第16話 人が集まらん。だってここ禁足地

訓練と開拓の結果、私たちの町「エルドラ」は少しずつ形を成していった。

セレスを中心に、ドラゴン族の助けを借りながら、私たちは魔法の基礎訓練を徹底的に行っていた。

毎日の山道100キロマラソンに加えて、精神統一や基礎魔法の修行、そして町の整備も怠らなかった。


セレスは、各々の得意な属性に関わらず、全ての属性の魔法を使えるようにするための訓練も進めていた。

ドラゴン族のマッチョイケメン達もその訓練を手伝い、私たちの能力の開発を支援してくれた。


毎朝の山道100キロマラソンでは、回復魔法に加え、補助魔法を同時に使用する技術が求められた。

最初は皆苦戦していたが、少しずつ慣れていくと、次第に体力の回復速度も上がり、長距離を走っても疲れが残らず、歩いているかのようにスムーズになった。


「一か月前の初日が嘘のようだな」

得意なエリオットが感嘆の声を上げた。

「すごいな…。昨日と比べても、さらにタイムが随分と良くなった!」

火属性のアレンも驚きを隠せない様子で言った。


「回復魔法と補助魔法を同時に使うことで、体力を保ちながら動き続けることができるんじゃ。これは戦闘でも役に立つ、持久力を高める鍵じゃよ」

ルーカスの言葉に皆が頷き、さらなる努力を誓った。


精神統一の訓練も重要だった。

セレスは精神力を強化するための瞑想法を教えてくれた。

特定の呼吸法を組み合わせた瞑想は、心を静め、魔力の流れを整える効果があるとされていた。

毎日の瞑想によって、魔法使い達は心身のバランスを取り戻し、魔力のコントロールを向上させていった。


「瞑想をすると心が落ち着くね。魔法のコントロールが前よりもずっと良くなった気がするよ」

氷の魔法を得意とするリンダが瞑想後の感想を述べた。


「精神力が強くなれば、どんな状況でも冷静に対応できるようになるわ。魔法使いにとって精神統一は欠かせない要素なの」

セレスはリンダの言葉に応え、全員に微笑んだ。


さらに、魔法の基礎技術も磨き上げられた。

セレスの指導のもと、全員が全ての属性の魔法を基礎から学び直した。

火、水、風、土、雷、光、闇といった属性の魔法をバランスよく使えるように訓練した。

特に、属性の異なる魔法を連携させる技術は、戦闘での応用力を高めるために重要だった。


「自分の属性がそれぞれあると思うんだけど、魔法が使える人はとりあえずは一通りの魔法は使えるわ。光属性の人は闇の魔法を使えないと思っている人が多いけど、光が100に対して、闇は5くらいは使えるものなの。疲労感が半端ないからみんなやらないけど」

セレスの言葉にみんな驚いた。


「えっ?そんなことできるですか?俺、火の属性だから、水とか氷とかの魔法は使えないんですけど…」

アレンが言うと、

「その、使えないっていう先入観がだめなの」

セレスがアレンに近づき、

「…赤ん坊って、歩けないわよね?でも、歩けないって思ってないから、赤ん坊はいずれ歩けるようになるのよ。あなたは、赤ん坊よ…。不可能って言葉を忘れなさい」

アレンの顔を両手ではさんで、にっこり笑うセレス。


またやってる…。

アレン、硬直して目がハートになってるよ…。


時々セレスはみんなを悩殺するので、これが飴となり、さまざまは過酷な訓練をみんな張り切っている。


実際、苦手な属性魔法を使えるようにするには、例えるならお相撲さんになる時の股割みたいな苦痛を味わうのだ。

なかなか大変なことなのに、セレスは男たちにそれをさせてしまう。


私は基礎体力や魔法のコントロールを訓練していったが、やはり爆発的に能力が伸びることはなかった。

それでも他の魔法使いとは質が違うのだと理解するようになっていた。

私の魔力は、全ての属性に対応できるだけでなく、どの魔法も高いレベルで扱うことができた。

自分が得意だと思っていた火の魔法レベルに他の魔法も難なく使える。

それと、違う属性の魔法を混ぜて使う事ができるのだ。


例えば、雷の魔法の中に氷の粒を入れる事ができたり、回復魔法の中に毒の効果を入れることが出来たり。

転生前よりも特異な魔力になっているのがわかる。


みんな気味悪がると思うので、魔法を混ぜることができるのはセレスとルーカスにしか言ってないけど。


「リトの魔力はやっぱり特異だわ。でも、やっぱり全ての属性に対応できるのに、その力を完全には引き出せていないのがもったいないわね。」

セレスは、私の魔法を見てため息をついた。


「うん…。なんとなく二人が言ってる事わかってきた。思いっきり魔法を放出しようとしても、魔力切れでもないのにプツンと切れてしまったり、なんか魔力の塊がとけきってないような、そんな感じ…」

私も自分の体で思うように魔法が使えない事が、むずがゆくなってきていた。

「まぁ、ゆっくりやっていきましょう。あと数か月で解消できるかもしれないしね」

セレスは私の肩に手を置いてそう言った。


うん。

とりあえず、神殿の儀式にかけてみよう。

…ちょっと怖いけど。



一方で、町の開拓についても少しずつ進んでいた。

エルドラの町は、まだ発展の途中だけど、住民たちが安心して生活できる基盤が少しずつ整ってきている。

町には、各家庭が住めるように小さな家が建てられていて、みんながそれぞれの生活を営んでいるのを見ると少し安心する。


町の中心には会議用の会館があって、そこは重要な話し合いや決定を行う場所。

町のみんなが集まる場所でもあり、情報共有の場でもある。

ルーカスはリーダーとしてここで日々の業務をこなしながら、エルドラの運営や計画の指導をしている。

彼のリーダーシップはみんなの信頼を集めていて、町の発展にとても重要な役割を果たしている。


私もエルドラの一員として、新しい家をルーカスの隣に建ててもらった。

ルナと一緒に住んでいるこの家は、シンプルだけどとても快適で、私たちが落ち着いて生活できる場所だ。

家の中には、私が魔法の訓練や研究をするためのスペースもあって、毎日修行に励むための環境が整っている。


町の他の部分では、ドラゴン族や魔法使い達が協力して町の開発を進めている。

商業施設や公共施設の建設も計画されていて、未来のエルドラの姿が少しずつ見えてきている感じ。

町の周囲には広がる農地があり、みんなで協力して自給自足の生活を支えるための作物を育てている。

これも町の一体感を強める大切な要素になっていると思う。



エルドラは、これからもっと仲間が増えて、さらに賑やかで豊かな場所になるはず!

なんだけど…。

ここ、人間にとっては禁足地じゃん…。

待ってても人なんか来ないっつーの…。


「だれか誘拐してくれば~?」

セレスの言葉に、みんなギョッとしていた。


セレスならやり兼ねないし、男ならホイホイついてきそうだな…。

いや、いっそそれで…。


そんな話を会館でしていると、

「ルーカス様!子ども連れてきました!!」

とアレンの声がした。


えっ!?

まさか、本当に誘拐してきちゃったの!?

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