第18話 人違いだったけど…

ダイアンに似た大男との出会いに驚いたものの、彼が本当に前世の仲間であるかはわからなかった。

ルーカスは大男に何か話しかけたが、彼はまったく興味を示さず、むしろ私に目を向けてきた。


「お前、歳はいくつだ?」

その低く響く声に、私は一瞬ためらったが、すぐに答えた。

「16歳です」

本当は12歳だが、16歳に見えるからバレないだろう。

「そうか…」

大男はそう言うと、また酒を飲み始めた。


その夜、私は町の中を一人で歩いていた。


私がおとりになると言った時、全員が反対したが、少女たちが誘拐されている以上は時間をかけるわけにはいかなかった。


「私は大丈夫。ルナも心配しないで。前みたいな事にはならないから」

ルナは私を心から心配している表情をしていた。


少し前は、私はいざという時に魔法が使えなかった。

でも、ルーカスやセレナのおかげで、前よりもずっと精神的に強くなっている。


でも、ルナどうしたんだろう…。

最近本当に元気がない。

ずっと寝てばかりだし、表情にも覇気がなかった。


「わしらも後をつけるが、いざという時は自分の命を優先するんじゃぞ!」

ルーカスは念を押した。


警戒していたが、やはり大男が後をつけてきた。

突然彼に腕を掴まれ、私は抵抗するふりをしたが、力を抜いておいた。

「一緒に来てもらう。お前のような外見の少女を探している」

大男は低い声で言い、私を無理やり連れて行った。


これは計画の一部だ。

私が捕まったふりをすることで、ルーカス達が後を追うことになっていた。

大男に連れられて、私は海賊船に乗せられた。

船には約20人の海賊がいたが、思っていたような荒くれ者たちではなかった。

彼らはむしろ紳士的で、私に手荒なことはしなかった。


「安心して。私たちは君に危害を加えるつもりはありません」

一人の海賊が言った。

その男は、海賊の服装をしているが、どこか貴族のような雰囲気があった。


彼らは私を他の少女たちと一緒に牢屋に入れた。

少女たちは皆無事で、傷一つ負っていない様子だった。

彼女たちは恐怖を感じているようだったが、牢屋といっても清潔な場所だし、手荒なをされている形跡もなかった。


夜も更け、海賊船は静かになった。

私は隙を見て、牢屋から出て船内を探り始めた。


ルーカス達が、どこかに隠れているはずだ。

どこにいるかな…。


私は船の中を慎重に探した。

海賊たちのいびきが聞こえてきた。

見張りをしているような海賊もみんな寝ている。


この人たち、意外と危機感がなくないか!?


私は甲板を覗いてみると、大男が一人で剣の稽古をしているのを見つけた。

私は彼に近づき、声をかけた。


「…あの、大男さん」

彼は稽古を止めて私を見た。

「お前、どうしてここに来た?」

彼の鋭い目が私を見据えた。


「あなたたちは本当に海賊なの?どうして私たちを捕まえているの?」

私は彼に問いかけた。


大男はしばらく沈黙した後、ため息をついた。

「お前には関係ない。…俺たちは海賊だ」

彼の言葉に、私は何か重大な秘密があることを感じ取った。


「私達の住んでいる島に、一人の少女が流れてきたんだよね。ちょうどここにいる少女たちと一緒くらいの年齢の子」

私が言うと、私の言葉に強い反応を見せ

「あの少女は…、生きて…いるのか?」

と、私の顔を初めて真正面から見た。

「私の仲間が回復魔法で治療したから、無事だよ」

私が言うと、

「そうか…」

大男は明らかにホッとした表情をした。


大男は、それ以上しゃべらなかった。

「ダイアン」

私は、小さな声で、かつての仲間の名前を呼んだ。


大男は勢いよく振り返り、私を見た。

「私の名前はリト。よろしくね」

私は大男をじっと見たまま、名前を名乗った。


大男は少し考え込んだ後、剣をしまい、私に向き直った。

「…俺の名前はカイルだ。」

彼は私をじっと見つめた。


ダイアンの名前に反応したように見えたんだけど、私の名前を聞いても反応がない。


違うのかな…。

ルーカスやセリスと違って、カイルはダイアンの面影がある。

私も含めて生まれ変わっている仲間は、昔と見た目が違う。


ただ、似ているからそう感じただけなのかな…。


「ところで…、なぜおまえは俺の先祖の名前を言った?」

と、カイル。


ん?

先祖?


「ダイアンって、昔勇者と一緒に戦士…のつもりで言ったんだけど…」

私が言うと、

「だから、そのダイアンは俺の先祖だ」


ダイアン…子供いたのか!?

えっ?だって、あの時確か18歳くらいだったような…!

ちょっとー!!!

知らなかったんだけど!!


そうか。

だから、面影があるのか。


生まれ変わりだと思っていたので、違ったのは残念だったが、カイルを見て懐かしい気持ちになったのは気のせいではなかった。


「ごめんね。昔見た文献にあなたの先祖が載ってて、そっくりだったから」

と私はごまかした。

「ところで、私達って、これからどうなるの?」

私は単刀直入に尋ねてみた。


私があまりにもこの状況に動じていないので、カイルは笑い出した。

「お前みたいな子ども、なかなかいないぞ。安心しろ。俺たちはお前たちを傷つけるつもりはない。あの…逃げ出した少女には申し訳ない事をしたが…」

カイルは、やっと少し話をしてくれた。


「エドワード・ヴァレンティン公爵の娘が逃げ出したそうだ。珍しく皇帝もその娘に関心があるようでな。俺たちはその娘を探し、その娘を連れて皇帝に会うつもりだ。まずは年頃の娘を集めて、公爵に確認してもらう。その娘じゃなければ無事に返すつもりだ」


おっと…。

やっぱり、私が目的だったか。

っていうか、この娘の名前が「リト」だって知らないんだろうか。

まぁ、割とよくある名前らしいし、偽名を使っている可能性もあると思っているのか。


「皇帝に会ってどうするの?」

私が聞くと、

「どうするって…、殺すんだよ」

カイルはの目は真剣だった。

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