第六十話 魔都の賭場

今日も今日とて、まとめ役のビーゲルは死にもの狂いで開帳の用意をしていた。



というのも、あれから(二十一話 ワガママ参照)百貨店のフロアに魔都全域にあった隠し賭場を全て持ってきた結果。バッティングした賭場を統廃合しつつ、景品所を更に下のワンフロア丸ごとにした結果どうなったかと言えば大盛況ではあったのだが。


「人手が足らねぇっ!」


地下闘技場の勝敗等の勝敗等も、公営ギャンブルに組み込まれた結果。


見張りをやっていた人員等も全て含め、更には子分の子分まで使って毎日賭場の開帳をやっていた。


「ビーゲルのオジキ!、 酒の在庫がもうねぇ!!」

「買って来い、ここは百貨店だ。酒専門フロアいきゃ幾らでもあるっ!!」


手下を二十人連れて、全員汗だくでデカい台車で酒を運ぶ。

瓶の詰められた箱には大量のクッション材がいれられて、藁をその上からかぶせ徹底的に衝撃対策しつつ丁寧に運ぶ訳だが。今日、これで四十往復ともなれば流石に疲れが見えてくる。


幸い、ここは魔王アリアちゃん肝いりで始めた百貨店の中なので。少なくとも魔族で、マナーがなっていない客は存在しない。


今日も、死刑台の十三階段という曲が鳴らされ。(〇艦マーチのかわり)

酒を飲んで暴れようものなら、しょっ引かれて闇に消えるのをみんなが理解しているからだ。元々、闇賭場なんかはアウトローの巣窟だった訳が流石のアウトローの皆様も魔王公認で賭場が開ける許可が折角でたのにそれをダメにするような事はあってはならないと客も店も非常に協力的だったりする。


というより、魔王がアリアちゃんになってからというもの魔国の治安は非常に良くなった。国民全員が、もはやソルジャーであり。監視カメラよりも、国民の見張りの方がきつく。銀行強盗に入ろうものなら、銀行の客から店員から外を歩いている通行人までが一斉に捕縛に襲い掛かってくるしまつである。「合法的にシバケル!」その掛け声と共にあちこちから「魔国のPTAなめんなオラァ!」とか「魔国のリーマンは百二十時間は連続で戦えるんだ!」とか腹の底からの叫びが聞こえてくる。


ちなみに、アリアちゃんは週五勤二日休。定時を八時間と明確に定めており、魔王城に認められるような理由無く早朝出勤や残業をさせるともれなく軍部がやってくる。


更に、マナーのなってない横柄な商会は取引停止をしてもよく。悪質だと認められた場合。罰金に加え、その商会だけ規制され。大々的に、魔王城の敵となる。


なので、人間の国よりも余程まともな労働環境となっているのだが。

国民全員が脳筋であり、パワーイズジャスティスな思考回路の為。こういった賭場で下っ端をやっているのは基本的に弱い種族であり、戦闘力の無い連中。


結果として、肉体労働にはかなり人数を割いている。


問題は、人数をガンガン割り当てていても仕事が全く減っていない。

何故なら、仕事が増える速度が人数を増やす速度よりも速いからで。

それ程に、この賭場フロアは繁盛しまくっている。



パチ屋やスロット屋なんかの様にトイレで自殺なんかできようがないし、魔力登録された銀行口座からの振り込みでしか賭け札に交換できないので幾らハマっても銀行側の設定を下回ると強制的に止められるからだ。



更に、子供連れの場合は併設された保育所に預ける事が義務化されている。

子供は専属の保育士が預かってくれるが、そのギャラは公務員待遇で年一千万ボン(税を払った後の手取り金額)。


隣が賭場の為、煩くて仕方がない事が唯一の欠点ではあるが。極めて人気の職場であった。(魔国の平均給与は手取り年六百万ボン


とにかく、戦闘力が無いなら百貨店勤務というのが最近の魔国のトレンドであり。

じゃぁ風俗はというと、風俗のフロアは別棟にあるのでそっちにいけと案内されるだけである。


受付も公務員待遇で年八百万ボンが約束され、男女共に容姿規定がある。


受付は、容姿も採用条件に入っているのでゴブリンでは受かるのが難しいが「受かったゴブリンもいる」ので。少なくとも採用基準も昇給基準もはっきりしている。というか、全ての部署のマニュアルの後ろに「報酬規定」の項目があり全部書いてある。


知りたきゃマニュアルをよめ、魔国の百貨店ではそれが常識だった。


ただ、風俗等何処で働いても子供を預ける先は保育園フロアになる。

当然、ワンフロアで収まる訳もなく。最終的に、一棟全部保育園フロアになってしまった。


こんな事ばかりやっているので、当然の様に仕事が山の様になっていくのである。


今日も、賭場や保育園フロアでは地下闘技場の様子が映し出され。保育園フロアでは父親や母親が戦っている時は眼をキラキラさせて盛り上がっていた。


「ビーゲルのオジキ!」「今度は、何だよ!?」


「あれ見てくだせぇ!」あぁん?とビーゲルが部下の指を指した方向をみた瞬間ビーゲルが思わずブッと噴き出す。


そこは、半丁ばくちをやっている畳のある一角。


アリアちゃんが、木のカケフダを一生懸命両手で押して「半」とか言ってる場面だった。

親の、サイフリであるフォウがどうしましょう?的な表情でビーゲルの方をチラチラ見ているが基本ここではサマはできない。


(どうする、アリア様が負けたらどうすんだこれ!)


他の客も、理由が理由だけに「はよせぇ」とかはまず言えない。


アリアちゃん以外の全員が、ビーゲルの方をチラチラと見ながら表情はお前が何とかしろよ的な空気になっていた。


努めて冷静に「魔王様」とビーゲルが話かけると、ニコニコとした笑顔で片手を上げた。

「いつまでも始まらないのだが」とビーゲルに文句を言うと、ビーゲルはにっこりわらって「かけすぎです」とそれでごり押しする事にした。


「かけすぎだと?」「はい、魔王様。あの方とあの方とアリア様の賭け板を減らして頂きたい」「女装戦士アキラでは……」と言おうとすると手で静止し。


「親の懐事情によっては、勝負を受けられない事もあります。その場合、かけ札を減らしてもらうまで始める事ができません」


(オジキ、ナイス!)


そう、賭けがデカいと言う事は負けたらデカい金額を飛ばしてしまうので。だったら、何とか理由をつけて札を減らさせればいい。


「「そうでしたか、すいません」」そういって、参加者の二人が札を減らして部下が後ろから小声で「ご協力ありがとうございます」というとにっこり笑って頷いた。


それをみた魔王も「判った」としぶしぶ言いながら札を減らし、ビーゲルがゆっくりとツボフリにむかって頷いた。


「それでは、はいりやす!」


ツボの中でサイコロの音がして、既に半丁は出そろっているので後はあけるだけだがこの段階で一番ビビっているのはツボフリだった。


(どうか、半でおなしゃす!)


だが、中身は無常にも丁だった。


回収されていく、札に手を伸ばしながら「No~~~」と叫ぶ魔王。


そこへ、アリアちゃんの両肩に手をのせてパパンがゆっくりと怖い顔で尋ねていた。

「おめーは、保育園に預けたはずだよな?」無言で脂汗が止まらなくなる魔王。


「まぁ大人の体験って事で、一回だけですぜ」とビーゲルはパパンに言うと、他のお客もにっこにこで頷いた。


パパンに手を引かれ、ドナドナされて魔王は保育園に戻されたのだった。

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