第25話 リアムのトラウマがやばい

神殿の儀式まであと1か月ほどとなった。

町の広場は活気づき、新たに工場などが建設され、、金属を打つ音や工具の響きが聞こえてくる。

私たちの計画は着実に進行していたが、一方で心配事も増えていた。


ルナのことだ。


最近ルナは、リアムは人間の姿でいることが増えていた。

以前はルナウルフの姿でいるのが普通だったが、魔石があっても魔力は回復しなくなってしまったようで人間の姿でいることがほとんどになっている。


洋服はカイルがどこからか調達してくれて、シーツを巻くことがなくなってそこは快適そうだった。

リアムは、私、ルーカス、セレス、カイル以外には、人間の姿は見せたくないらしく、私の家か、中央会館以外には姿を見せなかった。


今は自分たちの仕事に必死なので、みんなあまり気にしていないようだったが、たまに「そういえば、最近ルナの姿が見えないけど…」と言われる事も度々あり、私は少し困っていた。


いつもの会議のメンバーでいる時に、私達にはリアムは一応説明してくれた。


「俺は、ルナウルフの姿を維持するために魔力を消費しているんだ。魔石の力も効かなくなってきた。今は人間の姿でいるしかない。」

「でも、魔力が弱まっているってことは、体も弱っているんじゃないの?」

私は心配で尋ねた。


リアムは首を振り、

「いや、体そのものは大丈夫だ。むしろ、人間の姿の時の方が元気なんだ。ただ、ルナウルフの姿を維持するのが辛いだけ。」


その言葉に、私たちは少し安心した。

しかし、リアムの顔には疲れが見え隠れしていた。


「それより…、リルハーネ族と交渉が出来そうな人材は見つかったのか?」

リアムがカイルに尋ねると、

「だめだ…。お手上げだ」

カイルがため息をついた。


「リルハーネ族に接触できれば、工場の拡張ももっと早く進むし、武器の製造技術も向上するはずなんだが…」

カイルが悔しそうに言った。


その頃、カイルはシャドウフォレストに向かい、リルハーネ族の情報を集めようと必死になっていた。

しかし、なかなか有益な情報は手に入らず、苛立ちを隠せない様子だった。


「まったく。奴らの隠れ場所も分かりにくいし、なにか良い方法はないかのう…」

ルーカスも眉をひそめている。


その時、リアムがふと重い口を開いた。

「…俺が行けば、話を聞いてくれるかもしれない。」


部屋の中が一瞬で静まり返った。

全員が驚いた表情でリアムを見つめていた。

リアムがこんな提案をするなんて、誰も予想していなかった。


「ねぇ…。ちょっと、なんで今まで言わなかったの?」

私は思わず声を荒げた。


リアムは肩をすくめ、少し困ったような表情で答えた。

「あまり気が進まなかったんだ。でも、今の状況じゃ仕方ない…。俺がシャドウフォレストに行けば、リルハーネ族が姿を現してくれるかもしれない…。」


「なぜ?」

ルーカスが尋ねると、リアムはため息をついて話し始めた。

「実は、俺が一人で旅をしていた頃、リルハーネ族の村にたどり着いたことがあるんだ。少しの間世話になったんだけど、そこで族長の娘に気に入られてしまって…」


「気に入られた?それだけか?」

カイルが興味津々に尋ねると、リアムは眉間にしわを寄せて静かに話し始めた。


「…彼女に何度も求婚されたんだよ。最初は軽い冗談だと思っていたんだけど、彼女は本気だった。毎日のように追いかけられて、最終的には俺を監禁して、結婚を強要しようとしたんだ」


「えっ、監禁?結婚を強要って…」

私は思わず声を上げた。


リアムは苦い顔をしながら続けた。

「ああ、そうだ。監禁されてから、俺はどうにかして逃げ出すことばかり考えていた。彼女は本気で俺を愛していると言って、無理やり子どもを作ろうとして…。俺はその時、死ぬ思いで逃げ出した…」


リアムの声にはトラウマが滲んでいた。


監禁されて、無理やり子作り…!?

リアムが!?


私たちは皆、言葉を失ったままリアムを見つめていた。


「結婚さえしたら、彼らとの交渉はうまくいくかもしれないけど…」

私は冗談交じりに言ったが、リアムは即座に

「絶対に嫌だ!」

と声を荒げた。


「ごめん、冗談だよ。でも、リアムが彼らのところに行けば、少なくとも話はしてくれる可能性が高いんだよね?」

私は言葉を選びながら尋ねた。


リアムは深いため息をつき、

「そうだな…俺のことを覚えているなら、話くらいは聞いてくれるかもしれない」

と答えた。


「じゃあ、リアムがシャドウフォレストに行ってみようよ。でも、一人じゃ危ないから、私も一緒に行く。二人だけなら、リルハーネ族も警戒しないはずだし」

私は提案した。


リアムは少し考えた後、うなずいた。

「…わかった。」


「シャドウフォレストに行くには海を渡る必要があるわ。カイル、船を出してくれる?」

セレスがカイルに尋ねる。


「もちろんだ。俺の船で送り届けてやるよ」

カイルは笑顔で答えた。

「貞操…守れよ。リアム!」

と、カイルがからかうと、リアムは口を返すことなくうなだれていた。


この反応…。

一体どんな目に遭ったんだろう。


私は、うなだれるリアムの姿に気の毒だと思いつつ、ちょっと笑ってしまった。

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