第十三話 ぱわー

※今回少し長めですm(__)m




「これが、魔王様の近衛達だと……?」


地獄メニューのブートキャンプで、フル肉体改造された精鋭が整列していた。


余りの変わり果てた凄みに、ギジェルが相対するだけでビビっていた。


※ダイエットの成果だという事は内緒



「姫、やってやりました!」黒葬が爽やかな笑みを浮かべて親指を立てて歯を光らせていた。



「やってやりましたってレベルじゃねぇぞ……」



思わず、その場にいた黒龍のカイザードラゴンもドン引きである。



「このラクセイ、魔王様にお手合わせをお願いしたく」


「うん♪、存分にあそぶ」



アリアが、左足をトンとやるとそれだけで決して外に被害の出ない様にする為の結界。勝負がついた時時間を巻き戻して復活させる為の結界を二重に形成した。



「いざぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



いきなり、千体になったラクセイがアリアを全方向から包囲して拳を繰り出した。


それを、アリアは「ラクセイ、凄く強くなった♪」と嬉しそうにいった後心から笑った。直後、黒い鎖が突如現れてラクセイの腰に巻き付いてそのまま引き裂いた。


突如、姿をあらわしたラクセイがぶっと紫色の血を吐きだす。


「千体の自分を生み出す我が身を同時に引き裂くとは……」


「それは、勇者がもっとすごいのをやってたよ」


そう言えば、今代の勇者は魔王様と戦う時一万以上の自分を生み出していたのだったな。その勇者も、自分と同じようにやられたのを思い出した。


「ラクセイ、短期間によくきたえたね」



手をかるくパチパチと叩きながら、ラクセイの努力をほめちぎる。


「ならば、これは如何かっ!」


まるで、それは回廊の様な場所だった。そこには、黒い桜の花びらが舞い。

回廊を構成する、ギリシャ神話の柱を黒くした様な柱の上についた水がめから漆黒の水が零れ落ちつづけた。



ラクセイが、回廊を一気に走り抜ける。柱を蹴る度速度を加速させ、まるで弾丸が弾けている様に。魔力を同時に練り上げて、黒い魔力の龍がのたうつようにアリアにその牙を届かせんと襲い掛かる。



「空間を操って、自分を強化しながら。もっとも得意な黒雷に力を集約させて牙に変える、隠密らしからぬ程ド派手だね。私は、そういうカッコいいの大好物♪」


両手から可視化される程の雷撃が、まるで帯をはためかせるように無数にまとわりついている。空中でアクロバットの様に、一回転して勢いをつけ落星の名のごとく勢いをつけて落ちて来た。



「流石、ラクセイはかっこいい」「恐悦!!」



アリアが魔力で創った五百門のガトリングでけん制するも、ラクセイが転じた黒雷がそれらの弾を溶かしながらアリアに迫る。



アリアの首元にラクセイの牙が届かんとしたとき、カンと甲高い音と共にラクセイの牙である小太刀が弾かれた。



よく見れば、アリアの眼に紅い象形文字が幾つも並んでいる。


「危ない、当たる所だった」「無念っ…………」それほどアリアに迫れた敵は居なかったのでアリアはとても嬉しくて楽しかった。



「では、次からはこちらから。ラクセイ、生きのびてね」

「承知! 必ずや生き残ってみせましょう!!」



アリアの眼の文字が、血の様に真っ赤な魔法陣を描く。



「獄帝:七星天塔(ごくてい:ななほしてんとう)」



そこには、怠惰、嫉妬、憤怒等の邪神の王達が彫られた七つの塔がアリアの背後に現れる。


その異様に、ラクセイの足が僅かに一歩下がる。


(あれを、生きのびろとは無茶な命令を仰る!)


巨大すぎる、圧倒的な、絶対的な力。全ての魔族の憧れと羨望とこれこそが到達点と信じて疑わぬ程の膨大な力。



「我らの王は遠すぎる!」それだけ、叫ぶと自らの膝を叩き震えを止めようとするが止まらないので自らの刃で己の太ももを突き刺す。


「震えは止まった」それだけいうと、前を向く。真っすぐアリアの背後に見える塔を睨む。


「怠惰の帝王:地獄熊(たいだのていおうデスベアー)のおてて」アリアの背後の塔が膨大な力をアリアの右手に集めた。それは、見ようによっては熊の着ぐるみのパペットに見えるが。そんな、優しい威力でない事は虹色に色んな属性が噴き出るその力をみれば判る。



「手だけだから、本来の威力は出ないし拳圧だけ。これなら、ラクセイでも生き残れる」


それは、ただ軽く五歳児が拳をつきだしただけの様に見えた。

だが、それは違う。拳圧だけで、魔力がまるで龍の群れのブレスが束ねられたような威力。


ブートキャンプ前なら消し炭になっている事が確定している威力のそれを、両手をクロスして必死に耐える。


上半身の服がはじけ飛び、血が零れ落ち。声にならぬ程、ただ必死に耐え。


(力を押さえ、直撃ではなくただ拳を振っただけでこの威力っ!)


それを見ていた、邪神と悪魔達が膝をつきながら微笑んでいた。


「技を出したのは、勇者以外初。ラクセイ本当にこの短期間で強くなったえらい」



「あり…………ます」それだけ言うと、ラクセイが崩れ落ちた。


瞬間、結界が溶けて。ラクセイは、始まる前の無傷で健全な状態に戻る。


近衛も悪魔も邪神もただ首を垂れているが、アリアはとてとてと元に戻ったラクセイの手を取るとにっこり笑ってこう言った。


「また、あそぼラクセイ」

「いやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ブートキャンプをおもいだしつつ、自分がどの位強くなったか確かめたくて。魔王様にお願いし、ついさっきまで死にかけた事を走馬燈の様に思い出しながら一瞬でその解答をだすと全力で逃げる事にしたラクセイ。


可愛く首を傾けてこっちを覗き込んでいるが、次も死なない保証なんかない。何あれ、あれもし手だけじゃなく全身出されて塔が七本あるって事はあれ単純に七倍位にできるってことでそ無理無理絶対むり。おっさん、あんなの死んじゃうって。


つか、勇者こんなのに挑んだら死ぬに決まってますやん。

その、無謀がもう勇者(笑)やん。


先代魔王も、他の幹部も手を合わせて膝をついて勘弁してくださいってポーズしてるし俺もしてぇし。


こうして、またアリアは遊んでもらえなくなったので。買い食いと盗みとかいたずらの毎日に戻るのでした。

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