第二十一話 ワガママ
「ラクセイはおるか」
「はっ、ここに!」
「城下の賭博場を仕切っている連中の頭を、我が前につれてこい」
「御意」
それだけいうと、魔王様は次に大臣達(ははうえが長)を呼びだす。
「アリアちゃん、ママは忙しいのだけど」
「ははうえ、おねがいがあります」
首を傾げる、魔王の母と大臣達。
「一応、話を聞きましょう。ママだって出来る事と出来ない事があります」
「連れてきました」
以前、魔王の父親がそうされたように宇宙人の様に連行され地べたに転がされた強面の男が一人。
「いってぇな……、ここは何処だ」「ここは、魔王城だ」とラクセイが素早く答えた。
え?みたいな顔で辺りを見回すと、大臣達と魔王が居たので慌てて両手をついて土下座の姿勢をとった。
「これは、失礼しました。何用でございましょうか?」あくまでも丁寧に対応する、決して見回したら騎士も悪魔も邪神もさっさと控えろクソ雑魚がと殺気を飛ばしていたからではない。
「ラクセイ、これが責任者であってる?」こてんと首を傾げる魔王様。
「はい、間違いなく」キリッと答えるラクセイ。
「そうか、お前に頼みがある」「話を伺いましょう」
そう、決して断ったら部屋の全員が殺しにかかってくる事を確信できたからではない。
「名は?」「ビーゲルです」
「ビーゲル、ははうえ。私は百貨店が城下に欲しいです」
「は?」「え?」二人ともきょとんとなる。
「城下に沢山賭場があるのは面倒です。百貨店の上の階に賭場を始め遊ぶ場所を集約、下の階では誘致したお店を並べ。儲けのなかから定期馬車を出して欲しいのです」
「アリアちゃん?何故、それが欲しいと思ったのかしら」
「現在の店は、テントが並んでいるだけです。集約した場所でしかできない事を百貨店でやれば一つの建物で悪天候の日でも多くの家族が楽しむ事ができます」
その瞬間眼がすわる、魔王の母親。「本音は?」「屋上の賭場でステージをやって欲しい、吟遊詩人や踊り子なんかを呼んで」
両腕を組み、指でとんとんと考えながら。「確かに、それなら賭場や酒場や何かの商売をしている者達の許可がいるわね。だから、ラクセイに連れて来させたと……」
腐っても、魔王に甘くても彼女は大臣だ。高速で採算を考え、税制を検討し始める。
「今までの店を営む人たちとバッティングしない様に調整が必要ね、アリアちゃんその時間は待てるかしら」「検討してもらうために、呼んだのだ。内容が前向きであればまつ」
完全に置いてきぼりのビーゲルは魔王と大臣の会話を首だけキョロキョロさせながら、まるで表情は沙汰を待つ悪人だ。ちなみに、今まで賭場というのは法律で禁止されている。三代前の魔王が、やらかしまくったせいで。
(あれ? これ賭場が場所限定で合法になるから手を貸せって話?)
「それで、ビーゲルとやら。検討に参加する気はあるか?」とアリアに問われれば。
「お許し頂けるのでしたら」とはっきり答えた。
「話は判ったわ、何とか時間を作って次からは招待するから」とヒルダリアはビーゲルを立たせて手をすっと出し。ビーゲルも手を自然と出して、ガッチリ握手した。
その後、ビーゲルが退出した後で。
「アリアちゃん?」「ははうえ」「それ表向きの理由よね」「バレましたか」
大臣達が「え?」みたいな顔になる。
「実は、わたしがあそびにいくと兵士たちが生首をくれるのです」
うんうん、この魔国では強さこそが全て。敵の首や体の一部を差し出すのは一種の戦利品だものね。とここまではヒルダリアも大臣達も納得した。
「そろそろ、城の地下室が一杯になって来まして」
全員の頭に?が浮かび上がる。「ここの地下室はダンジョンになってたはずだけど?」とヒルダリアが尋ねると「ダンジョンが吸収するよりも、プレゼントの生首の方が多いのですははうえ」と言われ思わず「あぃぃぃ?」と大人の女性が出してはいけない様な声が裏返っている有様だ。
「少なくとも私が知る限り、そんなに生首を貰う様な魔王はいなかったはずだけど。もちろんアリアちゃんのパパも含めて」
確認してきて頂戴と、部下を走らせる。
しばらくすると、確認した部下が酷い顔で転がる様に謁見の間に戻って来た。
「大変です! 確かに魔王様のおっしゃる通り生首が入り口に溢れつつあります!!」
「という訳ですのでははうえ、捨てたり埋めたりする訳にもいかないので街灯やステージを飾る装飾品等に使ってもらおうと思ってなるべく大きくても文句を言われなさそうな建物を考えた結果百貨店構想になりました」
その瞬間、全員が尺取虫のようなポーズで顔から地面に落ちた。
無論、ヒルダリアもだ。
アリアが戦争を面倒という理由は、兵士たちがハッスルし過ぎて献上品が溢れると言う他の支配者達が聞いたら「変わってくれ」と言いそうな内容だったりする。
「アリアちゃん……、ママ百貨店がダメでも何らかの形で考えてあげるから」
尺取虫のポーズで顔を地面につけながら、ヒルダリアは苦笑した。
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