第十五話 行儀が良くない魔王様

チンチンチンチンチンチンチン


まおうとひらがなで書かれた自分の茶碗を、リズミカルに叩きまくる魔王様を見て臣下一同は溜息をついた。


さながら、トランスしっぱなしのドラム楽器奏者の様に汗をキラリとさせながらだ。



余談だが、魔王様が叩いている食器達は選りすぐりの高級食器達である為臣下の給料の数ヶ月分か下手したら数年分はあろうかという高級品。



それを、そんなの関係ねぇとばかりにほぼ毎食待っている間チンチンチンチンと叩くのだから部下達からすれば心境は穏やかではない。



「料理はまだこぬのか」「申し訳ございません、料理長のクルガーがフレンチトーストにかける蜂蜜のかかりかたに納得しておりませぬ」



「お前のこだわりなんか知るか、腹にはいればいっしょだ」

いつも、魔王様はこの様な事をいう。



「大体、私が食べ終わらねば。部下達は、ずっと待たされっぱなしではないか!」


メイド達は「お気持ちはありがたいのですが、魔王様より後に食事をとるのは魔王城の勤務として当然の事です」とやんわり断る。


それが、魔王様をヒートアップさせる。


「お前達が腹を空かせて、立っておるのに。冗談ではないぞ」


そういって、とてとてと調理場にいくなり。「クルガー! いつまでかかっておる!!」

「これはこれは、魔王様。今しばらく、テーブルでお待ちください」と優しい顔で対応するクルガーに魔王はいきなりジャンプしてビンタした。


「私のご飯が終わらぬと部下達が食べられぬ、せめて同時に食べれるようにするか。お前がもっと早く作って対処せよっ!」


料理人全員がその言葉に、思わず。え?となった。今までの魔王様であれば、殆ど、手もつけずマズイと言ってテーブル全部の食事を振り払ったり。俺より速く食事をとる等何様だとか威張り腐った魔王は沢山居たが。部下達がご飯を食べられないという理由で、調理場に殴り込みをかけてきた魔王様は前代未聞だったからだ。



「あの……、先代は盛りつけが美しくないと食べる前からほおりだした事も数々ございまして」と料理長が言えば。「今の魔王は私だ、お祭りや特別な日以外は握り飯で構わんからはよ出せ」


流石に、魔王様本人からこの様に言われては。「軍人達でもないのに、握り飯をだせと言われましても流石に納得が出来ませぬ。ですが、早く出せというリクエストは承りました」


そういうと、魔王様専用のクイーンビーから厳選した蜂蜜をたっぷりかけたトーストを眼の前に差し出した。


「よし、私が魔王である間は急げよ」


そういうと、調理場でトーストを一口で口に押し込むように頬張る。


「ぼーっとしとらんで、執事やメイド達やお前らの賄いを早く作らんか。私はちゃんと先に食べたぞ」


そういうと、座っていた調理台から飛び降りてトテトテとさっていく。


「あっそだ、ラクセイの分は今日もおかゆにしてやれ」


卵と薬草を添える事を例え手をつけなくとも、忘れてはならんとだけ言い残し。


急に振り向いたかと思ったら、それだけいうと次こそは止まらず本当に廊下に消えていった。


「その腹痛の原因を作ったのが貴女でなければ、良い魔王様なのだけど」


その、執事のボヤキに思わずその場の全員が苦笑いした。

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