第21話 リアムの過去

私は一旦家に戻り、とりあえず全裸のリアムにシーツを渡した。

リアムが着れそうな服がないため、リアムも仕方ない…という顔をして、自分の体にシーツを巻き付けた。


リアムは、昔はかなり大きな体格をしていたが、今は昔よりもそこまで大きくない。

髪の色は昔と同じような白銀だが、ぼさぼさな長髪。

顔つきも、昔と比べてずいぶん幼いし、よく見たら私が知っているリアムとは違う人間だ。


なんで、あの時とっさにリアムだと思ったんだろう…。

でも、あの時は、リアムとしか思えなかった。

私を呼ぶ声だって、今聞いたら全然昔のリアムと違うのに。


そんな事を思いながらリアムを見ていると、

「…なんだよ。」

と、怪訝な顔をするリアム。


「いや…。今思うと、別人だなって思って。」

「うん。でも、なんか不思議とわかるんじゃねーの?俺もお前の事わかったみたいに。」


そういうもんか。


その後二人でルーカス達がいる中央会館に行った。

宴会で盛り上がっている男衆に見つかると絡まれそうだったので、見つからないように行くのが大変だった。


「あの…、ちょっといい?」

私がドアを開けて入ると、3人は中央に座って地図を広げていた。

「リト。どこに行ってたの?相談したい事があったから、あなたの家に行ったのに、ルナもいないし心配したのよ!」

セレスが私にかけよった。


「えっ?だれ、それ!?」

セレスは、私の後ろにいるリアムを見て驚いていた。

リアムは、シーツを腰に巻いて、きまりが悪そうに立っていた。


「ちょっ…、リト、あなた、こんないい男…どこから拾ってきたの…?」

セレスは、リアムを上から下まで見て、

「あなた…、私の男にならない?」

と、ナンパし始めた。


「ちょっと聞いてほしいことがあるの」

セレスの誘惑にびびって逃げ腰になっているリアムを無視して、私は切り出した。


ルーカスは興味津々で、シエーナは少し不思議そうな顔をしている。

カイルは腕を組んで無言で立っていた。


「まずはね、実は、この人…ルナなの」と私は言った。


「ルナ?なんと、ルナウルフは人間に変身もできるとは…!」

ルーカスは驚きながら、感心している。

ルナウルフは、元々絶滅危惧種らしく、その生態については謎が多いらしい。

ルーカスは、熱心にメモなんか取って、リアムの周りをまわりながら観察している。


「まぁ、なんにしろ、味方が特殊能力を持っているのは、歓迎すべきことだろう」

カイルは、あまり興味がないようで、地図を見て何やら考えている。


えっと…。

どこから話したらいいんだろう…。

私が考えていると、リアムがため息をついて、

「黙ってて悪かったよ。俺がリアムだって言ったら、信じてくれるか?」

と言った。


その瞬間、ルーカスは尻もちをつき、セレスは椅子から転げ落ちた。


なんだ、そのコントのような反応は…。


2人とも、何も言わずじっとリアムを見ている。


「…そういう事なの」

私は、意味もなく言葉を付け加えた。


「まさか…、ルナがリアムだったとは…」

ルーカスがやっと声を出した。

「リト…、知ってたの!?」

さすがのセレスも、口をぽかんと開けて驚いていた。


「いやいや!知らなかったよ!さっき知ってびっくりしたんだもん!」

私は、先ほどの光景を説明した。


しばらく無言の時間が流れ、カイルは不思議そうに、

「…で、リアムって、誰だ?」

と言った。


だよね。

ごめん、置き去りにして。

でもちょっと待ってて、カイル。

説明すると長くなる!!


セレスは不思議そうにリアムを見つめている。


「なんだよ。そんなに見るなよ」

リアムは、みんなに観察されて少しふてくされている。


「中身がリアムだと思うと、私も勘弁だわ。せっかく純情そうないい男見つけたと思ったのに!」

セレスは残念そうに言うと、

「お前…、こえーよ…。」

リアムはセレスの迫力に怖気づいていた。

「ところで、リアムはいつからリトの事に気が付いてたの?私達よりも前にリトに出会っているわよね?」

とリアムに聞いた。


リアムは頷いて、

「ああ、リトと再会した瞬間から徐々に思い出してきたんだ。最初はルナウルフとしての本能が優先されてたけど」

と答えた。


ルーカスは興味津々で、

「それで、リアム。今人間になっている理由はなんじゃ?」

と質問した。

「数か月後に控えている日蝕の影響で、月の力が弱まっているんだ。俺がルナウルフの姿を保つのがどんどん難しくなってきて、逃げようとしたらリトに見つかったんだ」

リアムは私を方を見て、またため息をついた。


「ホント、こいつ昔っからしつこい所は変わってないよなー」

と、余計な事を言い出した。

「あんたじゃなくて、私はルナを心配してたの!」

「ルナも俺ですー。お前のそういう所、たまに余計なお世話だからな!なんか…、頑張って姿隠そうとしていたのに、腹立ってきたな…」

リアムは、本当にイライラしているようだった。

そうだよ!リアムって、こういう奴だった!!!


さっきの感動の再会はなんだったんだよ!


私も腹が立ってきてそっぽ向いた。

それを見て、ルーカスとセレスが笑っている。

「ああ、本当にリアムじゃな」

「ええ。久しぶりのこの感じ、安定の仲の悪さよね~!」


こうしていると、本当に昔に戻ったようだった。


「そういえば、リアムが狼の姿を保てなくなったって事は、元々ルナウルフは人間の姿が普通なの?」

私は、ふと気になったことを聞いた。

「ああ。元々いた村では、みんな人間の姿で暮らしていた。ランドルの奴に村の奴はほとんど殺されたけどな」

とリアム。

「はぁ!?どういう事!?」

私は、リアムの言葉に驚いた。


「魔王がいなくなって、表向きは世界は平和になったとか言うやつが多かったが、その裏で、魔族は虐殺されてる。まぁ、人間側からすると仕方がないかもしれないけどな。」

リアムの言葉に、みんな言葉が出なかった。


「俺はルナウルフとして転生して、前世の記憶なんてないまま育ったんだ。ルナウルフは神聖化されていたから、戦争にも関わっていなかったし。でも、ある日ルナウルフの集落が皇帝率いる騎士団に焼き払われた。」

リアムは、どこか他人事のように話した。

「その時、俺の体はまだ小さかったからうまく身を隠すことができた。でも、父も母も兄たちも、みんな死んだ。俺の家族を殺したのは、間違いなくランドルだった。」

淡々と話しているが、話しているリアムの瞳に怒りが見えていた。


「それは…、いつの話じゃ?」

ルーカスが聞くと、ふう…と一呼吸おいて、

「150年くらい前。」

とリアムが答えた。

「その時…ランドルはもうすでに死んでいるとされているわ。魔王との戦いから50年経った後だと…、ランドルの息子が皇帝のはずよね…?」

自分達の仮説をリアムが立証してくれるのでは…という期待でセレスが聞くと、

「いや、あれはランドルだ。ランドル本人としか思えない…。あいつ、俺の家族を殺しながら、昔話をしていた。昔裏切った仲間たちの表情が今でも忘れられないって。絶望した顔が最高だったって…。あの時は意味がわからなかったが…、確かに言ってた…。」

リアムは少し間を空けてから言った。


「ルナウルフの髪の色が、大嫌いなリアムに似ていて、いつか殺そうと思ってたんだ、って。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る