第17話 港町アクアラインにて。
アレンが連れてきた少女は意識を失っていて、体も冷たく震えていた。
彼が説明するには、この子どもは海岸沿いに流れ着いていたところを発見されたということだった。
「この子、意識がない!」
ルーカスはすぐに強い回復魔法を使った。
セレスは冷静に子どもの様子を観察しながら、
「誰かがこの子を意図的に海に捨てたのかもしれないわね。傷や外傷は見当たらないけど、何か特別な理由があるのかもしれない」
と考察を述べた。
その時、アレンが急ぎ足で戻ってきて、新たな情報を伝えた。
「ルーカス様、この子が流れ着いたのと同時に、元エルマギアの仲間からも報告がありました」
アレンには、エルマギアに住んでいたマークという親友がいた。
マークは魔力はあるものの、魔法を放出できるだけの魔力はなかった。
昔から趣味で道具に魔力をこめられないかと研究していて、今は兄がいるアクアラインで暮らしているということだった。
彼は明るく社交的な性格で、情報収集や人との交流が得意な人物だった。
マークが作っていた、スマホのような機械は、お互いの魔力を入れると通話ができるというものだった。
お互い魔力を使わないといけないという事と、まだ不安定要素が大きいということで、製品化はしていないが、いずれこういうものを売っていきたいとマークは大きな野望を抱いているらしい。
アレンはマークとその機械を使って、たまに連絡を取っていたということだった。
私もアレンとマークとは久しくしていたが、とてもいい人だ。
アレンは、話をつづけた。
「アクアラインという町では、12歳くらいの少女を中心に人さらいが行われているらしいんです。この子も…そのくらいの年齢に見えます」
その話を聞いて、私は鳥肌が立った。
もしかして、私のことで彼らが動いているのだろうか?
公爵かもしれないし、皇帝が背後にいるのかもしれない。
私が逃げたことで、周りの人々に危害が及んでいるのかもしれないという罪悪感が押し寄せてきた。
「リト、君が気にすることではない。これは皇帝の暴政によるもので、君がここに来たからこそ、彼らの悪事が露見したんだ」
とルーカスは私を慰めたが、それでもいてもたってもいられなかった。
「ルーカス、私はアクアラインに行く…。誰が何を企んでいるのか確かめないと気が済まない」
私は決意を込めて言った。
ルナも、最近体調が良くないにもかかわらず、私の決意に合わせて起き上がり、横に寄り添ってきた。
「ルナ、休んでいてもいいんだよ」
と私は優しく言ったが、ルナは首を横に振り、一緒に行くと言わんばかりの眼差しで私を見つめた。
「リト…危険だという事わかってる?」
セレスは私をじっと見つめたが、
「なんのために修行してくれたの?私のせいで罪のない子供が誘拐されてるかもしれないんだよ?黙って見てろって?」
私がセレスをにらむと、セレスはため息をついた。
「リトは昔から言ったらきかないんだから…」
ルーカスはその様子を見て同行を申し出てくれた。
「リト、一人で行かせるわけにはいかん。わしも一緒に行くぞ」
セレスはそれを聞いて少し考えた後、
「申し訳ないけど、今はドラゴンはこの島以外飛ぶわけにはいかない。先代がここ以外の空を飛ばない制約の元、人間がドラゴンを攻撃できない魔法をかけているから。しかも、あなた達がいないとなると私も同行するわけにはいかない」
と言った。
「でも、こちらは私が守るから安心して。あと、海を渡ることが得意な仲間がいるから、安全に海を渡れるようにしてあげる」
と微笑んだ。
「あの…、俺も行ってもいいですか?マークの奴、兄貴の家に居候しているみたいなんですけど、その兄貴の子供も誘拐されたらしいんです。俺も何かの役に立ちたい…」
必死になっているアレンを見て、ルーカスは同行を許可した。
どうしよう…。
きっと私のせいだ…。
助けられるなら、助けたい!!
私たちはすぐに準備を整え、海を渡るための小さな船に乗り込んだ。
ドラゴン族の一人が私たちを乗せた船を引っ張ってくれて、通常ならばもっと時間がかかるはずの航海が数日で済み、無事にアクアラインに到着することができた。
アクアラインは港町で、多くの船が停泊していた。
しかし、町の雰囲気はどこか暗く、不安が漂っていた。
アレンが連絡をとっていたので、マークが私達を見つけて走ってきた。
「ルーカス様、お元気でしたか!こんなところまで来ていただいて、ありがとうございます」
マークはルーカスに挨拶をして、私やアレンにも
「よく来てくれた…」
とお礼を言った。
「マーク、その…、少女が誘拐されてるって話なんだけど…」
私が聞くと、
「リトも、ここでは絶対に1人にならないで!ここではすでに10人ほどの少女が誘拐されている…。僕の姪も…」
マークの顔が曇る。
「何か情報はないのか?」
アレンが聞くと、
「色んな情報筋に確認をしているが、おそらく最近この辺を荒らしている海賊船に乗せられているんじゃないかとの情報があった」
と、マーク。
海賊船…。
だから、港の船があんなに停泊しているんだ。
海賊がその辺にいるなら、危険だもんね。
「その海賊たちは、この町にいるのかの?」
ルーカスが聞くと、
「海賊と名乗っていませんが、怪しい男が一人…」
マークは、やはり情報通なようで、1万人規模の人が暮らしている、かなり大きな町のアクアラインで、怪しい人物の目星がついているようだった。
「シーサイド・タヴァーン」という飲み屋があり、そこに頻繁に出入りしている、大男がいるという事だった。
シーサイド・タヴァーンは海に面したアクアラインの飲み屋で、海賊や地元の漁師たちがよく集まる賑やかな場所らしい。
私達は、そこに行ってみる事にした。
「この時間だと、いつも酒を飲んでいます。こうやって、昼間は酒を飲み、夜はどこかに行ってしまうんです」
店に行く途中、マークが説明してくれた。
なるほど、それは怪しい。
「いらっしゃいませ!」
店に入ると、酒場の女性スタッフが元気のいい声で私達に声を掛けた。
店内に広く、100人ほどが入れる大きな酒場だった。
船の装飾や航海に関するアイテムが飾られており、活気ある雰囲気が漂っていたが、店の隅に大男が座っていた。
その周辺には、誰も近寄らないのでその男の周りは空席で、にぎやかな店内なのに異様な光景だった。
「隣、いいかの?」
ルーカスが声を掛けると、女性スタッフが「ちょっとその人は…」と焦ったように声を掛けたが、ルーカスがその後も話しかけるので諦めて行ってしまった。
「…うるせーな」
と、振り向いたその大男を見て、私は直感した。
ダイアン…!!
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