第十七話 魔王様のかーちゃん

魔王城の大臣専用部屋の中で、今日も禿げ散らかしている蒼い美しい髪のドレスの女性がいた。名をスノー・ブラッドスペル・ヒルダリア、現魔王アリアの母親である。



ちなみに、魔族にしては非常に容姿が優れており。しかし、魔族の評価基準は男女ともに能力最重要視であるため宝の持ち腐れといっていい。


先代魔王のアリアの父親の頃から、大臣を務めあげているだけあってバリバリのキャリアでもある彼女だが。現在の一人娘であるアリアを溺愛しており、能力の方もあの父親の種からどうやったらこんな異端の娘が生まれるんだと実子でありながら絶賛。



そろそろ、あの父親は居なくても良いかななんて思い始めている九百八十七才である。




「ヒルダリア様、今頃はアリア様はピクニックの様ですね」と、幹部の一人が言えば。

「あぁ……、今日もママは忙しくてアリアちゃんのお迎えもいってあげられないの」


それもこれも、この書類がいつまでたっても終らんからじゃボケがっ!



と全身からヤバいオーラを放ち始め眼がすわり始めるが、「アリア様が安心して過ごせるよう、我らも頑張りましょうぞ」と一同が宥めながら日々の仕事をかたづけるサイクルをおくっている。



「そうね、あの。まるでダメ夫のためとか言われたら、今すぐこれ全部焼いて灰にしてやってられっかド畜生が!ってバイバイする所だけどアリアちゃんの為だもんね」



(これである)



ちなみに、部下達からは今バイバイされたら洒落にならないので是が非でも大臣を続けて頂きたい所存である。


現在書類を増やしているのは、先日決まった(アリアちゃんの大好きな菓子パン屋が潰れた原因を作った連中の大掃除)であるのでそりゃーもうヒルダリア様大ハッスルでどんな小さな不正やミスも許さずしょっ引く。


いわく、「私もあそこのカスタードクリームパンが大好きだったのよぉ!許すまじ、許すまじぃぃぃぃぃぃ」とかヒステリー起こして。部下達からは「あぁ……、やっぱり親子だわ」とか思われていた。



アリアちゃんに、人手が欲しいとお願いしたら悪魔や邪神達をダース単位でヒルダリアのサポートにつけてくれたおかげで現在はこうして不機嫌になったら部屋のモノを蹴っ飛ばしたり窓を割る程度で済んでいる。



尚、他の大臣たちからは大変羨ましがられているが「応急処置に過ぎんから、自分達できちんと部下をそだてるのだぞ」と五歳児に言われてしまってはすごすごと引き下がる他なかった。


ちなみに、どの様な組織でも基本的に裏切る心配やら手を抜かれる事などは常に考えないといけないわけだが。召喚された、悪魔や邪神というのは心からアリアを心酔しており。そんな心配は、するだけ無駄というものだった。


むしろ、忠誠がぶっちぎりすぎて。アリアの悪口を言おうものなら全員で殴り込みに来るし、死ぬ寸前までエサをやらなかったピラニアの様にアリアのお役に立つ事に餓えた連中だった。



ヒルダリアの机を一番奥の中心にして、各自の机が並んでおり。アリアが決めた、定時には帰っていく。ちなみに、ヒルダリアという女性はこの書類に埋もれた部屋でアリアを育てる位には家に帰ってない。この部屋の奥に、アリアを寝かせていたベビーベットがまだおいてあり。疲れ果てると、そのベビーベットを見つめ。ここで、アリアちゃんを寝かせていたものね。大人しくて、泣かない子だったから助かったわ。


等と思い出しながら英気を養っている。その思い出に土足で踏み込む様な部下は例え緊急事態であっても許されるはずもなく。部屋の名前が、岩戸部屋とひそかに呼ばれている。



「ははうえ、ただいま」



但し、アリアちゃんを除く。



「あら、ピクニックは楽しかった?」「うん、凄く楽しかった♪」

「良かったわね~」「母上、また焼き菓子を作って欲しい」


満面の笑顔で、勿論よとアリアの頭を撫でた。



「でも、遅刻しそうだったからといってドラゴンに乗っていくのはダメよ。カッコいいからみんな乗りたがるけど、ドラゴンは自分が認めた相手しか背にのせないもの」


「うん、気をつける」「ケチなドラゴンがいけないのよね……」



※プライドとか誇りをケチの一言で済ませるあたりも親子



「一緒に、お夕飯たべに行きましょう♪」「うん♪」



「あの、まだ仕事がですね。ヒルダリア様……」


「この魔王城において、最優先する仕事は魔王の命令だろがアホンダラ。ねー、アリアちゃん♪」


「うむ、母上と一緒にご飯を食べたい。すまぬ」ぺこりと頭を下げる魔王様。



「いえ、確かにその通りでございます故。私の失言でした、お許しください」部下もぺこりと頭を下げる。



「母上、今日は母上の好きなオークの〇丸ステーキ」その言葉を聞いた瞬間何人かの部下がゴバっとお茶を噴き出した。


「アリアちゃんは、シチューにしましょうね♪」ね~と母と娘が手を繋いで食堂に向かっていく背中を部下達は見届けた。

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