第19話 海賊たちと、ムキムキ魔法使い
ルーカスたちが甲板に現れた瞬間、私はカイルと目が合った。
彼の目には驚きが浮かんだが、瞬時に私を人質に取ろうとした。
でも、私はその瞬間、宙を舞ってメインマストの上に立った。
カイルはギョッとして私を見上げた。
私ピーターパンみたいだな!
気分いい!!
風魔法を使えば、自分の体を浮かせる事に気づいた私は、こういう練習もしていたんだよね。
「申し訳ないが、お前の仲間は全て眠らせたぞい」
ルーカスはカイルに向かってそう言った。
仲間の海賊たちは全てルーカスの魔法で眠らされ、アレンたちが少女たちを解放している最中だった。
私は、カイルがダイアンの子孫だという事を簡単に説明した。
ルーカスもびっくりしていたが、「ダイアンはプライベート秘密主義だったからのう」と、何やら納得していた。
「カイル、悪いが、この船ごと一緒に来てもらう」
ルーカスは冷静に言った。
「何をするつもりだ?」カイルが鋭く問い返した。
「ドラゴンズリフト島に行って、君たちの話をじっくり聞かせてもらおう」
ルーカスの言葉に、
「おい…あそこは禁足地なはずだ。ドラゴンに殺されたいのか…」
カイルは、ルーカスが冗談を言っているかと思ってイライラしている。
「リヴァイアス~!顔見せて~」
私が海に向かって声を掛けると、リヴァイアスが顔を出した。
「こいつ…、ドラゴンか…?」
カイルのポーカーフェイスが崩れ、呆気に取られている。
「そういう事。ドラゴンは私達の仲間だから、とりあえず大人しくしてついてきてほしい」
私がそう言うと、カイルは状況を把握すると、
「他に選択肢はないか…」
諦めたように頷いた。
ルーカスの指示で、20人の海賊たちは手を縛られ、眠ったままの姿でエルドラに連れて行かれた。
アレンたちは別の船で解放された少女たちをアクアラインに戻す準備を整えていた。
エルドラに到着した後、カイルたちはルーカスの前で真実を語り始めた。
カイルたちは元々貴族だったのだが、5年ほど前皇帝に歯向かったために爵位を剥奪され、家族を殺されたという。
「我々の他は、みんな殺されました。子どもも妻も…」
他の海賊たちもみんな辛そうにしている。
「俺たちは復讐の機会を待っていた。公爵家の娘を使って皇帝に近づき、暗殺する計画を立てたんだ」
とカイルは冷静に語った。
ルーカスは黙って彼らの話を聞いていたが、最後に提案をした。
「君たちもエルドラの仲間にならないか?一緒に皇帝を倒そう」
魔法使いたちの中から反対の声が上がった。
「人さらいをするような奴らと手を組むなんて、無理だ」
一方で、カイルたちも拒否した。
「俺たちだって、魔法使いなんかと組むのはごめんだ。弱くて体力ないやつらの子守りなんてやってられるか!」
魔法使いたちは黙ってその言葉を聞いていたが、突然一人がローブを脱ぎ、ムキムキの体を見せた。
「魔法使いが弱い?俺たちはこの1ヵ月で自分を鍛え直したんだ。力の差はもうないぞ」
他の魔法使いたちも次々とローブを脱ぎ、鍛え抜かれた体を見せつけた。
その姿にカイルたちも驚きを隠せなかった。
ここ1ヵ月、本当に過酷な訓練をしたからね。
目が血走っていて、怖いよ…。
「お前ら、本気で鍛えてきたんだな」
とカイルにやりと笑った。
「だったら、一度腕試しといこうか」
その言葉をきっかけに、カイルの仲間たちは自力で縛られていた縄をブチン!と切った。
うわ!!
その太い縄を、力で切る事できるんだ!!
すごい力!
海賊たちは腕を回しながら、魔法使いを見ている。
魔法使い達も、手首や首をコキコキ骨を鳴らしている。
魔法使いと元貴族の海賊たちの間で激しい戦いが繰り広げられた。
魔法使いたちは魔法と筋力を駆使し、海賊たちは鍛えた体と剣技で応戦した。
戦いはしばらく続いたが、最終的には互いに疲れ果て、手を止めた。
全員が肩で息をしながらも、笑顔を浮かべていた。
「お前ら、なかなかやるじゃないか」
とカイルは息を整えながら言った。
「思ってたよりも強い。お前らとなら、一緒にやれるかもしれない」
「君たちも予想以上にタフだな」と魔法使いの一人が答えた。
「仲間になるのも悪くないかもしれない」
その時、ドラゴンが飛んできた。
海賊たちはビビっていたが、すぐにセレスは人間の姿になり、
「やだ~~!何楽しい事してるのー!?呼んでよ!!」
と言った。
その美しさに、海賊たちは口を開けて見とれている。
何はともあれ、良かったよ。
「あっ、ちなみに、私が公爵家の娘だったんだけど」
と私が暴露すると、
カイルがキョトンとして私を見た後、大笑いした。
「捕まえる?」
と私が聞いてみると、
「いや、お前は捕まえるの無理だから、やめておく」
カイルは、いい奴だ。
だって、ダイアンの子孫だもんね。
その日は、ルーカスとカイル、そしてセレスが話をするために会館にこもっていた。
マークから連絡があり、さらわれた少女たちはみんな無事に戻ってきたと連絡があった。
この島に流れてきた少女も無事に送り返すことができて良かった。
全てが丸く収まり、他の海賊と魔法使いは、酒を飲みながら親睦を深めていた。
私は、というと、ルナが心配で家で一緒に休んでいた。
ルナ…、どうしちゃったの?
ものすごく元気だったのに、突然苦しそうにする時もあるし…。
ルナは、私を守るために今回もついてきてくれたけど、絶対に体がきついはずだ。
今も息も絶え絶えになっている。
「ルナ。何か食べたいものある?」
そう聞いても答えない。
最近は食欲も落ちて、あんなにたくさん食べていたルナが、痩せてきている。
すると、突然ルナが起き上がり、走り出した。
「ちょっ、ちょっとどうしたの!!」
私はルナを追いかけた。
めちゃめちゃ速い!!
どうして急に…。
でも、これまで修行してきたんだから絶対追いついてやる!
私はルナが心配で、ルナの後を追いかけた。
山頂付近まで来た時、ルナが丸まって動かなくなっていた。
私は息を落ち着かせながら、ルナの側に行った。
「ル、ルナ…」
私がルナに触れると、ルナはその姿を変えた。
「嘘…」
私は目の前の光景が信じられなかった。
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