第27話 リルハーネ族の夜
ティアナはリアムにべったりだった。
私のことは見えていないようで、実際ちらりとは見るが、リアムしか興味はないらしい。
彼女の細い腕がリアムの腰に絡みつき、まるで吸盤のように離れない。
その光景を見て、私は触らぬ神に祟りなしとばかりに視線を逸らし、あえて何も言わずに歩き続けた。
ティアナの外見は17歳くらいに見えるが、リルハーネ族も長寿の種族だと聞いている。
彼女の実際の年齢がどれほどかは想像もつかないが、深く追求するつもりはなかった。
彼女が若さを保っているのはリルハーネ族特有のものだろうし、リアムにとってはそれどころではないはずだ。
「お父様も会いたがっていたわ。リアム、一緒に行きましょう!」
ティアナはリアムの腕を引っ張り、嬉しそうに言った。
私達としては、すぐに族長と話ができるのはありがたいことだが、リアムの顔は引きつっていた。
でも、リアムは抵抗することなく、むしろ観念したように足を進めている。
私たちはティアナに案内されて、族長の家へと向かった。
リルハーネ族の村は、自然をうまく活用した作りになっていて、樹々の間をつなぐ木製の橋や通路が、村全体を一つの大きな生き物のように繋いでいる。
家々の壁にはツタが絡み、屋根には草が茂り、まるで森そのものが家を形成しているかのようだった。
族長の家は村の中心にあり、他の家々よりも少し大きく、堂々とした佇まいを見せていた。入口の前に立つと、重厚な木の扉が静かに開かれ、私たちは中に通された。
「おお!久しぶりだな、リアム!」
族長は、年配の男性で、白髪の髪を肩まで垂らし、穏やかな笑顔を浮かべていた。
彼はリアムを見つめながら、優しく微笑んでいた。
しかし、次の瞬間、顔を引き締めてこう言った。
「…娘と結婚する気になったのか?」
リアムは深いため息をつき、はっきりと答えた。
「いいえ、申し訳ありませんが、そのつもりはありません。でも今日は、ティアナとの結婚の話ではなく、別の目的でここに来ました。」
族長とティアナはリアムの言葉を遮ることなく静かに聞いていたが、リアムが現在の状況と私たちの目的を話し終えると、族長は首を振りながら言った。
「残念だが、協力はできない。」
その言葉に、私もリアムも思わず息を飲んだ。
リアムがさらに言葉を続ける間もなく、族長は続けた。
「私たちリルハーネ族は、今のところ皇帝に反発して身を隠しているが、それはただ生き延びるためだ。皇帝を本気で敵に回すことには、あまりにも多くのリスクがある。私たちの村が見つかれば、全滅させられる可能性もあるのだ。」
ティアナも悲しそうな顔でうなずいた。
「お父様の言う通りよ、リアム。私たちが力を貸せば、きっと皇帝は私たちを許さないわ。」
それでも話し合いの余地があるかもしれないと思い、私は族長に言葉を重ねようとしたが、彼は静かに手を上げて制した。
「今日はここに泊まって休んでいくといい。ゆっくり休んでくれ。」
「いや…、俺たちは…」
と、リアムは明らかに不満げな顔をしていたが、私が肩に手を置いて説得した。
「リアム、無理に話を進めてもいい結果は得られないよ。まずは休んで、明日また話してみよう。」
リアムは渋々と納得し、族長の家の客間に泊まることになった。
客間は広くて快適で、木の香りが漂っていた。
リアムは私と一緒の部屋に泊まろうと最後まで言い張ったが、族長の家には十分な客間があり、それぞれ別々の部屋で休むことになった。
「リトと一緒の部屋で寝る!」
とリアムは不安そうに訴えたが、
「男女が同じ部屋なんてだめよ!うちにはたくさんの部屋があるんだから遠慮しないでね!リアム!大丈夫よ、なんにもしないから!」
と、ティアナがかなり圧をかけてきたのだ。
そんなやりとりを繰り返す事1時間。
私は疲れたので、
「リアム、悪いけど私は一人で寝るわね。おやすみ。」
と、自分の部屋に入ったのだった。
「ちょっ…ちょっとリト!」
リアムは私の腕を握ったが、
「大丈夫だよ、リアム。ここは安全だし、ティアナも約束してくれた。少しだけでも休もう。」
私はリアムをなだめ、部屋のドアを閉めた。
夜が更け、静寂が訪れた。
しかし、眠りにつくことができず、私の頭の中にはリアムの不安そうな顔が浮かんでいた。
彼がどれほどティアナとの関係にトラウマを感じているのかが、今日一日でよくわかった。
でも、話している分には常識的だと思うし、怪力とは言っても女の子相手に命を取られる事もないでしょ。
そして、深夜、どこか遠くでリアムの叫び声が聞こえたような気がして目が覚めた。
気のせいかな…?
はっきりと聞いたわけではないので確証はもてないけど…。
胸騒ぎを覚え、私はベッドから飛び起きてリアムの部屋に向かった。
ノックをしても返事がない。
寝てるんだよね?
私は、静かにリアムの部屋のドアを開けた。
しかし、部屋のドアを開けると、中は空っぽだった。
「リアム、どこに行ったの…?」
私は恐る恐る部屋を見渡したが、リアムの姿はどこにもなかった。
胸の鼓動が早まり、不安が募っていった。
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