第五十二話 悪夢の宅急便

「出来るだけ弱そうな見た目の、空を飛べる兵は全員集合しろ」



そう、魔王に言われ庭に集まった。体が小さめのグリフォンやら天狗らやらがひそひそと会話していた。


実際、フェアリーやピクシー等もいて本当に見渡す限り全員が手紙ぐらいしかもって飛べない様な種族たち。



アリアがそのちっちゃいボディで木の箱によじ登ると、全員に向かって言った。


「諸君らに運んでもらいたいものがある、人間共の頭の上にこれを落としたら当たらなくてもいいから全速力で逃げかえってくる。任務はこれだけだ」



そういって、やけに怪しい色をした薬品が入った竹筒を一本一本手渡す。

今まで誰にも期待されなかったもの達が、魔王に手渡しで任務を頼まれる。


「どれだけ高い位置からでも構わない、それを落としてきてくれさえすればいい」そういってアリアちゃんは優しく声をかける。



「手では触れるなよ、蓋をあけたら足や翼。後は、仲間にもかからない様に落とすんだ」

「これ、一体なんの液体なんです?」「嫌がらせ用のスペシャルな奴を錬金術師ギルドの連中に作ってもらったのだ。これで嫌になれば、更に人間の兵士は戦争を避けたがるだろう。君たちに与える仕事はとても、重要な仕事だぞ。魔法もスキルもいらない、空を飛べるだけでいい」


そう力説する、魔王様。おどおどしている連中に自信をつけさせたい、元気になってもらいたい。だから、無理をしてでもアリアちゃんは魔王として振舞った。


「それが、ご命令とあらば行ってきます」全員が意思を一つにアリアちゃんの方を見た。

「ちゃんと落ちたかの確認をする奴はいるが、任務を終えて無事に帰って来たもの全員に特別ボーナスを支給する。無論、前払いでもいいが。前払いを受け取ったら、絶対生きて帰らねば許さんからな」


そういうと、魔王は木の箱にしがみつきながらよじよじと降りると。「行け!」


そこへ、ギジェルとラクセイがやってきて「結局あの液体は一体どういうものなんです?」


それを聞いて、アリアちゃんが口を三日月の様にして笑いながら言った。


「ケツからバーニングのソースの原液と山芋をすったもの等を混ぜ、様々な調整を施した代物だ。無論風等で飛ばない様に、特別重くして落ちる様にしてある」


それを聞いた瞬間、先日黒騎士と言ったフェアリーでのメニューを思い出し。男二人が尻を手で押さえ真っ青になる。


「眼や肌など触れただけでかゆみが止まらず、油入りで水洗いしても中々落ちず。ついた所から僅かに揮発した分がさらに苦しみを演出するのだ」


「誰ですか、そんなド畜生極まりない代物作ったの」「錬金術ギルドの……お姉さん?」

可愛く首を傾げるアリアちゃん、戦慄するラクセイ。


「友軍の上には落とさんで下さいよ、味方から苦情が絶対出まくる」ギジェルもある意味確信を持って断言した。



(シュテインめ……)



「油が入ってるから、鎧や鎖帷子の中から染み入って。鎧の中で汗と一緒に揮発するとかゆみが全身に広がって落ちなくなるって言ってた。魔法や呪いじゃないから、本当に重油並に纏わりついてかぶれて大変な事になるって」



アリアちゃんがそう説明すると、真っ青になるギジェル。


「本っっっっっ当に、ロクなもん作らねぇなあのアマ」悪態をついたラクセイ。


「ちちうえが、面白そうだから人の軍の上に撒かせてこいって。成功したらボーナスあげれば自信がない魔族も元気になれるってきいた」


ギジェルが思わず額に手を当て、クソでか溜息をついた。

(間違ってもないし、嘘も言ってないけど娘になんて事を教えるんだあの悪友は……)


「後は、これも撒こうとしてたんだけど。ははうえに止められたから、見合わせたのだけど」


そういって、やけにカレー色な液体が入った瓶が。


「何です、さっきのよりヤバそうな色してますが」

「名称は:便器とずっ友っていって……」「あっ、もう大体判ったから説明は良いです」


「こう、無くなった腕が元に戻るとかそういう薬はないんですか?」

「あぁ、それなら。なおるんですとかいうこれだな」


「かけてものんでも、病も呪いも怪我もこれ一本だそうだ」

「凄いじゃないですか」「これ便器とずっ友作る時の搾りかすだって」


思わず、目を見合わせるギジェルとラクセイ。


(つまりこのなおるんですを作ると、便器とずっ友も量産する事になると)


「元が同じ原料だから、かけてものませても効果があるのも一緒だって言ってた」




その後、シュテインは趣味で作っていたあやすぃ薬達を廃棄処分させられた事は想像にかたくない。

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