恋燼碧覚アリア

めいき~

第一話 史上最強最年少の魔王様

ここは、魔王軍の各部署の将軍が集まって魔界の事を決定する重要な会議をしている会議室。


一番奥の一番デカい椅子こそが、魔王様の席である。


本来、魔王というのは魔界で最強の存在である為ドラゴンや悪魔などのガタイのデカいムキムキの筋肉質のものや色気たっぷりの美女などが足を組んで座る為のものであるため。通常より豪華かつごてごての飾りつけで、とても大きい椅子であるのだが当代の魔王様は五歳でありとても小さい。



ぶっちゃけた話、座る部分だけでコンテナの上辺位の広さがあるのだがその真ん中で猫の様に丸まって寝ている。



その為、家臣たちは全員会議なのに超ひそひそ声で会議していた。


重ねて言うが、魔界は実力主義であり特に軍部等は力こそ全てという考えに凝り固まっている。その軍部の長ギジェルは、とてもまじめで規律に煩い。


だが、魔王様は魔界で一番強いから魔王様なのであって軍ごと二秒で薙ぎ払われた経験を持つ。


だから、歯ぎしりしながら胃の辺りを押さえつつ毎回の会議をこなしていた。


会議室には、筆談のかりかりとしたペンの音と魔王様のすぅすぅと言った寝息だけが聞こえてくる。


時間経過とともに、ギジェルの額におびただしい血管が浮き上がってくる。

一時間もすると六個の血管が浮き出ていて、二時間もすると二の腕辺りにもモリモリ動脈が浮かび上がってくるので一部のモノはそれを時計代わりにしている始末。



それが、今日はいきなりがばりと起き上がる。



家臣達が一斉にそっちを見て、ギジェル等一部のモノはその凄まじい表情と気迫に「おぉ……やっと魔王としての自覚が!!」等と感涙すらし始めていたのだが。



「おしっこ」それだけ言うと椅子から飛び降りて外に向けて走って行く。



その瞬間、テーブルに突っ伏す家臣一同。



しばらくすると、さっぱりとした輝く顔で魔王様が戻って来て再び椅子によじ登ると猫の様に丸まって寝てしまった。


(最重要な決定は、魔王様同席の会議で決める事になってるとは言えこれは酷い)


何度もくどい位重ねて言うが、魔王様は最強だから魔王様なのである。

だから、五歳の魔王様が誕生するなんて事は全く想定されていない規則が多すぎるのだ。


ギジェルは、チラリと眠っている魔王様を魔力視でみてみる。もちろん、本来なら不敬でありマナー違反なのだが……。


会議室に充満して尚、天に届かんとする程の膨大過ぎる魔力。見るだけで百万以上の魔王国軍全軍より魔王様一人の魔力の方が多いのだ。


(力だけなら数多の邪神すら片手で捻る程あるというのに)


魔力視を止めて、長く長く息を吐きだした。

実際、魔王就任の際もっとも反対したのはこのギジェル。



「どこの世界に、最高幹部会議でほぼ毎回お昼寝している魔王がいるというのか!」


※デカい椅子の真ん中にひらがなでまおうと書かれた布団をかぶっている


ちなみに、細マッチョでありカイゼル髭のあるイケオジで魔王様はこのカイゼル髭を引っ張って遊ぶのが大変お好きである事もギジェルの神経を全力で逆なでしている。



「ギジェル殿、魔国では強さこそが全て。貴方が魔王様より雑魚いから、受け入れる他ないのです」


そんな事を宣う、自分の副官。悪魔であり、見た目は十六才程の少女。エメラルドグリーンの長い髪に黒いコサージュをしたフォーゼが毒舌を吐く。


「判っておる! 嫌というほど!!」


ギジェルはこの年まで、朝晩の走り込みや素振りを欠かさない。

滝にうたれ、模擬戦を繰り返し。その間、仕事も休まない。


これが、魔法だけ負けているのなら才能の一言で片づける事もできたのだが魔王様であるアリアは剣も槍も銃も武器と言えるものは一通り使えてしかもギジェルよりも強い為に才能という言葉では生温いレベルで負けているのだ。



そんな、魔王様ではあるが容姿は非常に可愛らしいので文官や侍女や国民等には人気がある。ショートボブの黒髪に、申し訳程度のチョコ菓子を頭にのせたような角が二つ。



歴代の魔王は、軒並みごつい強面。肩で風を切るような生き方歩き方が大半で。良くモノを壊すし、暴力乱暴等も当たり前の様に行って来たし。気分任せに国民を処刑する魔王なんてのも過去沢山居た。



……のだが、当代魔王であるアリアはというとそもそも眼はくりくりだし腹もほっぺもぷにぷにでこれの何処が強いんだという見た目をしている。


ぶっちゃけた話、侍女長のマリアの方が余程筋肉質な程。

見た目だけ可愛らしいのかといえば、そうではなく行動も年相応の為今までの魔王をしる国民からみればそりゃもうみんなの孫位には可愛がられている始末。


しょっちゅう城からいなくなっては、近所の同い年の子供と遊んでいるのを兵たちに捕獲されるという事を繰り返し。屋台のモノを壊したりはせず、いたずらに盗んでは城の侍女達や衛兵等捕獲した時に謝っている位。


前の魔王達が散々店ごと吹っ飛ばしてくれたりしていたので、アリアはどっちかいうと笑って許されている感じ。



ちなみに、昨日は屋台からアンパンを一個盗んで衛兵に掴まり侍女が魔王様のお小遣いから建て替えて謝るというイベントがあった。


面白がってワザと捕まる魔王様と、屋台のおじいちゃんも「魔王様、ちゃんと買って下され」と笑っていた。翌日には、魔王様が盗んだパンとして絶賛売りだされ人気になっている始末。



今日も会議が終わってしばらくすると、むくりと体を起こす。



「遊びに行こ」とてとてと、廊下を走って暗闇にその姿が消えていった。


これは、最強過ぎるお子様魔王アリアちゃんの日々のお話。

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