第22話 じじくさいリアムにドキドキした。

私達は、一度自分の家に戻ることにした。


家に戻った私は、内心の動揺を抑えきれなかった。

色んなことが一度に起こりすぎて、頭の中が整理できていない。

リアムと再会できたことは嬉しいけど、ランドルがリアムの家族や仲間を虐殺した話を聞いて、怒りやら悲しみやら、感情がぐちゃぐちゃになっていた。


「一度、それぞれ休もう。」

とルーカスが提案してくれたおかげで、皆が少し冷静になる時間を持てたが、私の心は嵐のように揺れ動いていた。

リアムはセレスから魔石をもらい、魔力を補給する事でルナウルフの姿を保つことができるようになった。

リアムは、人間の姿のままでいるよりも、ルナウルフの姿の方が落ち着くらしい。


それぞれの家に戻る事になった時、リアムは当然のように私についてきたので、

「えっ?私の家に来るの?」

と思わず言ってしまったが、リアムは当然だと言わんばかりに、私の家の方めがけて歩き始めた。


まぁ、私も一人になりたくないし、ルナのままだと違和感もないしなぁ…と思い、何も言わず一緒に帰宅する事にした。


そうして、私たちは共に家に戻った。


リアムはルナウルフの姿になっていて、いつものように私の横でくつろいでいる。

人間の時はこんなにくっつくことはあり得ないが、ルナだと思うとルナの体を枕にして横になるのが心地良いので、いつものようにそうした。


ルナのふかふかの毛と、心地よい体温が、私を安心させてくれる。


ランドル…あの男がすべてを壊した。

仲間を裏切り、罪のない魔族を虐殺し、今もなお暗躍しているかもしれない。

その考えが私を苛立たせる。


私達を裏切って殺し、転生後もことごとく幸せをぶち壊す。

なんで、あいつのせいで何度も苦しくて悲しい思いをしなければいけないのか。


「あいつ…絶対に許さない…。」

思わず口に出てしまう。


リアムが私を見た。

何か言いたそうにしているが、ルナウルフの姿で会話はできない。

微妙な空気が流れ、居心地が悪くなった私は、

「私、シャワー浴びてくるね。」

と言って、シャワー室へ行った。

熱いシャワーを浴びると、少し気持ちが切り替わる。

少しさっぱりしてから戻ると、ルナの姿はなく、かわりにリアムがベットに座っていた。


「えっ?リアム、また人間に戻ってるけど大丈夫?」

リアムは、また裸体にシーツを巻いた状態だった。


体型同じくらいの人から服をもらおうかな、なんて考えていると、リアムが少し悲しそうに私を見た。


「リト、あまり無理するな。」

とリアムが言った。

「…わかってるよ。」

私はリアムの横に腰を下ろし、彼の瞳を見つめた。


それが言いたくて、人間の姿になったのかな。


怒りが自分の中で膨れ上がる一方で、リアムが、私が知らない過去にどんなに辛い目に遭ってきたのかを考えると心が押しつぶされそうだった。


「リアム、今まで一人で生きてきたの?」

「…ああ。ルナウルフの生き残りもいたが、一緒にいる事でまた攻撃される恐れもあったからな。50年しか生きていなかった俺はまだ子どもだったから、それなりに苦労はしたけど。」

「なんか…、人間からしたら、感覚わからなくなるけど、ルナウルフって500年以上生きるんでしょ。リアムは今200歳なの?」

「そう。ルーカスやセレスも同じように200年生きてるだろ。俺たちみんな、あの後すぐに転生したんだろうな。」

「でも、なんで私だけ12歳なんだろ?私も、死んだと思ったら転生したんだけど、タイミングがずれてるんだよね。」


みんなと再会すると、私だけ年齢が若い事が気になっていた。

カイルはダイアンの子孫だから別としても、私達は同じようなタイミングで死んだはずだ。

転生している仲間の中で、私だけが年齢が若い事に、少し違和感を感じていた。


「考えてもわからない事は、考えない方がいいぞ。これは年の功だ。」

「リアム、じじくさい。」

「人間だったらルーカスの外見だからな。じじいだろ。」


たしかに。


「昔…、俺たちは若すぎて知識がなかったんだ。長く生きていたらわかるけど、怒りに任せて何かをしようとしたらろくな事がない。この前のルーカスみたいに、頭に血が上っている状態だと、本当にろくな事考えないからな。」


それも、たしかに。


「ランドルはやばい奴だ。俺もずっとあいつの情報を追っていたが、得体がしれない。だから、今は力をつける事に集中しよう。な?」

そう言って、私の頭をポンポンと優しくたたいた。


「なんか、リアムが優しいと…気持ち悪い。」

私は正直な感想を述べた。

私の言葉を聞いて、ため息をつくと、

「お前は、もう少し可愛げがある方がいいぞ。」

リアムは私の頬を両手で挟み、顔を近づけてきた。

「な、なに…」

私が驚いていると、急にルナの姿になり、顔をぺろりと舐めってきた。

「ちょっとーー!!何すんの!」

不覚にもドキドキしてしまった…!


私が顔を赤くして怒る姿を見て、満足そうにルナは丸くなって寝る姿勢をとった。


まったく…!

何考えてるのか、さっぱりわからない!


でも、少し心が軽くなった。


そうだ。

どんなに憎んでも、今勝てる相手ではない。

ゆっくりじっくり作戦を練って、力をつけていくことを考えよう。


それにしても…、今までは顔を舐められてもなんとも思わなかったけど、なんかリアムだと思うと…。


人間のリアムが私を舐めているのを想像して、なんとも言えない気持ちになってしまった。

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