第六十二話 戦え!武闘派PTA

ここは、魔国PTAの本部。人間のPTAと違って、役職の押し付けあいや持ち回りの不平等などは存在しない。


それは、このPTA統一本部の行動理念が組の様に習字でドカンと畳の大部屋の一番後ろに掲げられている。その理念に賛同した、変な男達よりも熱いおばちゃん達のリビドー溢れる組織だからである。



「おはようございます!」

「「「「「「「「「おはようございます!!」」」」」」」」」



今日も、金のザブトンの上に胡坐をかいておばちゃん達が座る。


「今日の特売は?」「豆腐と春菊です!」といった情報交換から。


「小学校の横断歩道での旗振りはどうか?」「先日、ススキノさんちが風邪を引かれたので私が変わって置きました。なので、今日は私の担当ですがススキノさんが立っております!」「ヨシ!」


と言った具合に、子供達が夏休みにやるラジオ体操のスタンプやお菓子なんかも発注済みである事を確認していく他。



仮に、火の用心等の深夜で襲われたとしても余程の事が無い限り本部のおばちゃん達が負ける事はない。むしろ、ボコボコにされた上でさらし者になる。


というのも、普通の母親達がマンションで子供を寝かせられない程うるさい住民等が居れば本部のおばちゃんズが出張ってくるのだが。全員が子爵以上の猛者なので、全員で来られた場合魔国でまともに勝負になるのは伯爵以上の強さがいる。


それだけではなく、保育園に入れなかった子供達の為に新たに保育園を作ったり。ご飯が食べれない程貧しい子供達の為に食事を本部が出している。


PTA本部か支部に行けば、飢える事はない。それが魔国の常識であり、働く女性達の為に社会復帰までを完全サポートしている組織となっている。


そう、この本部の理念は全ての女性と子供達の幸せの為に!と言うものでその理念の為だけに存在すると言ってもいい。


少なくとも、魔国で犯罪をしようとすると軍部の他にこのPTA本部を相手にする事になる。冤罪率がやたら低いのは、それ用に裏付け情報収集している黒子と呼ばれるおばちゃん達が別にいるからだ。


おばちゃん達の口コミは、雷より速い。


普段はバーゲンとか、ワゴン行き時間等を調べるのに使われているが。



本部の一人、トリアがキセルをぷかりと浮かべてはカンッ!と煙草の灰を落とした。



「今日の給食は、滞りなく出してやれとるのかや」「ばっちりです、トリアさん」「ほか、廃棄はすくのぉせにゃならんが。それで食えんでは本末転倒やでなぁ……」


そういうと、帳面をぱらぱらとめくり。


「これをひとっ走り、ヒルダリア様のトコもってきぃ」「はっ」そういうと黒子が両手でうやうやしく受け取って姿を消した。


「ゆみちゃんとこは、父ちゃんがリストラにあったってゆーとったらしいで」

「棚傾いたんか、しゃーない。その父ちゃんには新しい仕事用意したり。奥さんがもし苦労しとるようなら、そっちのサポも入ったれや。男どもはクソの役にも立たんさかいな」

そういって、本部の一人ハーシュはなるべくゆみちゃんの父親が前にやっていた仕事のスキルが生かせ。収入がほぼ変わらぬ仕事をピックアップして束にしたものを、投げ渡すと。困った事があったら本部にきいやと凄みのある顔で笑った。


というか、完全にPTAの組織内容を逸脱しているが。理念にそった形であれば、資格の塾まであるというのだから恐るべしである。


ちなみに、カチコミに来るときは下駄をはいて着物のおばさん達が刀をしょってくるので非常に判りやすく目立つ。


着物は共通で、黒の布に金の虎が描かれて目が紅い。

以前解体業者が、近所迷惑な音を出していた時は解体業者全員をおばちゃん達が解体するショーと相成った。


ちなみに、このおばちゃん達。女性と子供にはクソ程優しい上、魔王城公認の組織。


変な観光客が来て、困らせる様な事をやったりしても兵士達よりおばちゃん達の方がフットワークが軽い為。観光客が、観光オブジェに改造される事も日常的にある。


「今日は、ケンちゃん遠足でないとったらしいんよ」「ほう、なんでやん」「なんでも、駄菓子屋俺様の俺様のおススメでハズレ引いたのを魔王ちゃんにからかわれたらしいで」


みんなが苦笑しながら、そりゃ運が無かったなぁと言った。


雷鬼のラテルナ(材料屋の奥さん)が、「うちのがちゃんと工事の材料収めたゆーてたで」「後は、不備なくしっかり。夜間は停止してやな」「そうですね」


おほほ、ウフフと話すおばちゃん達。


「魔王ちゃんも、もうちょい大人しければなぁ」「魔王ちゃんは、今までの魔王で一番大人しいで?」「そらそうかぁ」とおばちゃん達が以前の魔王を思い浮かべて「どいつもこいつも武力ばっかのカスやったな」と誰かが言えば「ここでは強さこそが定規ですから」と変な笑いがもれた。


「魔王ちゃんの、世の中がずっと続いたらええのになぁ」

「そうですね、軍部はみんな嫌がるでしょうけど」


一人が、センスをバチンと畳むと「戦争好きな連中は、家で待つ女の苦労をわかっちょらん」。ここに、軍部の誰かが居たら「お前らが戦争行ったら、蹂躙になるだろうけどな」とつっこんでいたに違いない。



「回りは、温かくしていくんやで」と黒子の一人に指示を出しながら。


「そう言えば、果物盗んで売ってたアフォはどうなったんや」

「車ごとぶっ壊して、果物盗んでる決定的な証拠とセットで詰所に捨ててきましたん」



「よっしゃ、今日もやるでみんな!」

「「「「「「「「「はいな!!」」」」」」」」」



恰幅のやたらいい、虎たちが今日も肩で風を切って出陣していく。

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