第2話
「新入生代表、
紗奈が挨拶をするのか。そういえば中学の時もしてたっけ。ステージに上がり全校生徒の前に立ちお辞儀をし、代表の挨拶を読み上げる。
「雪解けにより春の訪れの香りを感じる今日、私たち…」
「なあ、あの子可愛過ぎね?」
「ああめちゃくちゃ美人」
「スタイル良過ぎでしょ」
「新入生代表って入学試験トップの人がするらしいよ」
「頭も良くて容姿も良いとか完璧じゃん」
ざわざわざわ
新入生はもちろん、後ろにいる先輩たちからも紗奈に関する言葉が聞こえてくる。
まあ無理もないなと俺は思う。きちんと手入れのされている少し茶色がかった髪の毛を
紗奈とは家が近所で幼馴染のため仲が良く、毎日一緒に登下校してたものだ。特に紗奈は昔から俺にべったりで彼女が俺に触れるたびに男子からの羨望と憎しみの眼差しを浴びせられていたものだ。俺も紗奈にボディータッチをされる度にいたたまれない気持ちに襲われるが当の本人はそんなこと気づく様子もなかった。
しかしある日を堺に一切俺にべたべたすることがなくなり、朝も帰りも一緒に帰ることがなくなった。必要最低限の挨拶や会話しかしなくなり、俺は少し寂しさも感じていたが周りの男子たちはついに紗奈さんが透也から離れたと大騒ぎしていた。なんでいきなり距離を取られたのか今でも分からないが別に喧嘩して仲が悪くなったわけでもないので俺はそんなに気にしないでいた。
ただたまに紗奈の方から視線を感じ、目が合うと紗奈はスッと目をそらす。「何なんだろうなあれ」と考えていると代表の挨拶が終わったらしい。紗奈は深くお辞儀をしステージから降りてくる。その時ばっっちりと紗奈と俺は目が合った。いつもならすぐに逸らすはずの紗奈はじっと俺を見つめている。1秒にも満たない間俺と紗奈は目を合わせていたが、紗奈は俺を視界から外し来賓や先生方へのお辞儀を済ませ自分の席へと戻っていく。
その時彼女の頬が少し赤く染まっていたのを透也は気づいていなかった。
「今年一年間あなたたちを受け持つことになった
そう話しているのは俺たちの担任になった結衣先生だ。今年大学を卒業し、教師になったらしい。新人なのに担任を任されているところを見るに、彼女は優秀なのだろう。
「それじゃあ今日が初めての顔合わせということで簡単に自己紹介でもしてもらおうかな。今から白紙を配るから簡単に言いたいことをまとめてね」
そう言って先生は白紙を配り始めた。新学期ともなれば自己紹介をするのは自然な流れだろう。この手の自己紹介は2種類に分かれ、ウケを狙うか、普通にするか。
ウケを狙い滑るのだけは避けたい。俺は無難に好きな食べ物、趣味などを書いた。
「みんな書いたかな?じゃあ名簿順でいこうかな。えーっと、浅川くんからお願いね」
どうやら名簿順で自己紹介をするらしい。先生はクラス名簿を見て恭介をあてていた。恭介は「了解です」といって立ち上がり
「浅川恭介です。好きなことは綺麗なものを見ることで趣味は美術鑑賞で休日はよく美術館巡りなんかもしています。これから仲良くしてください。よろしくお願いします。」
そう言って自然に笑って恭介の番は終わり拍手がちらほら起こった。近くの女子たちが
「恭介くんって意外に知的なんだね。」 「ね、今度美術館デートにでも誘おっかな」
とか言っていて俺はいつも通りだなと思った。恭介が言った自己紹介はもちろん嘘で綺麗なものを見るというのは可愛い子や美人な子を見ることであり美術館巡りは普通にそこら辺をうろついて女性を物色しているだけだ。こうやって最初は猫を被って、それに引っかかった女子たちを相手にしている。まあ何週間かすると恭介の女癖の悪さに気づいて怒ったりしている女子を何人も見てきた。ビンタされているところも見たことがある。俺が「自業自得だな」と言うと決まって「可愛い子が俺に怒ってビンタするなんてご褒美だろ」と言う。こいつは少し性癖がおかしい。
それから順番に自己紹介をしていくわけだが朝に恭介が言っていた通り、この学校の女子はレベルが高い。近くにお嬢様中学校があるらしくそこの半分の生徒が共学を望み進学校であるこの高校に入ってくるらしい。残りの半分はそのまま附属の高校へと進学するそうだ。
そんなこんなで順番は俺に回ってきた。俺は満を持して立ち上がった。
「
うん、我ながら無難な自己紹介だったと思う。恭介が面白げのない自己紹介だなという表情でこちらを見て笑っていたのでイラッとし、前を向けと目で訴えといた。それから全員の自己紹介が終わりまだ時間が余っているところで先生が
「まだ時間が余っているのだけれど…そうね、席替えでもしましょうか」
先生の提案にクラスの全員が賛成し、席替えが行われた。席の決め方はくじ引きで行われ、俺の席は教室の一番端、いわゆる主人公席だった。神様ありがとうと思いながら席を移動した。ちなみに恭介は俺の前の席だった。知り合いが恭介しかいないのでとてもありがたかった。
「透也後ろの席か、いいなー」
「恭介の背中でいい感じに隠れられそうだわ」
「それもそうだけど、ほら隣」
「あぁ、」
そう言って恭介は俺の隣を見て言った。隣の席を見ると、女子は読書をしている。確かに俺の隣は男子ではなく女子だった。まあどちらでもいいと思っていたのだけれど今回ばかりは話が違う。確かえーっと、自己紹介の時を思い出す。
名前は
「何か顔についているかしら」
「あ、いや!別に何でもないよごめん」
「そう…」
そう言って彼女は俺への視線を本に向けて再び読書を始めた。流石に初対面の人にジロジロ見られるのは不快だよなと心の中で反省しつつ、既視感の正体を思い出せないモヤモヤを抱えながらも残りの時間を恭介との会話で潰した。
「…」
咲花は透也のことをじっと見つめる。
咲花から向けられる視線に透也は気付かない。
全然話が進みませんがもう少しお付き合いください。
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