第三十六話 蒼薔薇の錬金術師

ここは、魔国錬金術ギルド(薬師と医師会に実態は近い)。そこで、角をつき合わせている相手は商工ギルドの長であるルティカ。


この部屋の主は、蒼薔薇の錬金術師と名高い錬金術ギルドマスターであるシュテインである。


頭のお団子に蒼薔薇の髪留め、黒いドレスを好んでいて髪色は白銀。腰まで髪があるのに、まるで光のカーテンが零れている様な容姿のシュテインに眼もくれず。黒いお嬢様の様な巻き髪に紅い蝶をふんだんにあしらった白い肌の黒い薔薇が歩いている様なルティカがすわった眼で答えた。



「シュテイン、ヒルダリア様は何と?」「待て待て、ただの感謝状だ。魔王様の手形付のな」と印鑑代わりに書類の後ろに小さいモミジの様な手形のついた羊皮紙を恭しくうけとると一瞥し頷いた。


「確かに、我々だけはぶられた時はどうしようかと思ったが」


あれ?とシュテインは思った。


「ルティカ、商工会は貴女の管轄。つまり、露店等の百貨店内部担当誘致等は貴女が決めていた筈ですよね?」


瞬間、ルティカはその美しい顔をこれ以上ない位くしゃくしゃにして泣きだした。


「だってぇ~、だってぇぇぇぇ!」大人の女性がこんな大泣きするなんて、余程の事があったのだろうかとシュテインが背中をさすりながらハンカチを貸す。


ずび~とその、真珠の様なハンカチで鼻をかんで一撃でダメにするとマスカラが流れてしまって凄い顔になってしまっている。


「何があったのか、聞かせてもらえる?」努めて、そのハンカチをダメにされた事はもう忘れようと決心したシュテイン。ちなみに、そのハンカチは二百三十五年目の結婚記念日に旦那から送られたお気に入りだったが貸したのは自分の判断なので。後で、謝ろうと決意しながらルティカの正面に足を閉じて優雅に座った。



「魔王様の百貨店構想は、私にとっても素晴らしいものだった。だから、賛成したのよ。所が、フロアの面積が全然足りないの! 客足は連日衰える事もなく、清潔な店が並んでいて。誰もがその百貨店に入りたがった! 私に賄賂を渡そうとするもの書類に小細工しようとするものは光の速さでヒルダリア様にしょっ引かれたわ」


(でしょうね、他の官僚や貴族ならともかく。ここ王都で、ヒルダリア様相手にそんな小細工通用する訳ないじゃない)


「すぐに私は上申したわ、全然フロアが足りないと。すぐに対応するには土地が足りないと言われたので私は二十連勤徹夜で走り回ってすぐに地上げの用意したの」


ルティカがふんすと鼻息荒く一気に説明、ゆっくりと紅茶を口につけ頷くシュティン。


「アンタから、壁の補強薬やら。スタミナゴールドの発注が一万本単位で来た時は何かの間違いじゃないかと思って。何度も何度も確認したわよね、それでも間違いないから早く出せの一点張り。ただ事じゃないと思って、調べて見たらそんな事になっていたと」


幸い、土地は商工会の人間が八割だったので何処でも引っ越し費用こっち持ちで土地の値段三倍で買う上で別の住居も用意するからどけって言おうとしたんだけど。


「どけって言おうとしたらもう、魔王様に売るという契約で印鑑ついた奴がタワーになってたとかいうオチだったのよね」


あいつら、普段書類仕事がクソ程遅い癖にとき~と言った。


「その癖、建設人員に参加して働くから有給休暇を下さい?。ギルド員全員分休暇を出しましたよ、おかげで一つのギルドの仕事全部私がやる羽目になりましたよえぇ……」


ゲッソリしながら、溜息をつく。


「だから、スタミナゴールドで睡眠をゼロにして働いていたと……」

「そうよ!!」


それで、待っていたのはフロアの出店くじ引き。


「当たらなかった人が、また新しい棟を建てるのはいつですかと突き上げてるの!」


そんなにデカくしても、管理や人員やら大変なのよ。

まだマシなのは、関係者全員が建てて拡張していく事については意思を一つに協力的だって事くらい。


「日当たりに関してはうちで開発した塗料で、太陽光を反射させたり屈折させる事で対応したのよね。発電は超上空に転送陣で大気を取り込み、気圧を利用して風と空気の様な必要な要素だけを通して発電機を回して。無限発電機みたいになってるって話よね?」


「それで、オーガドリルを通した所から温泉引っ張って健康ランドまで作ったのよね?。 私も行ったけど、あれは素晴らしいわ!」


ワンフロアの貴族の布団も洗えるコインランドリー用の粉石鹸だけで、トン単位の注文が来たり。石鹸やらシャンプーやら、化粧水に美容液と化粧品の類専門フロアまで出来ていたのを思い浮かべ。


「貴女の所も、調合の注文が殺到したって話じゃない」一気に自棄酒でもあおる様に紅茶を飲み干すと指を指しながらいった。


「こっちは、材料と時間と予算さえもらえればやるわよ」


貴女はいつも、予算と材料をケチろうとする上。早く作りなさいってほざくじゃないと微笑みながら言い返す。


「徹夜は?」「あのねぇ、少なくとも美容品売っている部署でそんな過労させたら美容に影響があって売り上げ駄々下がりよ。もちろん帰らせてるわ」


その瞬間、地面に頭から崩れ落ちる。ルティカがくたぁという効果音と共に机の下に消えた。


「私もそっちの職員が良かったぁぁぁぁ」とまたわーわー泣き出したのである。


「アンタギルド長でしょうが、命令して定時で帰ればいいじゃない」

「それが、さっきも言った通り。私一人で回してるから、皆の有給が尽きるまで、私の変わりはいないのよぉぉぉぉ」


(回せるからこそ、貴女にお鉢が回ってくるというオチか。真面目な有能は損ね)


と思ったがシュテインは、口には出さずお菓子を頬張った。

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