが」にはならなかった。結局俊樹の話は全然出なかった。出たのは、いかに自分がキノコを愛してるか、そんな話。


 そんな感じで俺たちは家に帰った。

 翌朝、目を覚ますとスマホにメッセージがあった。元カノの悠子ちゃんからだ。ほんとに久しぶりのメッセージは、こんな感じだった。


『ファミレスでママプレーはさすがに引きます』


 アレは俺のせいだったのだろうか。それでも朝はやってきて朝練はある。へこんでいようが、朝練はなくならない。そしてサッカー三昧の日々は続く。


 言い訳の返事をしないとって思いながら、忘れてしまう。これもいつもの日常。












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