第二十六話 おもちゃ屋プラモ

「たのもー」可愛い声で店に入ってくる魔王様、ちなみにここはおもちゃ屋だ。


ヤギの頭をした、店長プラモが誰に対しても同じように対応していた。



「何かお探しですか?」「うむ、ゆかりちゃんが持っていたスライムファミリーの愉快な穴倉が欲しい」


スライムファミリーは丸いグミみたいな玩具に、それっぽい顔が書いてある。

所謂、子供用の人形セットだ。手慣れた様子で、プラモが透明な棚のある場所をゆっくり歩いていき。スライムファミリーシリーズのあるケースの前で止まり、指を指しながら。

「はいはい、ここがスライムファミリーの棚だよ。決まったら、呼んでおくれ」

そういうと近くに設置してある椅子にプラモはゆったり腰をかけ、アリアは棚を見始めるが……。


「上の方がみえない」


※アリアちゃんは五歳、いくら透明な棚でも上の方は見えない。


しばらく、うーんと考え。アリアが手を二回叩くとテリーヌが「お呼びでございましょうか」と無表情の女が現れた。



ツインテールに、お団子頭であり。一時期は、メタボになりかけていたが。ブートキャンプによりスタイルを取り戻した経緯を持つ。


「すまぬ、私を持ち上げて欲しい」「はい」それだけやりとりをすると、テリーヌがアリアを肩車して持ち上げた。


「うむ、やはり。森の穴倉セットは高くて買えん……」そんな事をボヤキながら透明の棚を物色しつつ考え込む。



ちなみに、彼女がお団子にしているのはお洒落とかではなく魔王様を肩車した時に掴まりやすくする為のものだ。


「所で、魔王様。スライムの穴倉シリーズを物色するのは大変結構ですが、置き場所はどうするのです?」とテリーヌが尋ねた瞬間魔王様が「あっ……」みたいな顔をした。


先日、ヒルダリアを始めとした文官や大臣達の福利厚生の為に幾つかの部屋をあけた訳だが。その空けた部屋の中には自分の玩具だけ散らかしてた所詮倉庫部屋も含まれ、今はそのおもちゃたちは一つの部屋に押し込まれている状態な事を思い出したのだ。



「あれだけ、大好評なのだ。今やっぱりなしにするとか言ったら反乱が起きる」

「先代や先々代やその前の魔王様ならともかく、アリア様なら全く問題ないと思いますが」テリーヌは肩車しながらそう答えた。


彼女は、アリアの強欲の能力がどれほどエグイか知っている。その気になれば魂も意識も能力も経験さえ思いのままに強奪可能なのだ。しかも範囲にさえ入ってれば対象数に制限など無く勇者のユニークですら強奪可能なそれだけでも、歴代魔王屈指のヤバさを誇る。


問題は、この魔王様は歴代で一番やる気がない事なのだ。当然、お片付けもなるべくやりたくない。しぶしぶ部屋を片付けたのは、大好きなママンを休ませる為であるから頑張っただけである。何故か、サボり癖はパパンに似た。



「新たに、玩具小屋を外に作るか……」「それが、宜しゅうございます」

「すまぬ、おばちゃん。これに決めたので、後で魔王城に届けて欲しい」


アリアが指さしたのは、一番上の棚にあった。田んぼの横の穴倉という、別のスライムの穴倉シリーズだった。「はいはい、輸送料込みで丁度千ボンですよ」


アリアはポケットから、しわしわよれよれのになった紙幣を出した。

ちなみに、最初五百ボンだったアリアのお小遣いではあるが魔王就任の際に月五千ボンにアップされている。曰く、例え使わなかったとしても魔王のお小遣いが五百ボンでは支障がありすぎるとヒルダリアが苦笑しながら増額したものだ。


まぁ、結局五歳児なのでこうして玩具屋か買い食いかで消えていくのだが。同じ歳の貴族の子女や大商家の跡取りなどは月十万以上のお小遣いをもらっている場合もあるので。魔王としてはこれでもかなり少な目だ。普通であれば、バカにされたりコケにされたりいじめられたりと言った事があるはずだが。相手が魔王では、そんなイベントは起こらない。


「テリーヌ、ありがとう助かった」肩車されながら、魔王がそういうと。テリーヌは、無表情で頷いた。そのまま、外へ出ると店の前に置いてあった自販機でスライム風アイスを購入し食べようとするが。刺した場所が悪かったのか、外側の水風船が地面にはらりと落ちテリーヌの頭は中身のバニラアイスを浴びて。べっちゃべちゃになり、アリアが涙目になりつつテリーヌに謝ろうとしたのだが。やはり、無表情でよく見れば額に青筋がぴくぴくしていた。


「魔王様、次からは気をつけて下さい」「あい(猫ミーム風)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る