第六十三話 その時アリアちゃんはみていた

「うぬぅ……」埃まみれで穴から這い出してきてゼーゼーいいながら大の字に倒れた魔王。というのも、時は少し前にさかのぼる。


保育園の帰り道、珍しくラクセイ達が誰も迎えに来れなかったため自力で歩いて帰る途中の事だった。


「そこで、何をしておる」


オジサンたちが、柵の外から作物をとっている所だった。

一瞬ギョッとするも、子供だと判ると。「食べてみるかい?」と差し出した。



ちょっとお腹が空いていたアリアちゃんは、それを一口食べると顔を輝かせて「おいしい」と笑顔。


オジサンたちは、アリアちゃんに向かってにっこり笑うと再び果物を集め始めた。

果物を小さな口で一生懸命、少しずつかじっていると。砂ぼこりを上げて、ダッシュしてくる一団があった。


アリアちゃんは、最初足音が煩いなぁと思っていたのだが。大地を揺らして、まるで巨大なトラが走って来るかのような……。よく見たら、本当に虎の着物を着たおばちゃん達が眼を血走らせて特攻してくるのが見えた為。慌ててスキルを用いて穴を掘り、穴のふちに小さな手で捕まって(足はついてる)果物はポケットにいれた。


果物をくれたオジサンたちが、血だるまになるまで追いかけまわされ。まるで等身大のりんご飴の様に真っ赤になって出荷されていく様をじっと見ていた魔王。



「危なかった」そう、走って来たのはPTA本部のおばちゃん達。



全力で気配を隠蔽し、穴の底に座り込むと一度ハンカチで食べかけた果物を拭くともしゃもしゃ食べ始める。その間、オジサンたちが果物を乗せる筈だったリアカーに横向きにサトウキビをつむ様な形でのせられていってドナドナされていくのだが。


アリアちゃんは、果物をちょっとずつ食べて芯だけになったそれを穴の底に転がすと。穴の外を、鼻から上だけだして覗いてみた。


丁度、全てのオジサンを荷台に乗せたリアカーが凄い勢いで夕日に消えていく。


「セーフっっっ」小さい声でそういうと、穴からよじ登って外に出た後。スキルで穴を埋めた、果物の芯と共に。


そこへ、さっきのPTAのおばちゃん達が一人戻って来た。


「魔王ちゃん」「おばちゃん、何かあったのか?」



※しらばっくれる魔王



「果物泥棒よ、いや~ねぇ」

「そうか、いつもご苦労様」



獰猛に笑う、BBAとしらばっくれる魔王。



「魔王ちゃんは、誰かと一緒じゃないの?」

「今日は、お迎えが来れなかったのだ」


そう、すっと手を出すおばちゃん。


「おばちゃんが、お城まで送っていくわ」

「おばちゃん、助かる」


その手を取って、子供の歩幅にあわせゆっくり歩くおばちゃん。


「魔王ちゃんが一人でいたの、お城に送っていくわ」

「了解です」黒子にそれだけいうと夕日に向かって。アリアちゃんとおばちゃんが歩き出す。




金の虎が夕焼けに当てられて、眩しい光を放っていた。




そして、お城で果物を食べた為に夕飯を食べられずママンに正座させられるアリアちゃんだった。


「解せぬ」

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