第五十一話 フェアリーカフェテラス

ここは、魔国の魔王城から少し北方向に離れた所にある。妖精カフェ……、なのだが実はここ最近フェアリー達のテンションが落ちて困っていた。というのも「妖精カフェ」という名の通り、色とりどりの美しい妖精がお洒落な花のハーブティーを出しているお店である。


というのも売り上げ自体は絶好調、定時にはちゃんと帰れるし。職場的にはかなりこの国でもホワイトの部類に入る。


では何故、妖精達のテンションが落ちているかというと。その店の売り上げナンバーワンが、非常に不本意なメニューだからである。


妖精達は、ハーブティやパフェやお菓子といったカフェらしいメニューを出したい。

しかし、この店のナンバーワンはケツからバーニングという名の激辛セットなのだ。


ちなみに、バズるきっかけになったのは。オリジンがこの店にやってきて、偶々激辛セットを発見(冬限定メニュー)との表示もありそれを注文。


そして、本当に尻から火を出しながら救急搬送されたという伝説を作ってしまった。


元々は火属性の妖精が悪ノリして作って、地元の人がみんなでシェアして食べる程度のモノだったのだが。辛さMaxはオリジンすら倒せる料理との評判が国中に広がり、我こそはと思うものが挑戦する為の列を作っていた。ちなみに、一度調査にきたラクセイは搬送こそされなかったが数日トイレから出る事が出来なかった事も追記しておく。



更に、先代魔王と先々代魔王に至っては気合と根性で意識を強く強く保ちながらなんとか退店するとやはり、しばらくトイレから出られなくなったという。



それで、本日貸し切りの札を下げているこの店で似合わぬ筋肉でピチピチになったスーツを着て現れた男。それが、ギジェルであった。何故、この店にギジェルが来たかと言えば再三黒騎士にラブレターを送りまくり。ゲッソリしたアリアちゃんがここを貸し切りにしておくから二人でお茶でもしろとギジェルに命じたからだ。


「良いかギジェル、黒騎士と言えど乙女なのだから。紳士にお茶をしながら話すだけにしておけ」とアリアが命じた所二つ返事で了承。神速で仕事を片付け、店のオープン二時間前から貸し切りなのに入り口で待っているという塩梅。


そこへ、時間通りに黒騎士が現れ。「ギジェル殿、今日はカフェに付き合って下さり感謝する」「とんでもない」とお互いに頭を下げ店内へ。


そして、黒騎士は「ケツからバーニングを頼む」と一言告げ。ギジェルは眼を剥いたが、男として引き下がれず。「俺もそれを頼む」と注文。


眼の前に特級呪物というか、香りだけでハエの様にフェアリーがふらふら落ちそうになっている代物が目の前に届く。ちなみに、全員ガスマスク完備でだ。


ギジェルはこれがオリジンを病院送りにした料理……と呟くと、一口目で体中の水分がしぼりだされそうな勢いで発汗。(恐るべき料理だ!)と黒騎士の方をチラ見すると実に涼しい顔で口元だけヘルムをあけてまるでハンバーグでも食べている様なペースでたべているではないか。


(なん…だと?!)


「どうした?ギジェル殿、甘いパフェがお好みか?」と黒騎士に言われ。

「否っ、つい貴女に見とれてしまっていただけだ」と強がり。


「そうか」と口元だけ見えている部分で優しく笑った。

「ファントム殿は、辛党なのかな」と尋ねれば。

「好き嫌いは特にないな、ただこの店にきたらやはりこれを頼みたい」と手に持っているスプーンで皿を小突く。



(人生最大の試練の時っ!!)



つまり、こういう事だ。今後もファントムとここで会う事になれば、必然このメニューと向き合うと言う事。この「ケツからバーニング」という一品と。


オリジンも先代魔王達も、打ち負かした一皿をなんと涼し気に食べるのだ。

見ほれていたという表現も嘘ではないが、驚愕をもって見ていたのは確かだ。


「ギジェル殿は、何故あれだけスキルや魔法を使えるのに使わずにやってきたのだ?」

そう、聞かれた。


しばらく考え、ギジェルは意を決し。「俺は武を極めたい、才能に捕らわれず。胡坐をかかず、ただ鍛えぬいて強くなりたい。だから、俺にとって貴女のスタイルは眩しく映った」


「そうか、魔族は戦闘力を重要視されるのだから。使えるのならば、全てを使っても私は良いと思うが」


「貴女の言葉とは思えない」「私は、それだけしか出来なかった。それでも魔族として強くありたかっただけだ」そういって、自分の手を見つめた。



一言二言、お互い言葉を交わす事は苦手でも。言いたい事は、数多ある。


「民を不幸にしない王になら、私はしたがう。私は騎士、報酬と仁義に忠誠を誓う」


ギジェルは、やはり間違っていなかったのだと強く頷く。


「また、会えるだろうか」「ギジェル殿が、民を不幸にせず守る軍人ならば会う事もあるだろうさ」


そういうと、空になった皿に食器を置いた。ギジェルも、何とか食べ終えると。辛さで震える足を手で押さえつけながら言った。



こうして、ギジェルはカフェで言葉数は少なくとも実に良い時間を過ごす事が出来た。





彼の、初デートの心の花は尻から咲いただけ。




では、何故黒騎士の方はそんな事にならなかったと言うと……。

例の剣を創り出す要領で、魔力で黒騎士を作成したアリア様が嫌がらせの為にあの店を選んで当然味覚はつけずに向かわせたというのがオチとなる。


それを聞いた、ヒルダリアとオリジンが過呼吸になる程笑い転げたのだがそれは読者しか知らなくていい事だ。

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