第四十四話 黒騎士引っ張り出される


「これは、一体どういう事だ」


アリアちゃんが手をプルプルさせながら、一枚の紙を見ていた。

そこには、黒騎士様と戦おう!と可愛いポップで描かれ。黒騎士姿の自分が親指を立ててヘルムを光らせているイラストが。



それを一緒になってみている、顔面がパズルの様になっているヒルダリア。



ドヤ顔の、ギジェルとかバラート等の脳みそ筋肉の面々。


「是非っ、黒騎士殿を地下闘技場のエキシビジョンマッチに出場させて頂きたい!!」


その場にいる全ての筋肉が土下座していて、アリアちゃんがドン引きしながらそっとヒルダリアの方を見た。なんか、無言でタスケテと言っている様な表情で。



「ギジェル殿、詳しく話を伺っても?」ヒルダリアの方は極めて冷静に尋ねる。


土下座のまま、「はい! 魔王様の号令で作られた百貨店地下闘技場は大変に好評で戦う方も観客も大いに盛り上がっております。しかし、何故魔王様側近であるラクセイ殿と黒騎士殿が出場しないのかと騒ぎになっておりまして」



思い当たる事がありすぎて、胸のあたりを押さえながら真っ青になって蹲るアリアちゃん。


「先日、ラクセイ殿については優勝者とエキシビジョンマッチという特別枠でかつ優勝者が俺を指名した場合一回のみ戦う……という条件を突き付けられました。そして、その日の試合の優勝者は早速ラクセイ様を指名した訳です。俺も戦いたかった!」


本音漏れてんで、このオッサンとヒルダリアが思いながらも努めて冷静に「そうですか」と返した。女狐は、伊達ではない。


ラクセイ様特別グッズは、売れに売れ。特に、ラクセイと一緒に記念写真をとって。写真にサインをもらう時に自分の名前を入れてもらえるコーナーではまさかの九時間待ち。


無論、ギジェルも並んでいた一人だと熱弁。


ドン引きする、アリアとヒルダリア。


「そこで、次の優勝者には黒騎士殿とエキシビジョンマッチ出来るのではないかと期待が高まっておりまして。是非、ご検討して頂きたくっ!」



黒騎士は、魔王の直接の命令以外では動かない事は誰もが知っている事だ。

そして、スキルや魔法ではなく剣の腕のみでその地位にいる(と思われてる)上。低音の女性の声で殆ど無感情で喋る(喋るとボロがでそうだから)。



故に、魔法があるから。スキルがあるから。才能があるからなどの理由で戦う事を諦めてきた連中からすれば。その努力と執念だけで、魔王側近の地位にいる(と思われている)訳でラクセイ以上に人気がある。下手をすると、アリアと同じぐらい人気があるのだ。



そして、冒頭の魔王タスケテの表情これである。(自業自得で救いは無かった)



ヒルダリアはゆっくり、ゆ~~~っくり息を吐きだすと一言。


「追加条件が飲めるのなら、手配しましょう」そのママンの台詞にぇ~~~となるアリア。


「記念写真サイン付は、優勝者のみ。勝っても負けてもです。他にも、黒騎士には何の効果もない頑丈なだけの剣で戦って貰います。相手は魔法もスキルもありありで」


おぉ~となる土下座の一同、まるで酸っぱいガムを大量に口に入れてしまった子供のような表情のアリア。



「最後に、観客が多すぎる事になると思いますので。全席予約席とし、立ち見は禁止。代わりに王都上空にそのエキシビジョンマッチだけ映して誰でも見れるようにします」


それらの、条件を委細承知できるのならば。話をつけましょう。「ねぇアリアちゃん?」と不気味な顔で首を傾げるママン、頷くだけの人形になる魔王様。


「それと、貴族家当主にこれだけははっきり伝えておきますが……。最近、闘技場の通いすぎで仕事が滞っていますので。仕事が残っている、貴族家には出場資格も予約券を取る資格も無い事とします」


その瞬間、ダッシュで居なくなる土下座していた人達。


「ははうえ、実は怒ってましたか」「アリアちゃん、ごめんなさいね。エサもないのに魚は釣れないのよ」

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