第五十七話 灰の祈り

私は、羽生(はせ)。一応、公務員だ。



一応というのも、我らは軍隊だからな。

魔王城の命令というより、周辺住民に突き上げられてという普段とあべこべな状況に戸惑いつつも。我らはパワフルでアグレッシブな、眠らぬ種族で構成された建設部隊。


普段は、工兵として城壁を作ったり。罠を作ったり、とにかく作ると運ぶを重点的にやっている。作った建築物から敵を見下ろし、罠にかかる様を眺めるのは実に素晴らしい。



その為に、全てを築く。



力無き、種族の生き様の学び舎として。

最近は、黒騎士様という力無き種族の星の様な魔王側近が現れ。この界隈も、非常に盛り上がっている。



のだが……。



(これ、仕事多すぎね? え? やばくねぇ?)



先月、百貨店構想やら。農地大拡張等で我らは無双しまくったし、臨時ボーナスももちろんガッツリでたのだが。


(いや、それにしたってこれ多すぎでしょ)


最近は、百貨店の新しい棟を建てる事や資材調達に全力で取り組んでいるが。依然と違うのは商人でさえ、仕入れ値と利益を書いた書類を持ってきて。


「おさめるからサインしろ、早くしろ」とせっつく始末。

いやいや、商人の言い値で買ったら普通高くつくだろと思ったら。以前と比べて二割引き、どういうことやねんと問い詰める。



「俺はな、利益そこねるより。かみさんの機嫌損ねるほうが怖いねん」



(その時、羽生に電流走る)



「もしかして、百貨店の新しいフロア建築をせっついてる中に奥様が……」

「せや、かみさんは俺がこの事業の材料手配をしとる事を知っとる。材料が届かんで工事が滞りました言ったらそれこそナム・サンダーやで」



両手を合唱しながら、雷魔法が直撃し自分が昇天していく様を想像しながらおどける様に言った。


(そういえば従業員の中にも、奥さん達が無茶苦茶協力的な一団が居ったわ)


「そんな訳で、利益は多少減ってもとにかく滞りなく材料揃える事に俺は注力しとんねん。他の連中も似たようなもんやろ、不具合なんぞだしてみろ。お上や業者には嫌な顔されたり罰金程度かもしれんが、俺はかみさんに物理的に殺されんで」


「判ります」


先日も、全身に和彫りの入れ墨が入った筋肉質の百八十センチ位の美魔女がここきてうちの人がどうのってゆってたもんなぁ。


ちなみに、今眼の前で頭を抱えている材料屋の奥さんの事だ。


雷鬼と呼ばれる種族で怒りだすと頭に二本、両肩にも一本づつ角が生える種族で肉体強化と雷魔法に関しちゃ一家言ある。


魔国の常識では、男女差というのは余りなく強いモノが尊ばれる。

特に強い種族では、出産した次の日から元気に戦闘に繰り出す様な連中もいる。


魔国で肩身が狭いのは、強くないもの達。スキルや魔法は当然あれば強いが、無くても黒騎士の様なものもいる為実際戦ってみないと判らない為に闘技場が大盛況というのもある。



「そのナム・サンダーというのどっから出て来た言葉なんですか?」

「なんでも、アリア様が人間が南無阿弥陀仏みたいに祈る連中がいて。ナムサンダーっていうフレーズが気に入って遊んでたのをうちのかみさんがそれええなぁっていって、俺に雷落とす時よくナムサンダーとかいって落とす様になったねん」



「ホントロクな事覚えてこないな、我らが魔王様は」

「あー言う所が可愛いんですがね」


二人して、しゃーないやろ。その魔王様のおかげで仕事は大盛況、アウトローの連中すら今は無心で働いとんやぞ。


「組長が怖いだけちゃいますん?」「その組長、連れ去られる宇宙人みたいに両脇固められて魔王城呼び出されたらしいでっせ」


思わず、あちゃーとなる。


「もう少し魔王様は、こうバランスを考えて欲しいモノですな」

「同感やで、かなわんわ」

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