第五十八話 ギジェルの副官
ここは、百貨店の地下闘技場。
連日、魔族達が熱いバトルを繰り広げている。
その中でも、今日は一つのカードが注目を集めていた。
<シャロン・オリジンVSギブソン>
真祖シャロンの説明は不要であろうが、ギブソンは軍務卿ギジェルの副官の一人。
操血術を軸に魔法を駆使するシャロンに対して、ギブソンはズボンだけ迷彩服のいつものスタイルで出て来た。
「ほう……、今日は中々楽しめそうね」シャロンが舌なめずりをした。
「貴族でありながら、何と下賤な」嘆かわしいと首をふるギブソン。
「さぁ、さっさと変身しろ」とシャロンが顎をしゃくる。
そう、ギブソンは生身ではコボルト並の強さしかない。ただ、両手の甲から大気に漂う魔力を吸収する特殊な器官を備えている。
そして、大気から一定以上吸収すると姿が変わる。特に、上半身の筋肉は三倍以上膨張するので服がはじけ飛んでしまう。だから、戦う前提の時は大抵上を着ていないのだ。
「今日は、魔王様も見に来られている」ちらりと客席の一部をギブソンが見ればアリアちゃんが両手でギブソンを応援する旗を振っていた。
故に、我が誇りにかけて相手が誰だろうと負けるわけにはいかんなと口の端を吊り上げて笑った。
手の甲から、凄まじいサイクロンの風切り音が聞こえ。体中の筋肉の筋にそってラインが形成され全身がラバースーツの様になっていく。
両足には黒いブーツ、両手には黒い指抜きグローブ。
姿が変わる度に、アリアちゃんを含む子供達の眼が輝く。
体中から煙をあげて、変身完了。
その姿にシャロンも、思わず手を叩く。
「流石ね、ギブソン。先ほどのクソ雑魚ナメクジの面影がみじんもない」
※魔国では強さが評価基準なので、弱そうというだけでも結構不当な評価を受ける。
試しとばかりに、魔法陣を空中に浮かべ連射するが。全て、術を拳で叩き落とされた。
シャロンが後ろに少し飛ぶが、瞬間移動に見える程の速度でギブソンが後ろをとってブレンバスターの体勢にはいるが体の一部が液体になったシャロンにつかもうとした手がすっぽ抜けた。
「体に触れようとは手が速い、もう少し丁寧にエスコートして欲しいものだ」
微笑を浮かべながら、余裕を出しているシャロン。
観客席で顔を真っ赤にして、ギブソンの旗を一生懸命振っているアリアちゃん。
というか、元々ギブソンがここに出場しているのはアリアちゃんが希望したからだ。
「流石に、貴族の方相手にこの程度では決まらんな」
「強くなくば、貴族になれないもの。我が国では」
お互いがニヤリと笑って、高度な攻撃の応酬を繰り広げていた。
何故こんな事になっているかというと、軍部というのは基本戦場が大好きで闘技場と言えど見世物になるのが好きなものはほぼ皆無と言っていい。
基本的にはトレーニングバカであり、修行バカばっかりなのでギジェルの副官がここに出てくる事自体がおかしいのだが。先だって、弱そうに見える連中が人間の軍相手に成果をあげそのご褒美としてボーナス支給と寿司を魔王に驕って貰った事が事の発端である。
「何故っ!」そう叫んだ軍部の連中が居た。
「成果を上げたのだから、ボーナスがもらえるのは当然ではないのか?」
同僚の一人がそう尋ねれば、憤慨していた軍部のフェアリーが叫ぶ。
「ボーナスなんかどうでもいいわ! 魔王様にお寿司を奢って貰ったって事の方が重大よ。この中にはもっともっと成果を上げた連中が幾らでもいるというのに、魔王様に一緒に食事に連れてってもらえた奴はいないでしょ!!」
そういえば、そうだ……。と口々に声が上がる。
「先代魔王とか先々代に、食事に誘われたらお断りする奴もいるでしょうけど。今の魔王様に驕って貰えるってそれは、どんなボーナスよりも嬉しいことじゃないの?」
その時、全員の眼が嫉妬に染まる。
「そういえばそうだ、どうなってんだ!!」と声が上がるが、ギブソンがそれに待ったをかけた。「魔王様はお子様でいらっしゃる、ひょっとしたら万が一忘れているという事もあるかもしれん……。忘れていたのなら、それは仕方のない事だ。我らをぞんざいに扱っているのではなく、ただ忘れてたと言う事であればな」
そりゃそうだわと、そこは一端収まったのだ。ギブソンが、確認をしてくるという一言を残して魔王城に登城した。結果、どうなったかというと。
「軍部が結果を出しているのは、軍部は強いのが揃っているからだ。弱いモノに希望を与えるのが趣旨なのだから、強いお前らがねだるのはおかしかろう?」と魔王様に言われ、ギブソン顔真っ赤。
「ただ、まぁ私の願いを一つ聞いてくれるのならば。ギブソン、お前の願いも一つ叶えてやろう。私は酒は飲めんからジュースかミルクだが」
お聞きしましょう、魔王様の願いとやらを……。とギブソンが安請け合いした結果冒頭の様に闘技場にギブソンが出場する事になったのだ。
「なじぇぇぇぇぇぇ! 相手貴族じゃないですかヤダーー!!」←ギブソン心の叫び
実の所、ギブソンは子供達には非常に人気でありながら。玩具にもなっているのだが、軍部に所属する戦争バカの修行バカであるため闘技場に出場する事なんか無かったのだ。
そして、子供に人気というのは魔王様にも好かれているという事である。
当然、魔王様は闘技場にギブソンを出したくて仕方なかったが普通に頼みに行っても断られると思い込んでいた。(色んな人が魔王城で交渉していたのを聞いていたりしたため)
※実際の所、ギブソンは魔王様に頼まれたら出場を決めている程度に忠義は厚い。魔王様の勘違いである。
なので、「私の願いを聞いてくれ!」「おーけーよろこんで!」の流れからの「なじぇぇぇぇぇ!」である。
アリアちゃん、朝五時起きして肩からギジェルの顔ポーチを下げ。やや大きめの勇者Tシャツを着て闘技場にママンとパパンとならんでやってきた。違う意味で気合をいれてきたのである。
「ギブソン、がんばれ~」闘技場には子供達の声援が響き渡っていた。
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