第九話 魔王様はヒーローがお好き
魔王様は、最近城下で流行っている絵本をみてうんうんと笑顔で頷いていた。
「勇者よ! よくぞ来た!!」自分の父親ににて凄くごつい魔王がその本には描かれ、勇者は光輝く聖剣を掲げて挑む所であった。
眼をきらきらさせながら、メイドにこんな事を宣う。
「勇者になるにはどうしたらいい?」
その言葉に、ずっこけるメイド。
「魔王様……、今代の勇者は貴女様が倒したではありませんか。しかも、貴女は歴代最強の魔王です。ラスボスで裏ボスです、それが何故に勇者になりたいなどと」
嘆かわしいと首をふるメイドに、魔王様は絵本の聖剣を指さしてこう言った。
「カッコいいではないか」
一応、念のために言うが。魔王城に仕えるメイド達からすれば、世界で一番かっこよくて素晴らしいのは(魔王)である。先代の魔王などは魔剣を所持していたが、今代の魔王様は魔剣を持っていない。
理由は簡単で、今代の魔王様は呆れる程のバカみたいな魔力を持っていて並大抵の魔槍や魔剣では触れただけで蒸発してしまい。聖剣ですら、指先に纏う魔力でへし折れる始末で武器防具をなまじ装備するよりは魔力を直接具現化してしまった方がいい位なのである。
お馬さんが欲しいなどと言った所で、カイザードラゴン以外がその背に魔王様を乗せればテイム時に主人の力を僅かに与える作用分だけでも。吸収しきれず、破裂してしまうのを獣たちは本能的に察していただけだったりする。
しかも、この魔王様は基本何かの背にのるより空を自分で飛んだ方が早く移動できる。
何か乗物にのるのは楽しいからで、そっちの方が便利だからではない。
無論、瞬間移動や転移の類も出来る。……が重ねていうが、乗物に乗る方が楽しいから滅多にやらないのである。
そんな、魔王様ではあるが諦めは悪すぎるので虫のようにひっくりかえってはじたばたと喚きながら。
「いやだ~、私は勇者になるぅぅぅ」
※これである。
魔王城のメイドと執事はそれを見て、眼が点になりながらも。
「魔王様……、勇者はそんなダサく喚いたりしませんぞ」
そのボヤキに、ぴたりと動きが止まる。
「そうだな! やはり勇者はかっこよくなくては」
(違う、そうじゃない)
一同はそう思ったが、また虫のように喚かれても困るので苦笑い。
「あと、ヒーローはやっぱり変身とか出来た方がいいのだろうか」
(違う、そこじゃない。いや、魔王がピンチの度に変身するのはありなのか?)
「魔王様……、試しにどんな感じに変身するつもりなのか見せて頂いても?」
笑顔で頷く魔王様、苦笑いしながら不安しかない一同。
ポーズを取りながら、「変身」と口にすると三つ首のやたら筋肉質のバフォメットに姿を変えたのだが……。
(すっげぇ強そうで禍々しいっ!!)
いや、ヒーローってよりガチの邪神じゃないですか。素敵っ!!
メイド達と執事達が眼をキラキラさせて、魔王様の変身後の姿を見た。
「もしくはこんなのか……、変身」ともう一度口にして姿を変えると黒い全身甲冑の騎士に変身した。
その鎧の装甲一枚一枚に闇の魔力が宿っているのが判る。もはや、悪魔王とも呼ぶべきその姿にそれをうっかり見ていた城の悪魔たちが一斉に跪いた。
バッ!ザッ!!と効果音が聞こえる位には実に俊敏な動き。
思わず、魔王様がひいてしまう位には。
「悪魔王様! ご命令を!!」
「誰が悪魔王だ、バカモノが! 私は勇者になりたいんだ!!」と叫んだ事で声が可愛らしい魔王様のままであり正体に気がついてその場で色んなものを吐き出しながら悪魔達が崩れ落ちたのだった。
魔王様に、勇者(ヒーロー)はちょっと無理があった模様。
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