第三話 魔王様戦場に遊びに行く
ここは、西部方面軍駐屯地。人間との戦争をしている魔族軍約六万の兵の本拠地。土魔法により城壁と掘りをきずきあげ要塞化していた。
「伝令! 人間達はワイバーンに騎乗。要塞上空から攻撃を目論む模様!!」
伝令が焦っているのが判る、西部方面軍はバリスタや投石器こそ大量にあるが上空を狙えるのは魔法兵のゴブリンメイジ達でかなり撃たれ弱いからだ。
「まずい、まずいぞ! オーガ達に岩を投げさせた所で高さ的には限界があるのだ」
そこへ、さらに焦って自分の汗の水たまりに顔から突っ込む様な形で伝令が飛び込んでくる。
「どうした!?」「これを大至急西部方面軍責任者ドゥヴァーン様に渡す様にと魔王様から!!」
クマちゃんのシールで丁寧に封をされ、手紙を両手で丁寧に受け取ると開封し一瞥すると全軍に叫ぶ。
「明日の朝、魔王様が来られる! 全軍、明日の朝まで死ぬな。これは、最重要命令である。逃げても良い、守りぬいても良い! とにかく生き抜けっ、最強の援軍ぞ!!」
凄まじい力が眼に宿る、魔王軍。
ちなみに、手紙には「あそびにいきます まおう」とだけ書かれていた訳だが。
これを利用しない手はない、くどい程いうが魔王アリア(五歳)は歴代魔王の中で最強であり同時に最高の人気を誇る。
ドゥヴァーンは、その士気の爆上がり方に思わず慟哭した。
それからの、西部方面軍は文字通りただのゴブリンがオーガに紛う活躍を見せる程に奮起。今まで押し込まれていたのが嘘の様に、進軍していく。中には投石器でサイクロップスが飛翔しそのこん棒で着地も考えずワイバーンを殴って地上に落とす部隊まで現れる。
「報告っ! 左翼部隊がサーマル国軍将軍ゼルネウス撃破!!」
思わず、耳を疑う朗報が飛び込んでくる。
「はぁ?! そこは昨日、一番押し込まれていたとこではないか」
「レッドキャップス二十名が特攻したもよう、将軍の首だけラグビーの様に切断して強奪帰還したようですっ!」
「やれば出来るではないか!!」
思わず、にんまり笑うドゥバーン。
「魔王様にプレゼントするから、首桶と可愛いピンクのリボンを所望しております!」
「早く用意してやらんか、バカモノ!!」
「敵の指揮は大混乱、そのまま三千五百の左翼部隊がロードローラーの様に蹂躙した模様」「よくやった!」「明日魔王様が来た時、大好物のオムライスに立てる旗に敵軍の旗を使う事を求めております!」「用意してやれ!」「嬉々として、旗を洗濯し始める部隊が川を占領しております」「下流を使えと通達しろ」「了解でありまぁぁぁす!」
「左翼部隊、旗を洗濯する人員をのぞいて、そのまま中央になだれ込んだ模様!」
「左翼の構成は? 今突撃しているほぼ全軍がケンタウルスとケルベロスに騎乗した鬼達です!」
人間の重装兵というのは正面からの攻撃にはめっぽう強いが、その重さ故側面から突撃されるのはかなりきつい。
ましてや、今突撃しているのは身長四メートル前後の鬼達。それが、馬の四倍の速度で走るケンタウルスとケルベロスで突撃するのは無茶苦茶も良い所。
(本来、鬼は筋肉質で重量が重くケルベロスはともかく。ケンタウルスは鬼をのせて等走れない)
鬼はこん棒を、ケンタウルスは槍を両手持ちし。アイドル会場のペンライトの変わりに振りまくって喜びの舞を全身で行っていただけだったりする。
いつもの野太い雄叫びではなく「L O V E アリア様っ!」と全軍が雄たけびをあげ蹄の音すら、ラブコールがうちけした。
(要するにみんなではしゃぎまくって重さや疲れを忘れた結果、その通り道に敵の中央部隊が居ただけなのだろうがこれは好機っ)
思わず、変な笑いが零れるドゥヴァーン。
要塞を上空から攻撃される直前大ピンチからの魔王様が来るから耐えろと言ったら全軍がはしゃぎすぎて要塞に自分しか居なくなっていた件。
お前らそんなに早く動けたのって勢いで敵軍に突っ込んで通り抜け、後ろから強襲し早がけがてら敵将を撃破しながら戦利品ゲットした奴から散りじりになっていくので上空の人間は狙いを定められずそうこうしているうちに人間側の将軍が次々特攻しているレッドキャップスに首を落とされるという。こうはならんやろという速度で戦場が激変していく。
その後、変な笑いを浮かべたままのドゥヴァーンは一人で魔王様が来るであろう部屋を床が舐めれる位までピカピカに掃除するしかやる事がなくなってしまった。
翌朝九時頃に魔王様が来た時、何故かドゥヴァーンを始めとした将軍や隊長達は割烹着を部下達から着せられて魔王様用のオムライスを作らされていた。無論、部下達を労う意味でふわとろオムライスケチャップ甘めが振舞われ戦場というよりは宴会会場化。
我、職業軍人司令官でありながらいつのまにか部下に調理要員にされていた件について。
勿論、勝ったので文句はない。魔国では、強さや結果こそが最重要なのだ。
その過程が如何に自分の納得がいかないものであろうとも、その過程がふざけていようが結果が伴ってさえいればオールオッケーなのだ。
ただ、何故か一筋の涙が頬をつたう事だけは止められなかった。
ちなみに、魔王様にプレゼントされた首桶は可愛くないと一蹴され。軍務卿は微妙な顔で、首に対する特別ボーナスを支給。特攻したレッドキャップス達は次こそは可愛くラッピングしようなどと誓い合っていたが他の兵士たちは心の中で「違うそこじゃない」と思っていたとか思わなかったとか。
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