第二十二話 不貞腐れギジェル
今日もイライラしながら、軍閥のギジェルは青筋を額に浮かべつつ司令官や隊長達を見渡した。
「貴様ら! どうして、割烹着などを着ておるか!!」
「いえ、部下達に魔王様が来るときには掃除をしろだの。料理を作れだの、覇気を纏った形で突き上げられまして……」
ギジェルも、魔王様が遊びに行った部隊が恐ろしい程の戦果をあげているのは知っている。
「普段は軍服を着ろ! 貴様ら一応司令官や各部隊の隊長なのだぞ!!」
お互いに顔を見合わせ、だってなぁ……みたいな表情をする一同。
「下手に、捕虜を虐殺したり。娼婦をよんだり、酒やご馳走を出すよりも。魔王様が見に来るほうが戦果があがるのです。我々とて、職業軍人としてこんな理不尽な話はないと思いつつも結果が出るのなら割烹着で家事スキルだけカンストでもいいんじゃないかと思いまして」
一人の部下は、最近発売されたスチームアイロンで洗濯物を畳みながらギジェルに文句を言った。
ギジェルとて、魔王様にそのカイゼル髭を操縦桿等と言って引っ張られて遊ばれているが魔王は魔王。序列は序列である、その悲しみは文字通り(いやという程知っている)のだ。
貰った生首で、地下が溢れるなど聞いた事が無い。その人気ぶりは兵だけではなく民達にもで。度重なる減税、百貨店なるギャンブル場の解禁、給食の質アップなど歴代魔王らしからぬ程政治に強い(ほとんどママンの頑張り)。
最近は、近衛を先代魔王レベルに数ヶ月で全員鍛え上げるという事までやってのけた。(これも殆ど召喚した邪神や悪魔がハッスルしただけ)
本来なら、宮廷スズメどもや貴族が文句やいちゃもんを言うはずなのだが。
先代魔王(パパン)の時など事あるごとに難癖つけていた連中でさえ、百貨店の階層ごとの利益分配という鼻薬をかがされ。沈黙を貫いた、沈黙するだけで利権も利益も入り放題なら奴らは全裸待機だろうさ。
んで結局、そのとばっちりを受けているのは我々軍部だ。
「建設に人が足りないから、筋トレ代わりに荷物運んで」
こんな事を言われて、自分以外の軍人はほぼ全員「ハイ喜んで!(居酒屋風」と返事したのだぞ。
後で聞いたら、アスレチックジムなる階層で先代魔王並みに近衛を鍛え上げた連中がトレーナー?になって一兵卒すら先代魔王並みに強くする!をスローガンに鍛える施設を導入するらしい。
「何それ」これがギジェルの本音である、だって考えても見て欲しい。先代魔王レベルの兵士を量産しておきながらそれを娯楽施設と言い張るのだぞ?
戦争大好きな魔王ならともかく、戦争面倒といっているアリア様がだぞ?
「どこでその戦力を使うんだ、どこに向かってるんだ魔王様は……」
そんな事を天に向かって、怨嗟の様に呟く。
(よもや、それだけの戦力を鍛え上げて全員で家事と土木工事と建設だけやらせるのではなかろうな!)
※ありそうすぎて困る
あげく、先代魔王様がそれに文句をいうかと思いきや……。
「俺もアスレチックジムで鍛えまくって、強くなりゅ」なりゅじゃねぇよ、オッサンが。
おまけに、その隣に怪しげな研究施設を作っては最新の兵器から米が美味しく炊けるだけの魔道具の開発までを研究者にやらせだしたんだぞ。
あの、病的なまでに米だけをこざらにとりわけながら死んだ眼でパサつきや舌ざわりだけを永遠メモしつつ。時間と温度に拘り、材質やコーティングを試す為だけに連日泊まりこんでる連中がいるんだぞ。雨雲発生魔道具や、肥料等も開発しもはや百貨店の周りの建物だけで魔国の機能の殆どが解決するレベルで集約されてるんだぞ。
最近では「百貨店は転送陣つけてお空に浮かせた方が良いかな」だと?
そんなもん、空に浮かせて移動出来たら要塞ではないか。
実質、物資や兵器や兵士の運搬をせずに済む。
「本当に戦争嫌いなんか、あの魔王様」と疑いの眼差しを何度向けたか判らん。
最近は「ケーキフェア」だっけか?ケーキを作って腕を競って売るだけのフロアを作って「誰でも口に出来る様に一個五十ボンに統一し(フェア中材料費等申請したものは魔王城から現物支給で届く等の補助モリモリで)、なんの為にそんな無駄な事を……と思っていたら。ヒルダリア様を始めとした、女性官僚達が眼を血走らせて大盛況に終わったというんだから何が起こるか判らん。
「揚げ物フェアはないものか……」と俺の部下が呟いた所、魔王様がたまたま聞いていて「それは来月」と答え、よく見たら百貨店の壁にフェアのカレンダーが貼ってあったというオチまでついていた。
というか、フェアに参加してくれたテントのお店の店主の顔写真と普段の値段と店主一押しの商品の写真が貼ってあるおかげで宣伝効果が可笑しな事になっておるし……。
ギジェルの苦悩は、ずっと続く。
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