第十四話 魔王様は屋台が好き

「音夢、今宵はおまつりだね」


そう魔王様がいうと、ぺこりと頭を下げるメイド。


「ラクセイが肩車してくれるって言うし、今年はケッタ(カイザードラゴンの事)で大騒ぎになる事もない♪」


去年は、祭りの屋台会場にカイザードラゴンで突っ込んで大迷惑をかけた魔王様であるが。今年は城下の屋台店主一同から「止めて下さいよ」的なありがたいご忠告をもらっていたのだ。


ちなみに、ラクセイに頼んだところ快くのせてもらえる事になったので行く前から魔王様のテンションは高い。



すでに、いつもの服ではなく子供用の浴衣を着用していた。



ちなみに、真っ黒な生地に黄金のドクロで背中にはやっぱりひらがなで大きくまおうとひらがなで書かれているデザイン。



「魔王様、お時間です」とそこへラクセイが現れ控えると、魔王様が肩車してもらいラクセイの頭を持つ。ゆっくりとラクセイが立ち上がり、魔王様がワクワクしているとラクセイが必死の脂汗をかきながらこんな事を言って来た。


「ヴぁ……王様、魔力を……もう少し押さえて頂けませんか?」


そう、魔王様漏れている魔力だけでもバカみたいにあるためそれが殺気の重圧として感じられるレベルで。生半可なものだと、近づくだけで精神を破壊されてしまうのだ。



「うむ」魔王様のテンションは下がったが、同時にオーラも小さくなってラクセイはやっと歩けるようになった。


「ありがとうございます」ラクセイはそういうと、ゆっくりと城下の屋台が並ぶ区画に向けて歩き出した。


「最初は、どちらに参りましょうか?」「ザンボ飴の店に行きたいぞ」


「承知いたしました」城からでてすぐの所に、ザンボ飴と屋根一杯にかかれた屋台が眼に入る。ラクセイは魔王様を肩車しながら、屋台に近づくと「店主、ザンボ飴小を一つ頼みたい」


店主が、小さくて真っ赤なザンボ飴をラクセイに渡す。ラクセイも、店主の前の皿に硬貨を三枚のせて店主に判りやすく釣り銭の無いように確認してもらいながら払った。


「お待たせしました」ラクセイはそういうとザンボ飴を魔王様に渡すと魔王様は包み紙をぽいっとすると口いっぱいにザンボ飴をいれて満面の笑みを浮かべた。


その包み紙を、ラクセイは丁寧に拾ってたたみポケットにいれると。


「魔王様、次はどちらに向かいましょうか?」などとラクセイが尋ねる。


「あれがよい」ラクセイに判る様に懸命に手を伸ばし、魔王が指さした先は……。



(あれは、ビールと焼き鳥の店ではないか……)


「失礼を承知でいいますが、魔王様。あれはビールと焼き鳥の店で、焼き鳥だけなら大丈夫ですがビールは買えないと愚行します」


「何を言っておる、ラクセイ。お前に驕ってやると言っておるのだ」


「このラクセイ、勤務中にビール等飲んでは部下に示しがつきませぬ」


その瞬間眼がすわる魔王様、殺気の量が上がって来た所でラクセイは言った。


「それに、俺は甘党でして。奢って頂けるというのであれば、かき氷等の方が嬉しゅうございます」



(ケーキで太ったんだから、この言い訳は通るはずだ!)


徐々に殺気が収まり、また笑顔に戻る魔王様。



「おっさんは、ビールや焼き鳥が好きとばかり思っていたぞ」

「一般的にはそうでしょう、しかしアリア様の為ケーキを大量に摂取しているうちに甘いモノが大好きになってしまいまして」


(よぉ~し、よく言ったぞ俺!)


満面の笑顔で頷いて、「ならば仕方ない、かき氷の店を探そう」というと「御意」といってラクセイは魔王様を肩車したまま歩き出す。



「あっちはピラニア掬い、こっちは魔石掬い、サキュバスの尻尾引き等もございますね」

「かき氷の店は見当たらぬな……」「そうですね、魔国といえど氷魔術師の数は少のうございますし」「あそこなら、あるかもしれぬ」


そうして、中央広場の噴水までくると。確かに、かき氷の店があった。


「いらっしゃいませ~」トラ獣人のやたら筋肉質の暑苦しい見た目の店員がかき氷をやっていたので、魔王が「店主、かき氷の黒を一つ貰いたい」といい。


「黒は少し高くて、硬貨六枚だけどいいかい?」ときかれたが「問題ない」と答え即座に六枚並べてだすと「確認してもらいたい」と言った。



「ほ~、豪勢だね」ガリガリと独特の氷を削る音が聞こえ、ラーメンどんぶりを疑う大きさの器に山盛りの氷が盛られ黒いシロップをかけて……。



(ちょっと待った、デカくない? それ妙に、デカくない?)


丁度、ラーメンどんぶりを上下二つ分位の大きさに氷が盛られた所でそんな事をおもったがもう遅い。



「ラクセイ、ゆっくり食べぬと頭が痛くなるぞ」と笑顔の魔王様。


(そういう問題じゃねぇ! これ絶対腹壊す奴っ!!)



結局その後、トイレを我慢しながら脂汗をかきつつも魔王様が花火を見終わるまで肩車をやりとおしたラクセイはしばらく個室の住人化していたという。

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