第26話 リルハーネ族の村と少女
カイルに船を出してもらい、私とリアムはシャドウファレスト近くの入江に降ろしてもらった。
しばらく歩き、シャドウフォレストの入り口に足を踏み入れると、辺り一面が薄暗い霧に包まれていた。
古い樹々の間から光が漏れ、幽かな明かりが地面に模様を描いている。
この森に一歩入ると、現実から切り離されたような感覚に襲われる。
耳を澄ませば、風の音や木々のざわめき、そして時折聞こえる獣の遠吠えが不気味に響いていた。
リアムは終始そわそわとした様子で、落ち着きを欠いていた。
私が何か言おうとすると、「気にするな」と言わんばかりに短く言葉を遮り、周囲を警戒する。
彼の普段の態度を知っている私にとって、その様子は明らかに異常だった。
リアムがここまで動揺しているのを見るのは初めてだったので、正直なところ少し心配だった。
「リアム、大丈夫?」
私は声をかけてみた。
リアムは一瞬だけこちらを見たが、すぐに目を逸らして頷いた。
「平気だ。ただ…早くこの森を抜けたいだけだ。」
その言葉には不安が滲んでいる。
リアムが過去にどれほどのトラウマを抱えているのか、想像するだけで気の毒だった。
それでも、リアムは私を守ろうと前を歩き続ける。
私はその背中を見ながら、少し嬉しくも感じていた。
森を進むにつれて、周囲の雰囲気がさらに重たくなっていく。
時折、低い唸り声や枝を踏みつける音が響き、私たちの気を引き締めた。
中級ほどの魔獣がこのあたりに生息していることは聞いていたが、実際に遭遇するとなると緊張する。
突然、茂みの中から巨大な影が飛び出してきた。
「リト、下がれ!」リアムの声が響く。
魔獣の姿を確認すると、体長は3メートルほどの巨大な恐竜のような生物だった。
その鋭い爪と牙が、私たちを獲物と見なしている証拠だった。
リアムが前に立ちはだかり、すばやく剣を抜いた。
その動きには迷いがなく、彼がどれだけ多くの戦闘を経験してきたのかがわかる。
しかし、私もただ守られるだけではいられない。
手をかざし、魔法の言葉を唱えた。
瞬間、私の手から火の玉が飛び出し、狼の魔獣に直撃した。
獣は痛みのあまり吠え声を上げ、怯んだ隙にリアムが剣を振り下ろし、その首を一瞬で切り落とした。
私は息を吐いた。
「気を抜くな。まだ他にもいるかもしれない。」
リアムはそう言いながら、再び警戒を怠らなかった。
私たちはそのまま慎重に進み続けたが、次第に森の奥へと進むにつれて、周囲の様子が変わっていった。
まるで森そのものが私たちを拒むかのように、風がざわつき始め、木々の葉が不自然に揺れ出した。
リアムが不安そうに私を振り返り、
「リト…やばい」
と呟いたその瞬間、突然巨大な手が現れ、私たちを一気に掴み上げた。
「キャッ!」
私は驚きの声を上げた。
その手は信じられないほどの力で私たちを締め付け、次の瞬間には地面へと引きずり込まれていった。
視界が暗くなり、土の中に埋もれるような感覚に襲われた。体が押しつぶされるような圧力を感じ、呼吸が苦しくなる。
これは…死ぬのか?そう思った瞬間、突然目の前が明るくなった。
気がつくと、私たちは地面に立っていた。
そこには広がる草原と、美しい木々が整然と並ぶ村があった。
どこか異世界に来たかのような感覚にとらわれた。
周囲には自然を巧みに利用した住居があり、木々の間には木製の橋や通路が張り巡らされていた。
家々は木と石でできており、屋根には苔や草が生い茂り、まるで自然の一部であるかのように見えた。
「ここが…リルハーネ族の村なの?」
私は半信半疑でリアムに尋ねた。
リアムは緊張した表情のまま頷いた。
「そうだ。彼らは自然と共存する生き方を選んでいる。この村全体が、その証拠だよ。」
私が驚きのあまり言葉を失っていると、突然どこからか足音が聞こえてきた。
その音は次第に近づき、やがて私たちの前に現れたのは、可愛らしい少女だった。
髪は鮮やかなピンク色で、ロングの巻き髪が軽やかに揺れている。
服装は派手な色合いで、日本のギャルのようなスタイルをしている。
彼女はリアムを見るなり、
「リアム!!」
と叫びながら駆け寄ってきた。
次の瞬間には、リアムに飛びつき、そのまま抱きついた。
「会いたかった!リアム!!」
少女は嬉しそうに笑いながら、リアムに顔を寄せた。
リアムは目を見開き、体を硬直させたまま動けなくなっている。
「…ティアナ…」
リアムの声は震えていた。
少女…ティアナはリアムの名前を呼びながら、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
「そうよ!リアム!本当にまた会えるなんて夢みたい!逃げ出した時は、本当に悲しかったんだから!」
リアムは何とかティアナから離れようとするが、彼女の力は意外と強く、まるで張り付いたかのように離れない。
ティアナは笑顔のまま、リアムの顔を見つめている。
私はその様子を見て、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
リアムが過去にどれほど大変な目に遭ったのかが、彼の表情から伝わってくる。
「リアム、大丈夫…?」
と私は心配そうに尋ねた。
「だ、大丈夫…じゃないかも…」
リアムは顔を引きつらせて答えた。
ティアナは全く気にする様子もなく、リアムにくっついたまま
「ねぇ、リアム。また私と一緒に暮らしてくれる?」
と尋ねる。
彼女の目は純粋で、それがかえってリアムにとっては恐ろしいのだろう。
リアムは完全に無言で、ただ頷くことも拒否するように目を逸らしていた。
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