第二話 使用人達

今日は、魔王様が調理場に忍び込んでいた。


力強く、拳を握りしめ魔力を練る。


闇の力が姿を変え、二本の稼働アームと魔力で伸ばす棒と握り手に姿を変え魔王様がニヤリと邪悪に笑った。


ゆっくりゆっくり、棒の部分を伸ばして曲げ。見る人が見たら、それは玩具のマジックハンドを魔力で創り出すという無茶苦茶高度な事を無駄にやっている様に見える。



それで、今日のおやつ(予定)である。焼き菓子を、一個失敬しようとした。


「なりません」すっと、急に現れるメイドが五人。


マジックハンドから、そっと焼き菓子を外すと籠に戻す。

涙目になる魔王様、首を横に振るメイド達。


料理人達がまたか……と苦笑し、魔王様の頭を撫でた。

皮が厚くなった、ごつい手で魔王様の頭を撫でると。


「本来は不敬なんだがな……」と苦笑いしながら「つまみ食いは感心しませんぞ」

とそういうとメイドにバスケットを一つ手渡した。


バスケットには、サトウキビやらが沢山入っていた。


「こっちは俺達用なんで、質素ですがこれで良ければどうぞ」それだけ言って仕事に戻っていく。城中の食事の準備なんて、戦場同様忙しいからだ。


再び、魔力を物質化して小刀を作り出すとサトウキビを器用に剥いてしゃぶり始める。


輝く魔王様の顔、溜息を零すメイド達。


(空気中の魔力を好きなものに実体化出来るって事は、いきなり心臓や核に内部から突き破る様に刃を出す事だって出来る筈)


実際、魔王を決める魔王決定戦では全ての相手を内部から喰い破る魔獣を内蔵の中に創り出し、一瞬で動けない様に両手両足と眼や口等に大量の鎖を同時に作って縛り付けた。


普通の鎖と違うのは、魔力で作ったものは魔力によって強度が決まる。

本人の強さに比例して強度が上がる鎖に、魔王様の力を込めさえすれば一群を瞬時にがんじがらめにする事も難しくない。


ちなみに、先代魔王様(アリアちゃんの父親)はアリアちゃんの鎖を引きちぎろうとしたが全く歯が立たず腕と足と胴体を創り出した鎖で雑巾の様に搾り尽くされんとして魔王決定戦で降参した経緯がある。プライドの塊の様な先代魔王ではあるが、自分の娘が次世代の魔王ならばとしぶしぶ降参した。


魔族の体は魔力を含む、そして空気中や他人の魔力を問わず好きに物質化や生物化できる今代の魔王の力は劣悪極まる。毒だけでなく、時間加速による腐敗等で生きていながら内臓だけを腐らせつつ抵抗力を奪う事すらやろうと思えばやれる。


……のだが、主に使用される用途はいたずらや盗み食いといった事に全振りされている為こうしてメイドや執事は眼を光らせている。

ちなみに、昨日はお気に入りの味噌汁の味噌が足りなくなりそうだという事で時間を加速させて特製味噌を作っていた。


ちなみに、偶にお手伝いもする事があり。先日は洗濯物を空中に巻き上げながら温風を作り出し乾いた洗濯物から畳んで籠にいれる所までを魔法だけでやってのけて使用人達が残り時間を全て休憩する事ができたという事もあった。



問題は、下着類が空を紙吹雪の様に舞ってそれが城下の皆様から丸見えになっていて。

魔王城で子供なのは魔王様一人なので、当然それは目撃され魔王様愛用のパンツやシャツとして城下で人気になるのだが。当の魔王様は顔を真っ赤にしながら、次からはちゃんと黒い風で覆い隠しながら乾燥する事を覚えたりしていた。


ちなみに、魔王様が作る味噌は通常の味噌と違い。魔力がアホみたいに含まれているので、その味噌を塗ったおにぎりが魔族にはエリクサー(HPとMP両方を最大値の半分回復する)レベルで機能するのにも関わらず。お値段は一個どんな具材も二百八十ボン(二百八十円相当)である為主に軍人や労働者達に大人気であった。ちなみに、一般的な弁当は魔国では八百ボンなのでおにぎり二つにお漬物とお茶がついた魔王様おにぎりセット五百ボンの人気は高い。普段は城のメイド達が握っているが、偶に無茶苦茶いびつなおにぎりが混じっている事があり。魔王様がそのモミジの様な手で握ったおにぎりであるため、当たり扱いになっている。


ただ、安さと人気もそうだが当然の様に数量限定である為。中々、いきわたらないのが現状だったりする。


酒なども暇があれば作っていて、そっちも大人達には大人気であり。魔王様の作ったものは銘柄の変わりにデフォルメされたアリアの顔がラベルとして貼られていて魔王城の財政が結構潤ってたりした。

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