第六十五話 猛省
「アリアちゃん」「あい(か細い声」
先日、真昼間なのにも関わらず魔都から光が全て消え。(屋台の提灯とかの光はついてた)この世の終わりの様な形になり、アリアちゃんの影からは悪魔だけではなく。闇で作られたイナゴ、ネズミ、ゴキブリやウジ虫まで出てきて人間の男に向かっていった。
ラクセイが顔を真っ青にしながら、瞬時に何が起こったのかを悟り。自身の給料日前のなけなしのおかねで、タイ焼きを買ってアリアちゃんに渡した事でほんのりアリアちゃんの頭が冷却された例の事件。
「ママは怒ってる訳ではないのよ、ただ魔国の大臣として説明して欲しいの」
ヒルダリアが、アリアちゃんの両肩に手を置いてにっこり安心させるように笑う。
一応念のため、人間の男とラクセイには先に聴取をおこなっており。
ラクセイには、特別手当として十万ボン支払われた。危機を救ったにしては安いかもしれないが、それ以上払うと問題が起りそうなのでヒルダリアはラクセイに頭を下げた。
「人間の男が、私のタイ焼きを踏んでダメにしたの」
「うんうん、それで頭にきちゃったの?」
「うん……」
子供を安心させる為には、同じ言葉使いを使う事も必要だと。ヒルダリアは、菩薩の様に後光がさしているような穏やかな表情と雰囲気を作った。
※ちなみに、パパンにその表情がむく事は余りない。
「確かに、楽しみにしてたタイ焼きをダメにしたのは許せないわよね。ただね、アリアちゃん。魔都の皆に迷惑をかけたのは頂けないわ、貴女は魔王なのよ」
「うん……、後で謝罪の声明を出す」
それだけ言うと、アリアちゃんの頭をそっと撫で。「こういうのは、速い方がいいの。明日、謝りましょうね」
アリアちゃんが、ママンの顔を見てから頷く。
そして、座っていた椅子から飛び降りると。重い足取りで扉から出ていくと、ガチャリと閉めた。
その自分の娘の背中を、扉が閉まるまで見送ったヒルダリア。
大きく、息を吐きだし。「こっわ!」思わずそんな事を口走る。
「ラクセイが居てくれて、本当に助かったわ~」
アリアちゃんが、手を振ったらすぐに闇で出来た軍団は消えたらしい。
でも、それを誰かに向けたなら。魔都といえど、一瞬で全てが消えてなくなるのは必然。
最近の近衛は、魔王のパシリ兼見張りみたいな仕事になっているので。
魔王を守るという、意味合いでは既に近衛ではないのだが。
父親の魔王を五歳で倒し、勇者も撃退。歴代魔王の中でも間違いなく、ぶっちぎりの強さを誇る。少し前に、スキル無しでどの位の強さなのか知りたくて。誤魔化しつつ、黒騎士として戦わせてみてはっきりした事がある。
※うちの子ヤヴァイ……
一度でも七星天塔の嫉妬でラーニングしていると、スキルを切っていても使えるというのは本当に凶悪だった。それと、同等のスキルを後六個。自分の娘で聞き分けがいいから、まだ何とかなっている様なものの。今回の様に、タイ焼きで噴火などされたら魔都の安全が根底から吹っ飛んでしまう。
目に入れても痛くない程に、自分の娘はヒルダリアにとって可愛い。
思わず机に突っ伏して、書類が部屋の床に散らばった。
ヒルダリアはずっと、この国の大臣をやってきているし。この国も愛しているが、それでもまさか自分の娘が魔王になるだなんて。
ふと、机に置いてあった。アリアが生まれた日にパパンと自分とそして、赤子のアリアちゃんが映った写真が目に入る。
ずっと、謀殺されている時も。これを見て頑張ってきたし、この執務室の隣の部屋で彼女を育てて来た。
「ははうえ」そこへ、再びノックをして顔をのぞかせる自分の娘が居た。
「どうしたの?」努めて優しく声をかけるヒルダリア。
「疲れにはこれが利くって、シュティンがくれた」そういって渡されるものすごく見覚えのある瓶。それでも、娘から気を使ってもらえると言うのはこんなにも嬉しいモノなのかと思う。
「ありがとう、もう遅いわ。寂しいのなら、いつもみたいに隣の部屋で寝てもいいのよ」そういうが、アリアは首を横に振る。
「そう、それじゃおやすみなさい」優しく手をふる、親子二人。
再び、アリアちゃんが出ていき扉が閉まると瓶のラベルをじっと見た。
「相変わらず、センスが最低ね」とヒルダリアは瓶をきゅっと飲み干す。
苦くてマズイ、いつも通りの味だ。
そのラベルには「残業ドリーム、皇帝DX」と書かれていた。
残業なんてなければ、もっと娘と一緒にいられるのに。
しかし、娘の知世を盤石にするためにはもっと働かなくてはいけないと。
ヒルダリアは、ずっと悩んでいた。
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