第20話 ルナの正体

「ルナ、大丈夫?どうしちゃったの?」

ルナに触れると、ルナの体が突然光り始めた。

温かい光が包み込み、その光は徐々に強くなっていった。


「嘘…」

その光の中で、ルナの体が変化していくのが見えた。

狼の形をしていた体が少しずつ人間の姿に変わり始めたのだ。

毛皮が退き、肌が露わになり、四肢は人間の形へと変わっていく。

目の前で起きている信じられない光景に、私はただ立ち尽くすしかなかった。


光がやがて消えた時、そこには美しい青年が立っていた。

彼の髪は月の光のように美しい銀色で、目は深い緑色をしていた。

その姿はどこか神秘的で、気品が漂っていた。

まるで月の光を浴びて輝く彫刻のような美しさだった。


「ルナ…?」

私は呆然と彼を見つめながら、その名を口にした。

しかし、彼は少し微笑んで頷いた。


「リト…」

その声に聞き覚えがあった。

ずっと耳の奥に残っていた懐かしい声。


「リアム…?」

私は驚きと喜びが入り混じった感情で、彼の名前を呼んだ。


「なんで追いかけてくるかな…お前は」

リアムはため息をついた後、優しく微笑んだ。


信じられない気持ちで私は彼を見つめた。

ルナがリアムだったなんて…。

そんなこと考えもしなかった。


「どうして…どうしてこんなことに?」

私は混乱しながら尋ねた。


「俺は、あの時死んでからずっと、前世の記憶がないままルナウルフとして生きてきた。でもリト、お前を認識した時、前世の記憶が蘇ったんだ」

「私を?」

「うん。ごめんな。肩の傷…。あの日も俺、不安定で…。そんな時に得体のしれないオーラを纏ったお前を警戒してた」


ああ。

初めてルナと会った日のことだ。

確かにルナは私に威嚇していた。


「お前の魔力を感じた時に、瞬時に前世の記憶が頭をよぎった。姿かたちは違うけど、すぐにリトだと認識したんだ」

と言った後、

「リト。守ってやれなくて、本当にごめん。一人残して、心細かったよな…」

リアムは、私の肩を掴み、そのまま下を向いてしまった。


私にとっても辛い記憶。

リアムにとっても辛い記憶だ。


あの時、私をかばって命を落としたリアム。

いつも喧嘩ばかりしていたけど、心の底から信頼していた。

何があっても助けてくれると、そんな風に思える仲間だった。

でも、生きていてほしかった。

私をかばって、死んでなんてほしくなかった…!


私はその時の感情を思い出して、涙が溢れてきた。

「リアムのばかーーーーー!!」

そう叫びながら、わんわんと泣いてしまった。


私があまりにも泣くから、心配して顔を覗き込むリアムの目には、やっぱり涙が溜まっていて、

「ごめん」

とずっと謝って、私を抱きしめてくれた。


どれくらい時間が経ったのか…。

私が泣きつかれてぐったりした頃、リアムがようやく体を離した。


二人とも目が腫れるまで泣いた顔をお互いに見て、笑ってしまった。


「あのさ…、どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

私はリアムに尋ねた。


リアムは少し困ったように…、

「いきなり人間になって正体を明かしたらびっくするだろうと思ってて…。いつ正体を明かそうって考えてたら、お前が抱き着いたり、俺の前で平気で着替えをしたりするようになって…」

さらに言いづらそうに

「ルナウルフだから無防備にしていた事が、俺だってバレたら、リト…怒ると思って…」

と言った。


確かに…。

私、ルナに抱き着いたり、すりすりしたり、ルナの目の前で裸になったり、下着姿でうろうろする事もあった…。


「ちょっとーーーーー!!!そんなん、早く教えてくれた方が回避できたじゃん!!」

恥ずかしくて、私はリアムに怒った。


「子供相手だけど、俺、気を遣ってたじゃん!!着替えの時とかは後ろ向いてたし!!」

リアムは弁解しているが、腹立つ!!


「もっと大人になってたらどうしてたのよ!!変態!!」

「もう少し大人になってたら…!!」

と、リアムは一度止まって、少し考えてから、

「…見るかも」

正直に言った。


こいつ…。

私は、思い切りリアムの頬をつねってやった。


「いってーな!!まったく、お前はやっぱり変わんねーな!」

リアムを頬を撫でながら、少し笑っていた。


「でも、どうして今、こんなにことになったの?」

私はさらに問い詰めた。


「これな…。月の力が弱まっているせいなんだ。数か月後に控えている日蝕の影響。月の力が一時的に弱まるみたいだ。」

リアムが説明した後、

「ルナウルフの姿が人間に戻るのを制御するの、正直きつかった…」

と、苦笑いした。


うっ…。

怒って悪かったかな…。

リアム、私に気を遣って、辛いのに体を維持してくれてたんだよね。


リアムは自分の本当の姿を隠すためにずっと苦しんでいたのだ。

体調が悪いのではなく、人間の姿を見られたくないがために、自分の姿を制御するために苦しんでいたんだ。


「いつかバレるんだったら、早く言ってくれたらそんなに苦しい思いもしなくて良かったのに…」

私が言うと、

「バレる時は、もう少しかっこよくバレたかったんだよ」

とリアム。


なんだよそれ。


「あーあ。俺って、ホント何やってもきまんないよなぁ」

と言いながら、ふてくされている。


そんなことないよ。

いつも、かっこよかったよ、リアムは。


「リアム。ずっと言いたかった。私の事を助けてくれてありがとう。そして、生まれ変わっても守ってくれてたんだね」


ルナがいなかったら、私はもっと危険な目に遭っていた。

ルナがいたから…、リアムがいてくれたから、私は仲間を得てここまで来ることができた。


リアム、ありがとう。


「だって、お前は弱いからな」

と言って笑うリアム。


「うん。私弱いから、全裸のリアムに守ってもらうね!」

私がにっこり笑って言うと、

「あっ…」

と声を上げて、リアムは自分の体を見下ろしていた。


私の無防備な姿を見た、仕返しじゃ!


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