第十話 変身を見せびらかす
結局、黒い全身甲冑の騎士の姿で幹部たちの前に現れた時。
「誰だ貴様! そこは魔王様の席だ!!」
ヘルムを脱いで、私だと顔だけ戻す魔王様。
(身長があってねぇぞ)
と思いながらも、魔王様本人ならば魔王様の席に座るのは当然なので。
「失礼しました、しかしそのお姿は一体……」と上から下まで甲冑を見る。
実に見事で、色々な文字が彫りこまれている禍々しいそれ。
「勇者になりたくて、変身を試していたのだが。それをメイドや執事が見たいというのでこうして変身していたのDA」
もう一度、顔に手をかざすとヘルムに戻った。
(滅茶苦茶強そう)
いや、実際中身が魔王様なら強いのは当然なのだが。普段の魔王様は五歳の少女でありほへっとした面構えで耳をほじってはふぅと耳垢を飛ばす様なやる気の無さもあってあんなにかっこよくもピシッともしてないのだ。
「それにしても、魔王様。近衛達は最近妙に訓練の量を増やしております故、魔王様が少し遊んで差し上げては如何でしょうか?」
う~ん、と可愛く首を傾げる魔王様。だが、現在の姿は黒の禍々しい全身甲冑の為いつもの可愛さは全くない。
「何故、あいつ等はそんなに訓練したがる?」
(お前自覚ないんかい)
と部下は思わなくも無かったが、とりあえずこう言った。
「一つは、我々の絶対基準は強さです。故に、今代の魔王様のように強い魔王であればこそ近衛として相応しい強さを身につけたく思うのは当然ではないでしょうか。次に、私めが思う所としてはやはり魔王様は食べ物屋を探す命令を沢山しているので王都だけではなく様々な所の美味しい食べ物屋を探すべく縦横無尽に走り抜ける体力作りだと思われます」
(まぁ、ほっといたらただのデブ活だからな。最近の近衛の仕事)
魔王様は腕を組んでうんうん考えながら、こうのたまった。
「従魔をくれてやったら、走らんでも済むか?」
「近衛は、基本自分の足で走ります、幾ら魔王様でも、近衛の誇りをけなすのは宜しくないかと。であれば、より強い訓練相手を用意してやるのが良き事と具申致します」
拳の悪魔をだしてやったが、もう少し強いのを出してやるとするか……。
そんな事をガチで考える魔王様。
「デュラハン・ギャロップなぞどうでしょうか、ペガサスやユニコーンと比べても格段に強く逞しく。その背にのせるものを選ぶという」
「あれはつまらんぞ、よんでもよんでも馬の癖に頭を抱えてうずくまり動こうとせん」
(魔力が見える連中からしたら、アンタはただの化物にしか見えんからだよアホたれ)
という言葉を、奥歯を噛みしめる事で飲み込んだ。
大体、デュラハン・ギャロップはその誇り高さ故。認めた相手以外を背にのせたり、言う事を聞く事を良しとせず。必ず一軍の首を落として、デュラハンみたいにしてしまう事からその名がついた怪物だぞ……。その怪物がうずくまって頭抱えて動こうとせんてどんだけだと思ってんだ。
「他に、近衛が喜びそうな強い奴はおらぬか?」
(歴代魔王の中で連中をこきつかおうなんて考えるのはこのお子様位だぞバカ野郎)
「サタンあたりでもいっとくか?」「もう少し弱くしないと、近衛達が消し飛んでしまいますよ」
(だーかーらー、お前基準だとサタンでもただの紙芝居してくれるオッサンなんだろうけど普通の奴にはドギツイんだってば!)
「ふむ、であればディアマント辺りなら問題なかろう。デュラハン・ギャロップより強く、それでいて近衛の様な連中が喜ぶ強さでサタンより幾分弱い」
「一体であれば、全軍で相手してようやくといった相手ですが」
「ダース単位ではダメか?」「絶対呼ぶな、このバカ」
「ふむ、加減が難しいぞ」「段階を踏みましょう、段階を。もっと細かく段階を踏まないと、若くない近衛もおります故」
「そうか、判った」
そういうと、魔王様は手をかざして紅の魔法陣を描きながら悪魔や邪神を呼び出しつつニヤリと笑った。
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