第10話 かつての仲間の本気を見た。

エルマギアの悲劇から一ヶ月が経過した。

町の復興作業は進んでいたが、かつての賑わいを取り戻すにまだ時間がかかりそうだ。

その間、私とルナも復興作業を手伝った


「これからどうするの?」

私はルーカスに聞いた。

「住民たち一人一人に選択してもらうつもりじゃ。」


ルーカスがラターシュだったとわかった後、なんだかかなり年上だと思えず、同年代の友人として接してしまう。


ラターシュは、私のお兄さんみたいな存在で、ものすごく仲が良かった。

リアムに悪態をつかれて悔しくて泣いた時も、一緒にいて慰めてくれていたっけ。


昔の名前で呼ぶのは、危険な事もあるので人前では絶対に前世の話をしないことと、「ラターシュ」の名前は出さないようにと言われた。

「理由は後に話す」ということで、私はそれ以上深くは聞かなかった。

その代わり、「親しみをこめて、ルーカスと呼んでくれ」と、言って笑っていた。


今は、しわだらけのおじいさんの姿だけど、昔と変わらない笑顔に、私は安心した。


お互いの前世がわかったあの日、私は自分が公爵家で生まれたこと、母親を亡くしたこと、皇帝の息子と結婚させられそうになって逃げてきたことを、ルーカスに話した。


「私、絶対にランドルの子孫なんかと結婚なんて考えられなかった。絶対無理。そして、ここにきて、本当に逃げ出して良かったと思った!!子孫も最低!!」

私は机をたたきながら言った。

「ああ。だからリトは自分のせいでこの町が攻撃されたと思ったのか…。おそらく、花嫁候補になんか、あまり固執はせんだろう。公爵家には何かしらの制裁は下るじゃろうが」


ルーカスの話を聞いて、たしかにそうだと思った。

皇帝の息子の花嫁候補は、他にもたくさんいるというし、皇帝にもたくさんの奥さんがいると聞いた。

大奥みたいな感じかな?と考えたこともあったけど、全然違って、側室とか愛人という立ち位置ではなく、同じ権利を持つ皇后がたくさんいるという感じらしい。


そして、その皇后の中で殺し合いもかなりあるみたいで、皇帝が変わるころには、皇后はほぼ死んでいないということだ。


世も末だな。


それでも、金や権力を欲しがり、皇后の座に就こうとする女性は多いらしいというから、驚きだ。

皇后の親は、かなりの金をもらうようで、皇帝にこびへつらい自分の娘を皇室に嫁がせる貴族が多いのだとか。


私が逃げ出したことで、あの公爵家もおしまいかもしれないな。

私を血眼になって探すとも考えられるが、数日の間にこんなに遠くに来ているとは思わないだろう。

なんの後ろ盾もない私が、山道を抜けてこんな遠くの町に来ることができているなんて夢にも思っていないと思う。


「ルーカスは…、これからもここに住むの?」

「いいや。実は、わしはもうここを離れようと思う。」

ルーカスは、寂しそうに笑った。

「わしがこの町からいなくなれば、きっとこの町への攻撃はもうないだろう。皇室に白旗をあげ、わしが去ることが、ここに残るものを守る最後の手段なんじゃ」


「そんな…」

「わしはルーカスに生まれ変わってからしばらくは、皇居に住んでおった。皇室のために戦争にいき、上級魔法使いとして名を残していた。歳を取り戦争には行けなくなり、ようやく城を出る事を許されての。しかし、あれから100年経ち、エルマギアという町を作り上げ、わしが皇室の命令に背くようになってから、常に危険はつき纏っておった。ここでしか生産できないマナクリスタルを献上していれば、皇帝の機嫌をとれると考えていたわしが浅はかじゃった。」

ルーカスは、肩を落とし、

「亡くなった者達には、本当に申し訳ない事をした。それでもこの町に残りたいという人間がいれば、わしはこの町を次こそ守りたい」

悲しそうだったが、決意は固いようだった。


私は生まれ変わって12年しか経ってないけど、ルーカスはここで200年生きている。

魔力が強い人間は、200年から300年生きることが可能だということだったが、長生きするとその分、色んな葛藤がありながら、苦労してここまで生きてきたんだな。




あの悲劇から一か月。

復興作業の最中だったが、ルーカスは住人達を広場へ集めた。

私とルナは、少し離れたところにいて、その様子を見守った。


「皆の者、今日は大切な話をしに来たのじゃ」

ルーカスさんの声が響くと、広場のざわめきが静まった。


「聞いてほしい。わしは、皇帝と公約を結んだ。現在わしが所有しているマナクリスタルを8割献上すること、上級魔法使いのエルマギアの出入りを禁止すること、そして、このわしもエルマギアには二度と足を踏み入れないという条件で、皇帝からエルマギアへの攻撃は二度としないという公約じゃ。」


事実上、ルーカスと上級魔法使いはこの町からの追放されるという事だ。


ルーカスの言葉に、住民たちがざわつく。

「これは、魔法契約におけるものだから、破られることはない。この町に住み続けたい中級以下魔法使い、魔力を持たない者は、今後この町で安全に住み続けられる。町を出て行っても良い。どうか、それぞれの意思で決めてほしい。」


住民に5日間の猶予を与え、その間に自分たちの行く先を決めるように呼びかけた。

エルマギアに残るか、他の町に移動するか、それぞれが自分の未来を考える時間を持った。



5日後、住民たちはもう一度広場に集まった。

全員、ルーカスの言葉を待っているようだった。

ルーカスは、深呼吸をしてから、住民一人一人に語りかけるように話し始めた。


「残ることを決めた者たち、君たちの決断を尊重する。この町を再び立ち上げ、素晴らしい場所にするために頑張ってほしい。君たちの努力が、エルマギアの未来を築くのじゃ」

多くの人々が決意を新たにした表情を見せた。


「他の場所へ行くことを選んだ者たちも、決して孤独ではない。新しい場所でも、君たちの力を発揮してほしい。どこに行こうとも、君たちの心にはエルマギアの精神が宿っておる」

ルーカスは優しく微笑みながら言った。


結局、8割以上の人は、ルーカスが結んでくれた公約のおかげか、この町に残る事を選択した。

上級魔法使いと、親戚や友人の元を頼りに他の町に移住を決めた人達はまちを出て行く準備を始めた。


ルーカスはいったいどこに行くつもりだろう。

どこに行っても、どこかの町の人達に迷惑をかけるかもしれないから、自分達で小さな町を作って暮らそうと思う…とか言ってたけど…。


上級魔法使い達の中でも、かなりの実力者たち30人ほどがルーカスについて行くらしい…。

この上級魔法使いの集団…、中規模くらいの戦争ならこの人数で勝てちゃうんじゃないかってくらいの実力者の集まりだ。


その夜。

死者への弔いと、それぞれの旅立ち宴を併せた盛大な祭りが開催された。

住民たちはみんな泣き、笑い、そして、語り合った。


遺体はそれまできちんと保存されていたが、天国へと旅立てるように、虹色の炎で一斉に焼かれていた。

あの悲劇から1ヵ月半が経ち、遺族たちもしっかりとお別れができる心境になっているようだった。


たくさんの魔法使いが様々な色の炎を出すのが、本当に不思議な光景に見えた。


私も、知人とのお別れに、青い炎を放った。

ルナも遠吠えをして、死者を弔っているようだった。

本当に知能が高い魔獣だ。


日本にいた時には、死者のための祭りなんて考えられなかったけど、にぎやかに泣いたり笑いあう姿が弔いになる事もあるのだと思った。


祭りは、夜が明けるまで続いた。


「ルナ。私もルーカスと一緒に行こうと思う。ついてきてくれる?」

とルナに聞くと、頭を下げて私にすり寄ってきた。


ルナウルフを調べた時、「ルナウルフは特定の人間と心を通わせることができ、その人間に対して忠誠を誓う」と書かれていた。

どうして私なのか、そこは謎だが、もしかするとルナも私の大賢者としての魂を感じて特別に思ってくれたのかもしれない。


心細い時に側にいてくれたルナには感謝しているし、これほど頼もしい相棒はいないと思う。


私はルーカスに、

「私も一緒に行く」

と伝えた。

「リト…。言っておくが、いばらの道じゃぞ?後戻りはできんぞ?」

ルーカスは、何度も確認した。


わかってる。

いちから町を作るんだから、大変なのは百も承知。


「公爵家からの追っ手を気にしているんだったら、もうリトは十分にそいつらに勝てるだけの力はある。ルナもいる事だし、安全な国に渡って暮らす事だってできるんじゃぞ?必要ならわしの知り合いを紹介してやろう」

とルーカスは言ってくれた。


たしかに、今の私は、その辺のチンピラが10人束でかかって来ても余裕で倒せるくらいの力がある。

魔法のコントロールだってできるようになったし、魔力もかなり向上した。

ルナだっているから、安全に旅はできると思う。

でも、私は心の底から信頼している仲間と離れたくはなかった。


「ううん。ルーカスと一緒に行って、もっと魔法の勉強もしたい。私まだ12歳だし、この世界の事もっと学びたいの。独り立ちするのはそれからでも遅くない!」

私が譲らないので、

「わかった…。」

ルーカスはしぶしぶ承諾してくれたのだった。



そして、ルーカスと共に新天地へ向かうことを決めた私たちは、体を休めたあと町の外れに集まった。

そこにはルーカス、上級魔法使い達が用意した移動魔法のための大きな魔法陣が描かれていた。


「長老様!みなさん!これまで本当にありがとうございました!」

町の人達も私達を見送ってくれた。

私達は最後の挨拶をして、町のみんなに手を振った。


「皆の者、準備はよいか?」

ルーカスの声に、全員が力強く頷いた。


「では、皆の衆、お元気で。」

ルーカスは町の人達に笑顔を向けると、呪文を唱え始めた。


それが合図のようで、魔法陣が輝きを放ち、私たちは一瞬にして別の場所へと転移した。



転移した場所は、美しい自然に囲まれた広大な土地だった。

山や森、川が流れ、海も見える。


「ここが新しい場所か…。」


って、ここってどこなんだろう。


私がそう思ってルーカスを見ると、にっこり笑った後、急に大きな声を出した。

「さあ、皆の者…。皇帝への復讐の始まりじゃぁああああ!!!!」


突然の大声に、珍しくルナもビクッ!!となっていた。


えっ…?

キャラ変…!?

皇帝に復讐する!?


上級魔法使いの皆様も、とってもおしとやかな人達ばかりだと思っていたのに、

「うおおおおぉおおおおぉおおお!!!」

って、なってる…!


そのまま叫びながら、魔法使い達は上級魔法を次々に放ち、森の木をなぎ倒し焼き払い、あっという間に開拓地に向く土地が出来上がったのだった…。


大きさにして、東京ドーム二個分くらい。


魔法使い…怖っ!!!

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