第28話 リアムの監禁がけっこうえぐかった
私はリアムの姿が見つからないことに焦りを感じ、彼を探し始めた。まずは廊下を歩き、彼がいそうな部屋を一つずつ覗いたが、どこにもリアムの姿は見当たらない。
広い屋敷内を隅々まで探し回り、リアムがいるかもしれない場所を全て確認した。
トイレの扉もノックしてみたが、返事はなく、彼の気配すら感じられなかった。
リアム、いったいどこに行ったの…?
私の心は不安でいっぱいになり、どんどん焦りが募っていく。
もしかしてティアナに連れ去られたのではないかという考えが頭をよぎり、急に背筋が寒くなった。
いや、まさか…!
だって、リアム男だし大きいし、ティアナに連れ去られるなんて…。
でも、他の人に手伝ってもらったらできるかな…。
もしかすると、私が思っていた以上に彼女の執着は尋常ではなかったのかもしれない…。
そうして屋敷内をさまよっていると、廊下の奥から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
振り向くと、そこには族長が立っていた。
族長は私を見て驚いていた。
「こんな夜更けに、何をしているのだ?」
族長が問いかけてきた。
私は正直に答えることにした。
「リアムがいないんです。彼を探しているんですが、どこにも見当たらなくて…」
族長は深いため息をつき、眉をひそめた。
「ティアナのやつめ…。リアムの事は諦めろと言っておいたのに。」
そう呟きながら、彼は少しうなだれて肩を落とした。
「ついてきなさい。」
族長は私に言うと、そのまま屋敷の外に出た。
私は不安な気持ちを抱えながら、族長の後をついて行った。
夜の静けさの中、足音だけが響いている。
しばらく歩くと、私たちは少し離れた場所にある小さな建物にたどり着いた。
その建物は他の家々と比べて質素で、どこか陰気な雰囲気を醸し出している。
建物の前に立つと、内部からリアムの声が聞こえてきた。
弱々しくも怒りが込められた声だった。
「もうやめてくれ。俺はお前を女として好きになることはない…」
その言葉に続いて、ティアナの甲高い声が響いた。
「そんなことないわ。もう一度、あの時のように愛し合えば、きっと考えが変わるわ!」
私はその言葉に息を飲んだ。
リアムが答えた声は、明らかに苛立ちと絶望に満ちていた。
「冗談じゃない。あれは媚薬を飲まされて頭がおかしくなってただけだ。もういい加減にしてくれ!」
ちょっと待って…。
どういうこと…?
私が族長の方を見ると、族長が静かに口を開いた。
「ここは、以前ティアナがリアムを監禁していた場所だ。」
その言葉を聞いたとき、私の心は一気に凍りついた。
リアムのトラウマが形になってそこにあるのだ。
族長は無言のままドアを開け、内部へと入っていった。
私はその後を追って中を覗き込んだ。
そこには、鎖で両腕を拘束され、服を剥がされたリアムがいた。
これは…。
ティアナは私が思っていたよりも何倍も恐ろしい人だったんだ…。
リアムがあんなに怖がる理由がわかった。
リアムの表情は恐怖と絶望に満ちていた。
目の前にはティアナがいたが、その体は巨大化しており、リアムの三倍はあるかのように見えた。
顔は変わらず可愛らしかったが、そのせいで余計にぞっとするものがあった。
「お父様、リアムと結婚したいの。どうしても!だから、放っておいて!」
ティアナは族長に向かって訴えた。
族長は深くため息をつき、静かな声で言った。
「もういい加減にしなさい、ティアナ。どんなに何をやっても、リアムがお前のことを好きになることはない。もう諦めなさい。」
その言葉には、長い年月を経て積み重なった現実の重みが感じられた。
族長がリアムの心情を理解し、リアムを尊重していることがありがたかった。
うなだれるティアナをよそに、族長はリアムの鎖を解き、「すまなかった」と謝罪した。
リアムは怯えたように族長を見つめていたが、少しずつ安心した表情に変わっていった。
ティアナは元の大きさに戻り、地面に膝をついて号泣していた。
彼女の涙は止めどなく流れ、その姿は同情を誘うものがあった。
よっぽどリアムの事が好きだったんだよね。
でも、力に任せてこんなことしたら、絶対に意味ないのに…。
私は何を言えばよいのか分からず、黙ったままその場から立ち去った。
リアムはしばらくしてから外に出てきたが、その顔にはまだ疲れが見えた。
族長は私たちに向かって、
「もう安心だから、しっかり体を休めなさい」と言った。
リアムは私の方を見て、小さな声で
「お願いだから、一緒の部屋で寝てくれ。一人でいたくない…」と頼んだ。
その目は真剣で、まるで子供のように見えた。
いや…、リアムごめん…。
こんなにひどい事になっていたなんて、予想もしてなかった。
だからあんなに一人になるの嫌だったんだね…。
リアムがよっぽど怖かったのだと思い、「いいよ」と答えた。
そのまま私が寝ていた部屋に行くと、ベットに潜り込むリアム。
ちょっと待て…。
一緒の部屋は許可したけど、一緒に寝るとは言ってない。
ルナの姿だったら平気だけど、人間のリアムの一緒に寝るのは少し気まずい…。
「…怖かったのはわかるけどさ…」
と言いながら私もベットに入ると、その瞬間、後ろからギューっと私を抱きしめてきた。
「ちょっとリアム!何すんの!」
「うるせー…。少し黙ってろ…」
何なんだよ…。
私はあまりに強い力でホールドされているので、諦めて黙った。
でも、リアムの震えを感じたので少し気の毒になった。
「…ホント、情けないのわかってるよ…。でも、あいつめちゃめちゃ強いんだよ。さっき俺の部屋に1人で来たと思ったら、一瞬で手足縛って、片手で俺の事を持ち上げるんだぞ…。勝てるかよ…」
あのかわいい顔のどこにそんな力が…。
でも、さっき何倍にもに大きくなってたもんな…。
こんなに強いリアムが勝てないなんて、相当強いんだろう。
そして、リアムは私にティアナに監禁されていた時のことをゆっくりと話し始めた。
「監禁されていたのは半年間だった…。鎖で繋がれて、食事もほとんど与えられなかった。ティアナのことを好きだと言うまで、食事も与えないと言われたんだ。時には殴られ、鞭で打たれたこともあった。」
えっ?
監禁されただけじゃないの?
正直、監禁っていっても、軟禁くらいだと思っていた。
それって、拷問じゃん…!
「初めからそんな感じだったの?リアム、世話になったって言ってなかったっけ…」
「いや、はじめの1年は、本当に世話になったんだ。族長にもかわいがってもらって。仲間と別れてすぐだったから本当にありがたかった。でも少しずつティアナの俺への好意が激しくなって…」
「えっ、じゃあ、100年以上も前の事?」
「うん。だから、もう俺に対して執着はなくなっていると思ったんだけど…」
うわー…。
人に思われるのって嬉しい事だと思ったけど、この場合は恐怖だな。
そういえば、リアム、セレスと人間の姿で会った時に「私の男にならない?」と言われてあからさまに怯えていた。
ドン引きしていたんじゃなくて、ティアナの事を思い出したんだ。
「もしかして、いつもルナの姿でいるのって…」
「ルナの姿でいると、少なくてもあんな目には遭わない。人間の姿になると、女が寄って来て怖いんだよ」
リアム、完全に女性恐怖症じゃん!
私、あまり深くリアムのトラウマについて考えていなかったけど、これは本当に気の毒だな。
「ある日、鎖を外されたと思ったら、媚薬を飲まされてフラフラの状態にされた。何も考えられないほど頭がぼんやりして、気がついたらティアナと関係を持ってしまっていたんだ。それから定期的に媚薬を飲まされて、関係を持たされて…翌日はひどい吐き気に襲われた。ティアナの好意はわかっていたけど、どうしても好きになれなかった。」
えー…。
それは、引くわー…。
「子供が出来なかったのが、せめてもの救いだった…。女って怖すぎ…」
リアムは深く息を吐いた。
私は、リアムとティアナのそういう場面を想像して、なんとも言えない気持ちになってしまった。
あれ?でも…、
「…そういえば、私も女なんですけど…」
「俺の中で、リトは女性の部類に入ってないから大丈夫…。」
と言って、リアムはそのまま私に抱き着いて眠ってしまった。
………。
いいけどね!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます